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第2章 冒険者達
時間稼ぎ
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「はい、あ~ん」
聖水を振りかけてからずっと意識が朦朧としていたアンススはようやく口を開けて、もそもそとクッキーを咀嚼した。
「だからそんなことしてる場合じゃないでしょうが! さっさと依頼の確認をだな!」
なんだか伯爵をからかうのが楽しくなってきたな。もうちょっとおちょくってみるか。おっと、その前に。
「そうだ、ミンティアさん。俺の方の依頼も完了したから夫人に連絡取ってよ」
「ちょ、ちょっと待て、私の依頼の方が先だ」
お前の依頼じゃねえだろうが。イークさんの依頼だろうが。
「ああ、もちろんイークさんだけじゃなくフェンネ夫人にも連絡してもらうようにお願いしておきましたよ」
「か、勝手なことを!」
何を焦ってるんだコイツは。ついでなんだから勝手でも何でもないだろうが。そんなに奥さんの事が怖いのか?
「はい、アンスス。クッキーばっかだと口の中渇くだろ。お茶も飲みな。ふーっ、ふーっ」
少しハーブティーを冷ましてから口に運んでやると、まだ表情はぼうっとしてるようだが大人しくこくりとお茶を飲んだ。
「ありがとう……ケンジくん」
アンススも大分落ち着いてきたみたいだな。正直言ってずっと意識が朦朧としてるみたいだったからアンデッド化の無効化に失敗したのかな? とも思ってたけど、これなら大丈夫だろう。
アンススはふうっと大きくため息をつくと、今度は自分からクッキーを手に取って口に入れた。
「いろいろ思うことはあるが、本当にありがとう。ケンジくん。やっぱり、こうして一息ついてみると、生きている事こそが何よりの……」
「だから!! そんな話はどうでもいいだろうが!!」
なんなんだよこのおっさん。今いい雰囲気だったのが分からねえのかよ。空気の読めない奴だな。
「イークからの依頼はダンジョンへ行って、伯爵の捜索。それが完了したんだから一件落着。それでいいな?」
だからアンススがよくても俺が良くねえよ。俺は夫人から依頼を受けてんだよ。
「アンスス君。成功報酬については後日ギルドを通して支払いをする。私は屋敷に帰るのでこれで」
「いや待てよ」
俺はがっしりと伯爵の手首を掴んだ。
「な、なんだ!? 放したまえ。無礼だぞ!」
「あんたの方こそ世界を救いに来た勇者様に無礼だな。何をそんなに急いでんだ」
俺はちらりとアスタロウの方に視線を向けた。
「おい、なんとか言ってやってくれ」
「伯爵よ、何をそんなに焦っておる? イーク殿も夫人も来るなら一緒に話を聞けばいいだろう? 何かやましい事でもあるのか?」
「や、やましい事だと? 無礼な! それが伯爵に対する口のきき方か!!」
お前の方こそそれが先代国王に対する口のきき方か。
「まあお茶でも飲んで落ち着けって。あんたどのくらい監禁されてたんだ?」
「二年くらいだが、今そんなことはどうでもいいだろうが! こんなところに居ても時間の無駄だ。イークが後から来るだろうが、私は先に屋敷に向かうぞ」
二年か、思ったより長いな。せいぜい数ヶ月かと思ってた。
「ところであんた、ドッペルゲンガーと人間を見分ける方法知ってるか?」
今にもギルドを後にしようとしていた伯爵の動きがピタリと止まる。
「見分ける方法? そんなものあるのか?」
「ああ。ドッペルゲンガーは幽体だからな。物を食うことが出来ない」
「フンッ」
伯爵は鼻で笑うと、椅子に座り、クッキーを口に運び、お茶でそれを流し込んだ。
「急いでるんじゃなかったのか? 暢気にクッキーなんか食って。俺はそれを伯爵に試してみろって言いたかっただけなんだが?」
伯爵の顔がさっと青ざめた。やっぱりこいつ怪しいわ。アスタロウの顔も知らなかったみたいだし。現役の伯爵が先代国王の顔知らんなんてあり得んだろう。
しかし誤解の無いように言っておくが、俺は別にこいつの正体をここで暴こうなんて気はさらさらない。ぶっちゃけこいつが何者なのかなんて興味ない。
ただ、どうせ当事者が全員ここに集まるって言うんならこいつもここにいた方が話が早いだろうってだけだ。
そうこうしているうちにギルドの出入り口の辺りが騒がしくなってきた。ようやく役者がそろったようだ。伯爵の方は一瞬立ち上がろうとしたものの、観念したのかため息をついて再び着席した。
まあ、ここまでの流れからしてこいつはまず間違いなく伯爵本人じゃなくて「ドッペルゲンガー」の方だろう。
こいつ自身もさることながらブラックモアの方も今思い返してみれば怪しかった。たしかにあのフレッシュゴーレムは強力ではあったものの、魔王軍の四天王の手勢があれ一匹しかいないっていうのはいくらなんでもおかしいだろう。
あれは多分わざと見逃されたんだ。
問題は「何故そんな事をしたのか」ってことだ。なんせ俺への依頼は「真実を明らかにすること」だからな。
「で、ですから、奥様はお屋敷で待っていてください、と。ギルドの方の問題は私が解決しますから」
「だから私もギルドに依頼していると言ってるでしょうが! 分からない奴ね!!」
フェルネッド伯爵家の家宰イークとフェンネ夫人は当然のことながら二人同時にギルドに到着した。激しく言い争いながら。
さて、ここまでは大方予想通りだ。やっぱりイークと夫人は別の思惑で動いている。とはいえ俺も話の全貌が見えてるわけじゃない。ここからの選択を間違えると全てが台無しになりかねない。慎重に動かないと。
なんせ俺への依頼は「真実を明らかにすること」だからな。
「勇者様、依頼の内容が完了したと聞きましたわ」
「アンススさん。どうもありがとうございました。これは依頼の報酬です!」
気が早い事だ。家宰のイークの方はもうテーブルの上に金子をテーブルの上に置いて話を終えようとしてる。
「え……? 報酬?」
一方のアンススは話が急展開過ぎてついていけない様子だ。
「ミンティアさん!!」
依頼の内容も依頼人も覚えてないような奴に話を進めようとするのがそもそも無理なんだ。それはイークの方も理解したようで受付嬢を呼びつけた。そもそもギルドが仕事を仲介してるんだからこの行動は正しい。
「依頼内容は完了です。では、私は御屋形様をお引き取り致しますので……」
「お待ちになって」
当然そうはいかない。イークを止めたのはフェンネ夫人だ。
「まだ私の依頼が解決してませんわよ。そしてそのためには今伯爵を連れ去られては困るの。違うかしら? 勇者様?」
「ああ? まあ」
直接の俺の依頼人ではあるものの、そもそもこの夫人が一番怪しいんだよな。アンススへの依頼上書きの件もあるし。
「ま、待てぃッ!!」
バン、と大きな音と共にギルドのドアが勢いよく開かれた。
「儂の偽物め!! 勝手な真似は許さんぞ!!」
聖水を振りかけてからずっと意識が朦朧としていたアンススはようやく口を開けて、もそもそとクッキーを咀嚼した。
「だからそんなことしてる場合じゃないでしょうが! さっさと依頼の確認をだな!」
なんだか伯爵をからかうのが楽しくなってきたな。もうちょっとおちょくってみるか。おっと、その前に。
「そうだ、ミンティアさん。俺の方の依頼も完了したから夫人に連絡取ってよ」
「ちょ、ちょっと待て、私の依頼の方が先だ」
お前の依頼じゃねえだろうが。イークさんの依頼だろうが。
「ああ、もちろんイークさんだけじゃなくフェンネ夫人にも連絡してもらうようにお願いしておきましたよ」
「か、勝手なことを!」
何を焦ってるんだコイツは。ついでなんだから勝手でも何でもないだろうが。そんなに奥さんの事が怖いのか?
「はい、アンスス。クッキーばっかだと口の中渇くだろ。お茶も飲みな。ふーっ、ふーっ」
少しハーブティーを冷ましてから口に運んでやると、まだ表情はぼうっとしてるようだが大人しくこくりとお茶を飲んだ。
「ありがとう……ケンジくん」
アンススも大分落ち着いてきたみたいだな。正直言ってずっと意識が朦朧としてるみたいだったからアンデッド化の無効化に失敗したのかな? とも思ってたけど、これなら大丈夫だろう。
アンススはふうっと大きくため息をつくと、今度は自分からクッキーを手に取って口に入れた。
「いろいろ思うことはあるが、本当にありがとう。ケンジくん。やっぱり、こうして一息ついてみると、生きている事こそが何よりの……」
「だから!! そんな話はどうでもいいだろうが!!」
なんなんだよこのおっさん。今いい雰囲気だったのが分からねえのかよ。空気の読めない奴だな。
「イークからの依頼はダンジョンへ行って、伯爵の捜索。それが完了したんだから一件落着。それでいいな?」
だからアンススがよくても俺が良くねえよ。俺は夫人から依頼を受けてんだよ。
「アンスス君。成功報酬については後日ギルドを通して支払いをする。私は屋敷に帰るのでこれで」
「いや待てよ」
俺はがっしりと伯爵の手首を掴んだ。
「な、なんだ!? 放したまえ。無礼だぞ!」
「あんたの方こそ世界を救いに来た勇者様に無礼だな。何をそんなに急いでんだ」
俺はちらりとアスタロウの方に視線を向けた。
「おい、なんとか言ってやってくれ」
「伯爵よ、何をそんなに焦っておる? イーク殿も夫人も来るなら一緒に話を聞けばいいだろう? 何かやましい事でもあるのか?」
「や、やましい事だと? 無礼な! それが伯爵に対する口のきき方か!!」
お前の方こそそれが先代国王に対する口のきき方か。
「まあお茶でも飲んで落ち着けって。あんたどのくらい監禁されてたんだ?」
「二年くらいだが、今そんなことはどうでもいいだろうが! こんなところに居ても時間の無駄だ。イークが後から来るだろうが、私は先に屋敷に向かうぞ」
二年か、思ったより長いな。せいぜい数ヶ月かと思ってた。
「ところであんた、ドッペルゲンガーと人間を見分ける方法知ってるか?」
今にもギルドを後にしようとしていた伯爵の動きがピタリと止まる。
「見分ける方法? そんなものあるのか?」
「ああ。ドッペルゲンガーは幽体だからな。物を食うことが出来ない」
「フンッ」
伯爵は鼻で笑うと、椅子に座り、クッキーを口に運び、お茶でそれを流し込んだ。
「急いでるんじゃなかったのか? 暢気にクッキーなんか食って。俺はそれを伯爵に試してみろって言いたかっただけなんだが?」
伯爵の顔がさっと青ざめた。やっぱりこいつ怪しいわ。アスタロウの顔も知らなかったみたいだし。現役の伯爵が先代国王の顔知らんなんてあり得んだろう。
しかし誤解の無いように言っておくが、俺は別にこいつの正体をここで暴こうなんて気はさらさらない。ぶっちゃけこいつが何者なのかなんて興味ない。
ただ、どうせ当事者が全員ここに集まるって言うんならこいつもここにいた方が話が早いだろうってだけだ。
そうこうしているうちにギルドの出入り口の辺りが騒がしくなってきた。ようやく役者がそろったようだ。伯爵の方は一瞬立ち上がろうとしたものの、観念したのかため息をついて再び着席した。
まあ、ここまでの流れからしてこいつはまず間違いなく伯爵本人じゃなくて「ドッペルゲンガー」の方だろう。
こいつ自身もさることながらブラックモアの方も今思い返してみれば怪しかった。たしかにあのフレッシュゴーレムは強力ではあったものの、魔王軍の四天王の手勢があれ一匹しかいないっていうのはいくらなんでもおかしいだろう。
あれは多分わざと見逃されたんだ。
問題は「何故そんな事をしたのか」ってことだ。なんせ俺への依頼は「真実を明らかにすること」だからな。
「で、ですから、奥様はお屋敷で待っていてください、と。ギルドの方の問題は私が解決しますから」
「だから私もギルドに依頼していると言ってるでしょうが! 分からない奴ね!!」
フェルネッド伯爵家の家宰イークとフェンネ夫人は当然のことながら二人同時にギルドに到着した。激しく言い争いながら。
さて、ここまでは大方予想通りだ。やっぱりイークと夫人は別の思惑で動いている。とはいえ俺も話の全貌が見えてるわけじゃない。ここからの選択を間違えると全てが台無しになりかねない。慎重に動かないと。
なんせ俺への依頼は「真実を明らかにすること」だからな。
「勇者様、依頼の内容が完了したと聞きましたわ」
「アンススさん。どうもありがとうございました。これは依頼の報酬です!」
気が早い事だ。家宰のイークの方はもうテーブルの上に金子をテーブルの上に置いて話を終えようとしてる。
「え……? 報酬?」
一方のアンススは話が急展開過ぎてついていけない様子だ。
「ミンティアさん!!」
依頼の内容も依頼人も覚えてないような奴に話を進めようとするのがそもそも無理なんだ。それはイークの方も理解したようで受付嬢を呼びつけた。そもそもギルドが仕事を仲介してるんだからこの行動は正しい。
「依頼内容は完了です。では、私は御屋形様をお引き取り致しますので……」
「お待ちになって」
当然そうはいかない。イークを止めたのはフェンネ夫人だ。
「まだ私の依頼が解決してませんわよ。そしてそのためには今伯爵を連れ去られては困るの。違うかしら? 勇者様?」
「ああ? まあ」
直接の俺の依頼人ではあるものの、そもそもこの夫人が一番怪しいんだよな。アンススへの依頼上書きの件もあるし。
「ま、待てぃッ!!」
バン、と大きな音と共にギルドのドアが勢いよく開かれた。
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