武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

文字の大きさ
34 / 123
第2章 冒険者達

息ぴったり

しおりを挟む
 ギルドのドアを勢いよく開けて中に入ってきたのは、まさしく伯爵だった。基本的にはこちら側にいる伯爵と全く同じ外見。服装も同じ。

 ただ、違うところがあるとすれば、ダンジョンから助け出した伯爵は大分痩せこけていて、顎髭が生えているところだろうか。二年も監禁されてたんだから当たり前だが。

 いったい何しに来やがったんだこいつは?

 仮に俺が考えている通りの真相だったとしても、今こいつがここに姿を現して得する事なんか何もないはずなんだが。

「伯爵が二人? 何が起きてるんだ」
「どういう状況なんだこれ」

 偶然ギルドに居合わせていた、おそらく冒険者達。先ほどから大声で騒いでる俺達に注目してはいたが、伯爵が二人現れたことから混乱に陥ってるようだ。

「ケンジくん、これはいったいどういうこと?」

 アンススも混乱している。まあ、どちらが本物の伯爵だとしても、二人が鉢合わせする展開なんて予想外だっただろうしな。

「なんで伯爵が二人もいるの?」

 そこからか。

 ドッペルゲンガーの話聞いてなかったのか。

「おのれ、魔物め!! 人の姿そっくりに化けて人心を惑わすドッペルゲンガーよ、儂の姿そっくりに化けて入れ替わるつもりか!!」

 説明セリフのような言葉を吐いて後から来た伯爵が武器を構える。

 しかし、構えている武器が、何故か『剃刀』。

 そして左手にはシェービングクリームの乗っかったブラシ。

 なるほどね。

 何を考えてるのかは大体わかったぞ。

 とはいうものの、正直言って出遅れた。俺達と卓を囲んでいた痩せこけた方の伯爵は既に立ち上がって、後から来た方の伯爵と対峙して構えをとっている。

「ほざけ、貴様の方こそ偽物め! この儂が返り討ちにしてくれるわ!!」

 二年間監禁されてた設定なんだからせめてもうちょっと体調悪そうにしろよ。

「うおおおおおおお!!」
「どりゃあああああ!!」

 そして二人は激突する。意図に気付いた俺ですら対応できなかったんだ。状況すら把握できてない周りの人間はこれをただ見ているだけしかできなかった。

「これは……」
「なんという闘い!」
「ケ・ン・カ・雲……見事な」



けんか-ぐも 【喧嘩雲】[名]

 主に人同士の喧嘩、特に肉弾戦の取っ組み合いが発生した場合に戦いの簡略化と喧嘩の記号的表現として使用される雲。

 表現としては喧嘩により地面を転がることによって埃が舞い散り、煙のように視界が遮られることを表している。

 通常であれば土埃の多い屋外か、よほど埃のたまっている屋内でもなければこのような煙は発生しないが、熟練のケンカ雲職人同士の仕事ともなれば完全にその視界がシャットアウトされてしまうほどのケンカ雲を発生させることが出来るという。


 段々と埃が収まり、ケンカ雲が晴れていく。

 はあはあと荒い呼吸音が聞こえ、煙の中から二人のおっさんが姿を現す。

「あ……? 伯爵が二人?」
「全く同じ外見だぞ?」

 やられた。煙の中から姿を現した二人の伯爵は、全く同じ外見をしていた。

 まあ、髭剃りセットを出した時点で何となく嫌な予感はしていたものの、それ以外にもダンジョンに監禁されていた方は着ていた服もボロボロで痩せこけていたのに、ケンカ雲が収まると体形も服も全く同じになっていた。

 今更説明するまでもないが、二人の内の一人、ダンジョンで保護した方がドッペルゲンガー、というか、シェイプシフター。自在に外見を変更することのできるモンスターだ。

 それが分かっていたのにこの事態を防げなかったのは俺の失態だ。今のどさくさでどっちがどっちか分からなくなってしまった。

「むっ、今の取っ組み合いの際に髭が全部なくなってしまったぞ!」

 二人はほぼ同時に、まあ似たような内容のセリフを呟いた。わざとらしい。

「むう、伯爵殿、これではどちらがどちらか分からんな」
「そうだな、伯爵殿。この件は一旦持ち帰って後で結論を出すとしよう。それでいいな?」

 お前らなんでそんなに仲がいいんだよ。もう隠す気すらないな。

「というわけでイーク!」

「はい、旦那様」

「アンスス君に依頼の成功報酬を。儂ら二人はとりあえず屋敷に帰る」

「かしこまりました」

 アンススは全く事態が呑み込めていない。目視できるくらいの巨大な疑問符を浮かべてはいるものの、しかし何をどうやっても彼女の理解の範疇にないのだ。言われるがままに金子きんすを受け取って阿呆のような顔を浮かべている。

 このままでいいのか?

 いいわけがない。

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 俺が止めるより先に声をあげたのは伯爵夫人フェンネさんだった。この事件のもう一人の黒幕。
 この事件いったい何人黒幕がいるんだよ。とは思うものの、一応この女が俺にとっての正当な「依頼者」だ。

「というか、あんたら何仲良くしてんのよ。二人のうちのどっちかは魔物なんでしょうが!」

 フェンネさんの主張は至極真っ当なもの。

「いやでも、ここで揉めても何の解決にもならないでしょ?」
「ギルドの皆さんに迷惑がかかるでしょ?」

 二人の伯爵は呼吸を揃えてフェンネさんに反論してくる。理屈は正しいんだけどこの状況がすでに異常だ。

「じゃあ一旦持ち帰って向こうで結論出した方がいいよね?」

 最後は二人でハモってこたえた。

「いや、どちらが偽物かを見分ける方法はあるよ」

 もうちょっと見てても良かったけど、もう外も暗くなってきたので俺は口を挟むことにした。

「その前にミンティア。悪いけど人払いをお願いできるか?」

「え? ええ。もう陽も暮れたしギルドの通常業務は終了してるから大丈夫ですけど……」

 通常ならギルドの業務が終わっても飲食店の方は営業を続けてるらしいが、今日は特別に早く締めて貰った。別に偽伯爵を見極めるために必要だったわけじゃない。ただ「今後」の事を話すうえで一般の領民の目があるとまずかったからだ。

「さて、アンスス。俺達と一緒にダンジョンから帰ってきた方はどっちかな?」

 質問するとすぐにアンススは一方の襟首を掴んでぐいと引っ張る。

「こっちよ。さっき一緒にハーブティーを飲んでた方は」

 ハリネズミ級冒険者を舐めるなよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...