武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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第3章 勃つ年

竜の花嫁

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「そういえばアスタロウ」

 冒険者登録をしたアーガスの街の少し北。小さな村の宿屋の食堂で飯を食いながら俺はアスタロウに声をかけた。

「俺以外の異世界からの転移者って今どうしてるんだ? 前に聞いた話じゃたくさんいるんだろう?」

「ふむ……」

 アスタロウは腕組みして考え込んだ。何を言い淀むことがあるっていうんだ? もしかして使えない奴は始末してるとか……そんな物騒な話じゃないだろうな。

「いるにはいるが、この三百年間の間に十数人じゃからのう。とりあえず今王都にはおらん」

「なあ、召喚されて剣が抜けなかった奴ってどうなったんだ? まさか始末されたりしてないよな?」

 俺は我慢できなくなってもう直接的に聞くことにした。正直言ってこれは他人事じゃないしな。俺は聖剣を抜くことは出来たけど、この先もし戦えなくなったり、アホ共に付き合いきれなくなって戦うのが嫌になった時に、その先の事は知っておいた方が選択肢は多くなる。

「確か、丁度この近くに一人おったはずじゃ。高齢の筈じゃから、まだ生きておればの話じゃがな」

 この近く? 俺は宿の外の風景を思い出した。アーガスはまだ地方都市として栄えていた印象を受けたが、ここは既に「町」の規模じゃなく「村」という印象を受けたが、この寂れた村に勇者がいるのか?

「いるのはこの村じゃないぞ。少し離れたところにひっそりと居を構えていたはずじゃ」

「まさか追放されたってんじゃないよな?」

「まさか! お主はアルトーレ王国を何だと思っとるんじゃ。聖剣が抜けなかったからといって無体に扱う事などせんわ」

 どうかな? 所詮は蛮族のすることだからな。こいつらに人権って概念あるのかね?

「聖剣を抜けなかった者はほとんどの場合王宮に残って、その知識を生かし、アドバイザーとなることが常じゃが、その男はかなり変わり者でのう」

 ケツに聖剣刺す奴に変わり者とか言われたくないだろうなあ、そいつも。

「なにかよほど元の世界に未練があったようでのう。ずっと山に籠って、元の世界に在った『なにか』と再現するための研究をしとったようじゃ」

 ああ、なるほどなあ。元の世界に在ってここにはないものか。なんかそういうの聞くと俺もちょっとおセンチな気分になってくるな。

 正直元の世界に対して親しい友達なんかいなかったけど、もう両親にも会うことが出来ないのかな、とか……とか……まあ、両親くらいだな。

 あ、でもホラ、ベルセルクの続き読みたいな、とかウォシュレットのトイレ使いたいなとかはよく思うよ。あとスマホも欲しい。女神の都合でこんな世界に無理やり連れてこられたんだから、いろいろと思うところはある。

 あとそうだな、ジャンボ宝くじにも当たりたかったし、可愛い彼女も欲しかった。あとは……えっと、アラブの王族と友人になって油田の権利を貰ったりとかしたかったし……

『ケンジさんの汚い欲望垂れ流すのはその辺にしておいてもらえますか』

 うお、久しぶりに出て来たな女神。

『後半は殆ど日本に居ても叶わない願いだし、私関係ないですよね?』

 あ? 可愛い彼女は出来るだろふざけんな。

『そもそも、信号無視で勝手に死んだケンジさんをこうして異世界とはいえ人生のアディショナルタイムやらせてあげてるんですから感謝こそすれ恨まれるいわれはないです』

 うるせーな、心の中で何思おうが俺の勝手だろうが。それはまあ置いておいてだ。

「もし近いんならその勇者っていうか、転移者に会ってみたいんだけど、遠いか?」

「ん? まあ、大した寄り道にはならんがのう。では少し寄ってみるとするか」

 小さな村とはいえ幸いにも保存食の補充には事欠かなかったし、旅の中継地点にするには充分な規模だ。アスタロウの話によれば歩いて一日はかからない距離だというし、是非話を聞いてみたい。

「あの、少しよろしいですか?」

「ん?」

 二人で話しながら食事をしていると頭の禿げたおっさんが話しかけてきた。

「盗み聞きする様で申し訳ないのですが、もしや、噂に聞いている勇者様でしょうか? 魔王を討伐する旅に出ているという……」

 なんだよまたこのパターンかよ。しょうがねえな、プライベートで飲んでる時に。

「実は、勇者様のお力を貸していただきたいことがありまして……」

「ん……まあ、一応聞くだけは聞くけど……」

 俺はちらりとアスタロウの方を見てからおっさんに答えた。アスタロウは特に表情を変えてはいなかったが、おそらく「困ってる人がいるなら助けてくれ」と言うだろう。

 まあ、勇者としてはスポンサー(王家)の意向は最大限汲もうとは思う。しかし正直言ってアーガスの時みたいな領主がどうのこうのいう問題にはもうあんまり首を突っ込みたくはないんだよな。

 前回のも結局欲望まみれの伯爵夫婦の謀略にただ巻き込まれただけだったからな。

「実は、この近くの山を住処としている竜に、生贄を要求されているのです」

 話を聞いてみるとなかなか穏便じゃない内容だな。人の命がかかっているってんなら話は別だ。

「竜は、自らの花嫁となる生娘を、と要求してきているのですが、当然ながらそんな要求に応じたがるものなどおらず、困っておりまして……どうか勇者様に助けていただきたいのです」

 う~ん、ちょっと難しい問題だな。龍とか蛇とか、化け物が人間の娘を要求する話はよくあるけど、結婚して盆や正月にちょくちょく帰省するなんて話は当然ない。

 嫁に行ったが最後二度と帰ってくることはないだろうし、ヘタすると嫁に行ったはずがそのまま食われちまうなんてのも多い。そりゃ誰も応じてはくれないわな。

「お父さん、その話はもう済んだ話のはずです」

 おっさんの話に聞き入っていると宿屋の出入り口を開けながら若い女性が俺達の会話を制止してきた。

「エイメ! わしは、お前の事を思って……」

 ふうん、この二人親子なんか。ハゲで恰幅の良い親父と違って後から入ってきた女の子は華奢な体型で三つ編みにそばかす。服装もドイツとかスイスとかのディアンドルみたいな普通の村娘の服装だ。

 しかし『済んだ話』ってのはどういうことだ?

「竜の花嫁には、私がなるって言ったはずよ」

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