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第3章 勃つ年
邪悪な勃気
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「大丈夫スか? ショウさん」
訂正しよう。
「すまない。少し興奮しすぎたようだ」
先ほどはショウさんは大分高齢にもかかわらず元気いっぱいでこりゃ当分は元気だろうなとは思っていたが、なんか知らんが俺との会話がよほどショックだったようで心身ともに疲れ果ててしまったらしく、あの後アトリエで倒れ込んでしまった。
とはいえ母屋に戻るのも面倒だったのでアトリエでそのままショウさんを休ませて、エイメが水差しでショウさんに水を飲ませてあげてるってワケ。
そしてそれを俺が鼻ほじりながら見てるってワケ。
「プジョーでもトヨタでも何でもいいからさ。とりあえずショウさんはこの車を再現させたかったって事なんだよね?」
俺がそう問いかけるとショウさんは大きく息を吐きだしてから立ち上がり、セリカの車体を優しく撫でた。
「ただの再現じゃない。もちろん外装、内装は完璧に再現しているがそれだけじゃないんだ。この車は、バイオマス燃料を使って、実際に走ることができる」
えっ、それは凄い。
「この世界にいる限り再現できないものは色々とあるがな。例えば燃料系はトラバントのようにエンジンのすぐ上にガソリンタンクが設置されてポンプを使わずに重力で燃料を送るような機構になっている。しかしそれでも、この内燃機関は、ちゃんと動くんだ」
凄まじい執念というのはこういうことをいうのだろうか。
この火薬すらない異世界で、たった一人で、何十年もかけて自動車を、それも実際に走るものを再現したというのだ。
「どういうことなんじゃ? 勇者よ」
「この車は馬や牛が引くことはない。油の供給と、少しの電気で、自分の力で走る事の出来る内燃機関を持ってるって事だ」
俺の説明でアスタロウとエイメが全てを理解できたかは甚だ怪しい。だが、凡そのところは理解できたことだろう。
「それは……とんでもない発明じゃな……ヘタすれば世界がひっくり返るぞ」
「そう持ち上げないで下さい、陛下」
と、ショウさんは言うものの、たった一人でここまで作り上げたんだ。この世界の総力を挙げてこれをブラッシュアップしていけば世界の在り様が大きく変わってしまうほどのものだという事は容易に想像できる。
「ってことは、魔王軍はこれに目を付けたってことッスかね?」
おそらくそれで間違いないだろう。
「俺は、この発明を世に出すつもりはありません。むしろ俺の死と共に封印しようと思っています。今まで作り、溜めてきた資料と共に」
なんというか、「もったいない」という気持ちは正直ある。しかしそれと同時に「それも仕方なし」という気持ちもあり、その言葉を聞いた俺は何も言えずに俯いてしまった。
「魔王軍だけでなく、アルトーレに対しても情報を渡さないという事か?」
そんな俺の態度に気付いたのか、困惑気味にアスタロウが訊ねた。
「たしかに、都合のいいことを言っておることは分かる。おぬしが王都を後にしたあの日から今まで、アルトーレは何の支援もしてこなかったのだから……だが」
「誤解しないでほしい」
アスタロウの言葉をショウさんは遮った。
「そんなつもりはないんだ。だけど、このST202は、俺だけの物なんだ」
そう言ってショウさんはセリカの車体を愛おしそうになでた。
「この美しいヘッドランプへ続く隆起も、アメ車に比べると控えめながらもしっかりと強調されたセクシーなコークボトルラインも、全部全部俺だけの……ぐひひ」
あ、ダメだこれ。本当に愛おしい奴だ。
「ああ、セリカたん……愛してるよ。君は俺だけの……誰にだって君を渡すもんか」
腰を振るな。涎を垂らすな。セリカががこんがこんいって車体を揺らしている。何なんだろうなこれ。凄まじい勃気を感じる。この世界にいるとみんな変態になっちゃうもんなのか?
「す、すまない。取り乱してしまった……」
本当にな。
「エイメは知らないかもしれないが、村長には伝えてある。俺が死んだら、セリカを棺代わりに、海にでも沈めて埋葬してくれ、とな……」
とはいえ、この技術は確かに世界の在り様を大きく変えてしまうものだ。正直言って世に出すよりはそっちの方が俺もいいとは思う。
『私もそう思います』
うお、女神久しぶりに喋ったな。
『ショウさんの技術が流出すると、そちらの社会で起きているいろいろな問題がこちらでも起きることになりますから。……ていうかむこうの世界の邪悪なものをこっちの世界に持ち込まないでほしいですね。正直』
俺にはこっちの世界のものも十分邪悪な気がするんだけどなあ。
「ああ……老人とよく分かんない馬車の禁じられた恋……ステキ」
こいつとか、ケツに剣刺さってる奴とか。
「ん!?」
と、涎を垂らしながらショウさんとセリカを眺めていたエイメが急に振り返って何もないアトリエの壁を見つめた。
「邪悪な勃気が……近づいてきてるス」
「邪悪な勃気?」
そこにいるじいさんのじゃなくてか? てか邪悪な勃気ってなんじゃ。清らかな勃気とかもあるのか。
とはいうものの。
「本当だ……凄いスピードでこちらに勃気が近づいてくる……まさか飛んでいるのか? 勃〇しながら」
勃〇が空を飛んでここに近づいてきているというのか。なんたる悪夢。というか周りにいる人の勃〇を感じ取る能力イヤすぎる。これホントにどうにかして解除できないものなのだろうか。日常生活に支障をきたすぞ。
しかし今はそんなことはどうでもいいか。俺達はどうにかしてあの勃〇を迎え撃たないといけないんだ。ああ、本当にイヤだ。
イヤではあるものの、邪竜メルポーザは少し離れたところに着地して、そこからゆっくりと近づいてきた。
恐らくはこちらに気取られないように近づいて奇襲をかけるつもりなんだろう。表にはロバも繋いであるから俺達の存在に気付いてるに違いない。アトリエの搬入口にとどまって様子を窺ってるようだ。
バカな奴め。まさかこちらがお前の勃気を感じ取って存在に気付いているとは夢にも思うまい。ホント夢なら覚めてくれ。
逆に奇襲をかけてやろう、と思って母屋の方から回り込もうとしたらなぜかエイメが先回りしやがった。こいつ、一体何をする気だ。
「見つけたッスよダーリン!!」
「うおああああ!?」
通常、体重が何トンもあるような生物を転倒させることなど人間には出来る筈もなし。だがそれは「通常」の話だ。
メルポーザは突然のエイメの奇襲に驚いてのけ反ったところにのしかかられ、簡単に仰向けに押し倒されてしまった。その腹の上にエイメがどっかと跨る。
「ダーリンの愛は全てワタシが受け止めてあげるッス!!」
「いや~!! 誰か助けて!! 次回犯される~ッ!!」
訂正しよう。
「すまない。少し興奮しすぎたようだ」
先ほどはショウさんは大分高齢にもかかわらず元気いっぱいでこりゃ当分は元気だろうなとは思っていたが、なんか知らんが俺との会話がよほどショックだったようで心身ともに疲れ果ててしまったらしく、あの後アトリエで倒れ込んでしまった。
とはいえ母屋に戻るのも面倒だったのでアトリエでそのままショウさんを休ませて、エイメが水差しでショウさんに水を飲ませてあげてるってワケ。
そしてそれを俺が鼻ほじりながら見てるってワケ。
「プジョーでもトヨタでも何でもいいからさ。とりあえずショウさんはこの車を再現させたかったって事なんだよね?」
俺がそう問いかけるとショウさんは大きく息を吐きだしてから立ち上がり、セリカの車体を優しく撫でた。
「ただの再現じゃない。もちろん外装、内装は完璧に再現しているがそれだけじゃないんだ。この車は、バイオマス燃料を使って、実際に走ることができる」
えっ、それは凄い。
「この世界にいる限り再現できないものは色々とあるがな。例えば燃料系はトラバントのようにエンジンのすぐ上にガソリンタンクが設置されてポンプを使わずに重力で燃料を送るような機構になっている。しかしそれでも、この内燃機関は、ちゃんと動くんだ」
凄まじい執念というのはこういうことをいうのだろうか。
この火薬すらない異世界で、たった一人で、何十年もかけて自動車を、それも実際に走るものを再現したというのだ。
「どういうことなんじゃ? 勇者よ」
「この車は馬や牛が引くことはない。油の供給と、少しの電気で、自分の力で走る事の出来る内燃機関を持ってるって事だ」
俺の説明でアスタロウとエイメが全てを理解できたかは甚だ怪しい。だが、凡そのところは理解できたことだろう。
「それは……とんでもない発明じゃな……ヘタすれば世界がひっくり返るぞ」
「そう持ち上げないで下さい、陛下」
と、ショウさんは言うものの、たった一人でここまで作り上げたんだ。この世界の総力を挙げてこれをブラッシュアップしていけば世界の在り様が大きく変わってしまうほどのものだという事は容易に想像できる。
「ってことは、魔王軍はこれに目を付けたってことッスかね?」
おそらくそれで間違いないだろう。
「俺は、この発明を世に出すつもりはありません。むしろ俺の死と共に封印しようと思っています。今まで作り、溜めてきた資料と共に」
なんというか、「もったいない」という気持ちは正直ある。しかしそれと同時に「それも仕方なし」という気持ちもあり、その言葉を聞いた俺は何も言えずに俯いてしまった。
「魔王軍だけでなく、アルトーレに対しても情報を渡さないという事か?」
そんな俺の態度に気付いたのか、困惑気味にアスタロウが訊ねた。
「たしかに、都合のいいことを言っておることは分かる。おぬしが王都を後にしたあの日から今まで、アルトーレは何の支援もしてこなかったのだから……だが」
「誤解しないでほしい」
アスタロウの言葉をショウさんは遮った。
「そんなつもりはないんだ。だけど、このST202は、俺だけの物なんだ」
そう言ってショウさんはセリカの車体を愛おしそうになでた。
「この美しいヘッドランプへ続く隆起も、アメ車に比べると控えめながらもしっかりと強調されたセクシーなコークボトルラインも、全部全部俺だけの……ぐひひ」
あ、ダメだこれ。本当に愛おしい奴だ。
「ああ、セリカたん……愛してるよ。君は俺だけの……誰にだって君を渡すもんか」
腰を振るな。涎を垂らすな。セリカががこんがこんいって車体を揺らしている。何なんだろうなこれ。凄まじい勃気を感じる。この世界にいるとみんな変態になっちゃうもんなのか?
「す、すまない。取り乱してしまった……」
本当にな。
「エイメは知らないかもしれないが、村長には伝えてある。俺が死んだら、セリカを棺代わりに、海にでも沈めて埋葬してくれ、とな……」
とはいえ、この技術は確かに世界の在り様を大きく変えてしまうものだ。正直言って世に出すよりはそっちの方が俺もいいとは思う。
『私もそう思います』
うお、女神久しぶりに喋ったな。
『ショウさんの技術が流出すると、そちらの社会で起きているいろいろな問題がこちらでも起きることになりますから。……ていうかむこうの世界の邪悪なものをこっちの世界に持ち込まないでほしいですね。正直』
俺にはこっちの世界のものも十分邪悪な気がするんだけどなあ。
「ああ……老人とよく分かんない馬車の禁じられた恋……ステキ」
こいつとか、ケツに剣刺さってる奴とか。
「ん!?」
と、涎を垂らしながらショウさんとセリカを眺めていたエイメが急に振り返って何もないアトリエの壁を見つめた。
「邪悪な勃気が……近づいてきてるス」
「邪悪な勃気?」
そこにいるじいさんのじゃなくてか? てか邪悪な勃気ってなんじゃ。清らかな勃気とかもあるのか。
とはいうものの。
「本当だ……凄いスピードでこちらに勃気が近づいてくる……まさか飛んでいるのか? 勃〇しながら」
勃〇が空を飛んでここに近づいてきているというのか。なんたる悪夢。というか周りにいる人の勃〇を感じ取る能力イヤすぎる。これホントにどうにかして解除できないものなのだろうか。日常生活に支障をきたすぞ。
しかし今はそんなことはどうでもいいか。俺達はどうにかしてあの勃〇を迎え撃たないといけないんだ。ああ、本当にイヤだ。
イヤではあるものの、邪竜メルポーザは少し離れたところに着地して、そこからゆっくりと近づいてきた。
恐らくはこちらに気取られないように近づいて奇襲をかけるつもりなんだろう。表にはロバも繋いであるから俺達の存在に気付いてるに違いない。アトリエの搬入口にとどまって様子を窺ってるようだ。
バカな奴め。まさかこちらがお前の勃気を感じ取って存在に気付いているとは夢にも思うまい。ホント夢なら覚めてくれ。
逆に奇襲をかけてやろう、と思って母屋の方から回り込もうとしたらなぜかエイメが先回りしやがった。こいつ、一体何をする気だ。
「見つけたッスよダーリン!!」
「うおああああ!?」
通常、体重が何トンもあるような生物を転倒させることなど人間には出来る筈もなし。だがそれは「通常」の話だ。
メルポーザは突然のエイメの奇襲に驚いてのけ反ったところにのしかかられ、簡単に仰向けに押し倒されてしまった。その腹の上にエイメがどっかと跨る。
「ダーリンの愛は全てワタシが受け止めてあげるッス!!」
「いや~!! 誰か助けて!! 次回犯される~ッ!!」
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