武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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第4章 恐怖!悪のアナリスト

コンコスール

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 どうやら「聖剣狩り」とか呼ばれている魔族がこの辺りに出ているらしい。
 
 村の近くに現れて、「聖剣を持っていないか」と尋ねては道行く人の武器を強奪するそうな。まあ、普通に考えて敵の狙いは俺達の『聖剣アヌスカリバー』なのは間違いないだろう。
 
 強力な力を秘めた、魔王を倒すために女神より与えられた最強の武器。普通の高校生が使っただけでも魔王軍の四天王を一撃で葬るような代物だ。魔族側がこれに目をつけてても不思議はない。
 
「アンススよ。悪いがお主と一緒に依頼を受けたというもう一人の冒険者のところに連れて行ってくれるか? 詳しく話が聞きたい」
 
 正直言って俺は関わりたくなかったんだが、アスタロウの判断は違った。まあ、当然と言えば当然か。アンススに聞いても要領を得ないのが目に見えてるので他にもう一人同じ依頼を受けたという冒険者の元に聞き込みに行くことになった。
 
「それにしても偶然私の生まれの村に来ているなんてね。なんかこう、運命的なものを感じるわね。ね? ケンジくん」
 
 折に触れて会話の湿度を上げてこようとするアンスス。
 
 正直なあ……身長は俺より頭一つ分高いものの、おっぱいは大きいし、スタイルはいいしで黙ってさえいれば凄くいい女なんだよ。ただ一点、極度のバカという事を除けば。それさえなければすぐにでも婚姻届け書きたいレベルの美人なのになあ……
 
「さ、着いたよ。ここだ」
 
 などと、考えても仕方のないことを考えていると、どうやら目的地に着いたようだ。
 
 こんな小さな村に当然ながら冒険者ギルドの支所なんかない。となれば、ここはどこなんだ? 外観は普通の民家みたいだが、この建屋を借りて今回の活動の拠点にしてるって事だろうか。
 
 彼女に促されるままに建物の中に入ると、そこには中年の男女と、それから少年が二人いた。
 
 他に冒険者が同じ依頼を受けてるとは聞いてたが、一人じゃなかったのか? しかし随分と年齢にバラツキがあるグループだな。それこそ親子ほどにも年齢が離れてる男女が四人。こいつらが依頼を受けたのか。
 
「お父さん、お母さん。こちらの方がさっき話したケンジくん。晴れて私の夫となる……」
「両親に紹介しようとしてんじゃねえよ!!」
 
 人の話を聞いてなかったのか、それともわざとなのか。多分後者だな。
 
「あんた勇者だな。ホントに姉ちゃんと結婚するつもりなのか? こいつ凄いバカだぞ」
「勇者だけどその勇者じゃねえよ!! 結婚なんかしねえしバカだってのも知ってるわ!!」
 
 てことはこの少年二人はアンススの弟か。ハメられた。俺達は慌てて建物の外に出て扉を閉めた。
 
「あのなあアンスス! 一緒に依頼を受けた冒険者のとこに連れてけって言っただろうが! 誰が両親に挨拶するなんて言った!?」
 
「あれ? 言ってなかったっけ? てへぺろ」
 
 こいつホント外堀埋めようとしてきやがるな。今のは絶対コイツがバカだからとか、よく聞いてなかったからとかじゃなくて分かっててやってたぞ。
 
「一緒に依頼を受けた冒険者ならケンジくん達が泊ってた宿に泊まってるよ」
 
 無駄足じゃねえか。考えてみれば当然だけど。この村の唯一の宿だからな。
 
「じゃあとりあえず宿にもど……」
 
 踵を返して宿に戻ろうとしたところ、肩を何者かにがしりと掴まれた。振り返れば、民家の扉が十五センチほど開いていて、そこから手を伸ばしてアンススの親父さんが俺の肩を掴んでいた。
 
 
「ま、待って……どうか、娘を……娘の事をよろしく……」
 
 ひぇ……
 
 やばい。親父さん必死過ぎる。俺は死に物狂いで手を振りほどくと全力で走って宿に逃げた。
 
 まあおそらくは。この中世ヨーロッパ風の異世界では二十五歳のアンススはもうかなり行き遅れの部類なんだろう。当然ながらこの先アンススの頭の具合が改善する見込みもない。ならばこの獲物を決して逃がすものか、というところか。
 
「急にどうしたの、ケンジくん!」
 
 宿の前で膝に手をついて呼吸を整えているとアンススとアスタロウが小走りに追いかけてきた。「急にどうしたの」じゃねえよ。今の見てなかったのかよ。シャイニングのジャック・ニコルソンみたいだったぞお前の親父。
 
「あ、コンコスール。ちょうどいいところに来たな」
 
 ん? コンコスール? 誰だそれ? アンススの方を見てみるとどうやらその視線は俺の後ろにいる人物に注がれているようだった。呼吸を整えてから後ろを見てみると、アンススよりもさらに少しだけ背が高い、黒髪に金のメッシュが少し入った若い男性が仁王立ちしていた。
 
 話の流れからすると、こいつがもしかしてアンススと同じ依頼を受けた冒険者ってやつか?
 
「ケンジくん……? こいつがお前の言ってたケンジって奴か?」
 
 俺の事を知ってるのか? アンススから聞いてたんだろうか。どういうふうに聞いてたんだろう。すごく気になる。あいつのことだから会う人会う人に既成事実の如く恋人だとか婚約者だとか吹き込んでないか心配で心配で。
 
「勇者ケンジとかいう奴かぁ?」
 
 なんか……態度悪ぃなコイツ。値踏みするように俺を見てくる。いわゆるオラオラ系というか、ヤンキー系というか、とにかく善良な一般市民の俺にとって苦手なタイプだ。
 
「あぁ? ケンジなのか? おめえ」
 
 近い。
 
 めちゃくちゃ近くで眉間にしわを寄せ、顎をしゃくらせながら睨んでくる。眉毛が当たるくらいの近さだ。
 
 そこまで近いと逆に見えないだろう。弱視の人でももうちょっと手加減してくれるぞ。何なのこれ。どうすりゃいいの。
 
「良かったぁ。コンコスールもケンジくんの事気に入ってくれたみたいで。私、二人はいいお友達になれると思うな」
「「どこがだ!!」」
 
 不本意ではあるが、コンコスールとかいう奴とハモった。
 
「というか何なのコイツは。なんでこんな敵意むき出しなの」
 
「フン、俺は別に敵意なんか向けてねえぜ。ただ、てめえの事を認めねえってだけだ」
 
 ああ~、そう言うイベントが来たか。
 
 要するにあれだ。こんな聖剣を偶然手に入れただけの奴なんか勇者として認められるか、って事だな。
 
 そう言う事なら話は早い。聖剣はどうぞ差し上げるので鞘ごと持って行ってくれ。俺は不本意ではあるがこの世界で、ハリネズミ級冒険者のアンススの扶養家族として立派に主夫業を勤め上げて見せよう。
 
「俺はこんな奴が、アンススと子作りをして将来的に十人の子供をつくる暖かい家庭のパパだなんて、認めねえからな」
 
 湿度を上げるな。
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