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最終章 手を取り合って
セリカの恩返し
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コンコン、と扉をたたく音がする。
こんな夜中にいったい誰だろう?
不審に思いながらも俺が仮の宿としている放棄された山小屋の扉を開けると、そこには真っ白な着物を着た髪の長い、美しい女性が立っていた。
「お久しぶりです、勇者様」
さてこいつは参ったぞ。
前回、二つの月の神殿での儀式によりイルウの玉が四つになった。とはいえ、それはもうどうしようもないのでその後は何事もなく遺跡から脱出し、俺たち三人、俺とアスタロウとアンススはその場を後にした。
猫獣人達から魔王城のだいたいの場所を聞き出した俺たちはその後も断続的に俺のケツを狙って襲撃してくるイルウを起力の力で追い返しつつ魔王場へと東進。
そんな中、偶然発見した山小屋を仮の宿として休憩をとっていたんだが。
ちらりと女性を見る。
「いつぞやはありがとうございました。あの時助けていただいた、セリカです」
誰だこの女。
服装は白い着物。和装だ。服も肌も雪のように白い、長い黒髪の女性。全体としては日本人の風貌のように感じるのだが、着物越しに見えるボディラインは妙にグラマラスだ。
玄関で対応しているとアスタロウがちょいちょいと俺の袖を引っ張り、耳打ちする。
「……誰?」
「知らねえよ、お前の知り合いじゃねえのかよ」
そもそも、この世界に来てから(不本意ながら)ずっと一緒にいるんだからお前の知らない知り合いが俺にいるわけがないだろうが。
「アンスス、お前の知り合いじゃないのか?」
とは聞いてみたものの、そもそもこいつの記憶力に期待することが無駄か。案の定インコみたいに首をかしげてアホの顔をしている。
誰も知らない着物の女が、山小屋に突然訪ねてきた。
これは怪異の類じゃあるまいか。
「とりあえず外は冷えるし、上がってもらったらどうじゃ」
「上がってもらう」とはいうものの、和式建築じゃないので土間とリビングが分かれてるわけではない。アスタロウの提案の通り、とりあえず中に入ってもらった。
セリカ……セリカ。まったく聞き覚えのない名前だ。
「アスタロウ様、その折は助けていただきありがとうございました。今日は恩返しのために参りました」
ん……助けたのは俺じゃなくてアスタロウなのか? ってことは俺がこの世界に来る前の話か? だったら俺が知らないのも無理もないけど。
「アンススさんとは初めましてになりますね」
ん? ってことは俺とは初めましてじゃないってこと? 誰なんだこいつ、本当に全然記憶にないぞ。
おい、おい、女神。こいつ誰だ? 知ってるやつか?
しかし答えは返ってこない。この間口げんかしてからずっとこの調子だ。前は呼べばすぐに応じてくれたのに、無視するようになりやがった。本当に子供っぽいやつだな。
「この奥の部屋は、使っておられますか?」
そう言ってセリカさんはリビングの奥の部屋を指さした。俺たちもこの山小屋に来たばかりなので詳しくは分からんが、多分使ってない部屋だ。俺が肯定の意を示すとセリカさんはさらに言葉を続ける。
「恩返しとして機織りをさせてもらおうと思います。そちらの部屋を使わせてください」
「まあ、それは構わないけど……」
助けてもらった恩返しに機織り。なんかどっかで聞いたような話ではあるけど、極めてスタンダードな恩返しでもある。俺が答えるとセリカさんはそのまま奥の部屋に入っていき、そしてドアを閉める間際、顔だけを覗かせてこちらに語り掛けた。
「機織りをしている最中、決して部屋の中を覗かないでください」
覗かないけどさ。
そのままパタンと扉を閉める。
「なんなんじゃあの女……」
「だから知らねえって言ってるだろ、アスタロウが誰かから助けたみたいな話してないか?」
「本当にケンジくん知らないの? もしかして……イルウ以外にも浮気を……」
イルウとも浮気なんかしてねえよ。っていうかそれ以前に本気の相手もいねえわ。
「にしてもなんで恩返しが機織りなんじゃ? しかも機織り機もないのに」
そこはまあ、「お約束」とか、そういうものだと思う。恩返しといえば機織り。これはこの世界でも外せないことなんだろう。こいつらは知らないみたいだけど。
「決して覗かないで、って言ってたけど……もし覗いたらどうなるのかしら?」
アンススが訪ねる。
「多分……正体を現す」
「え? じゃあ覗いてみれば正体がはっきりするじゃない」
それはそうなんだけどさ。
ぶっちゃけて言って「こっそり覗く」なんてことはできない。
なぜならここの部屋を分けている扉は引き戸や障子じゃなくてヒンジ式のドアだ。中にいる人に気づかれずにこっそり覗くなんてことはまずできない。
「そして、正体を現すと『もう一緒にいることはできない』とかなんとかいって姿をくらますだろう」
三人とも少し考え込む。
おそらくは考えていることは同じだろう。
正体は知りたいが、まだ恩返ししてもらってない。正体を知るにしても、まずいったん恩返ししてもらってからでいいんじゃないかな?
その恩返しの品があまりにもしょぼかったらもう逃げられても何でもいいから正体知りたいけど、もしすごくいい物だったら恩返ししてもらわないと損じゃん。
とりあえず一回恩返ししてもらってから考えようぜ。
もしすごくいい物だったら、できるだけたくさん恩返ししてもらって、生かさず殺さず搾り取れるだけ搾り取ってから正体を覗こうぜ。
アルトーレを出国してから路銀を補充する方法もなくなって懐が心許ないからな。稼げるときに稼ぐに限る。
「それにしてもおぬし、なぜセリカ殿のことを知らんのに『覗くとどうなるか』だとか、そのあとのことだとかには詳しいんじゃ?」
そんなこと言われてもな、それはもう常識なんじゃないのか。
「お待たせいたしました」
早いな。
そんなに長く話をしていたつもりはなかったんだが、いつの間にか作業が終わったようで、奥の部屋のドアが開いた。
その手に持っているものは何か銀色の光沢を放つ布。これはいったいなんだ? 弦の恩返しは自分の羽毛で機織りをしてたんだっけ? これが何でできているかが分かれば、こいつの正体を暴く一助にもなるかもしれないが。
「手編みの鎖帷子でございます」
こんな夜中にいったい誰だろう?
不審に思いながらも俺が仮の宿としている放棄された山小屋の扉を開けると、そこには真っ白な着物を着た髪の長い、美しい女性が立っていた。
「お久しぶりです、勇者様」
さてこいつは参ったぞ。
前回、二つの月の神殿での儀式によりイルウの玉が四つになった。とはいえ、それはもうどうしようもないのでその後は何事もなく遺跡から脱出し、俺たち三人、俺とアスタロウとアンススはその場を後にした。
猫獣人達から魔王城のだいたいの場所を聞き出した俺たちはその後も断続的に俺のケツを狙って襲撃してくるイルウを起力の力で追い返しつつ魔王場へと東進。
そんな中、偶然発見した山小屋を仮の宿として休憩をとっていたんだが。
ちらりと女性を見る。
「いつぞやはありがとうございました。あの時助けていただいた、セリカです」
誰だこの女。
服装は白い着物。和装だ。服も肌も雪のように白い、長い黒髪の女性。全体としては日本人の風貌のように感じるのだが、着物越しに見えるボディラインは妙にグラマラスだ。
玄関で対応しているとアスタロウがちょいちょいと俺の袖を引っ張り、耳打ちする。
「……誰?」
「知らねえよ、お前の知り合いじゃねえのかよ」
そもそも、この世界に来てから(不本意ながら)ずっと一緒にいるんだからお前の知らない知り合いが俺にいるわけがないだろうが。
「アンスス、お前の知り合いじゃないのか?」
とは聞いてみたものの、そもそもこいつの記憶力に期待することが無駄か。案の定インコみたいに首をかしげてアホの顔をしている。
誰も知らない着物の女が、山小屋に突然訪ねてきた。
これは怪異の類じゃあるまいか。
「とりあえず外は冷えるし、上がってもらったらどうじゃ」
「上がってもらう」とはいうものの、和式建築じゃないので土間とリビングが分かれてるわけではない。アスタロウの提案の通り、とりあえず中に入ってもらった。
セリカ……セリカ。まったく聞き覚えのない名前だ。
「アスタロウ様、その折は助けていただきありがとうございました。今日は恩返しのために参りました」
ん……助けたのは俺じゃなくてアスタロウなのか? ってことは俺がこの世界に来る前の話か? だったら俺が知らないのも無理もないけど。
「アンススさんとは初めましてになりますね」
ん? ってことは俺とは初めましてじゃないってこと? 誰なんだこいつ、本当に全然記憶にないぞ。
おい、おい、女神。こいつ誰だ? 知ってるやつか?
しかし答えは返ってこない。この間口げんかしてからずっとこの調子だ。前は呼べばすぐに応じてくれたのに、無視するようになりやがった。本当に子供っぽいやつだな。
「この奥の部屋は、使っておられますか?」
そう言ってセリカさんはリビングの奥の部屋を指さした。俺たちもこの山小屋に来たばかりなので詳しくは分からんが、多分使ってない部屋だ。俺が肯定の意を示すとセリカさんはさらに言葉を続ける。
「恩返しとして機織りをさせてもらおうと思います。そちらの部屋を使わせてください」
「まあ、それは構わないけど……」
助けてもらった恩返しに機織り。なんかどっかで聞いたような話ではあるけど、極めてスタンダードな恩返しでもある。俺が答えるとセリカさんはそのまま奥の部屋に入っていき、そしてドアを閉める間際、顔だけを覗かせてこちらに語り掛けた。
「機織りをしている最中、決して部屋の中を覗かないでください」
覗かないけどさ。
そのままパタンと扉を閉める。
「なんなんじゃあの女……」
「だから知らねえって言ってるだろ、アスタロウが誰かから助けたみたいな話してないか?」
「本当にケンジくん知らないの? もしかして……イルウ以外にも浮気を……」
イルウとも浮気なんかしてねえよ。っていうかそれ以前に本気の相手もいねえわ。
「にしてもなんで恩返しが機織りなんじゃ? しかも機織り機もないのに」
そこはまあ、「お約束」とか、そういうものだと思う。恩返しといえば機織り。これはこの世界でも外せないことなんだろう。こいつらは知らないみたいだけど。
「決して覗かないで、って言ってたけど……もし覗いたらどうなるのかしら?」
アンススが訪ねる。
「多分……正体を現す」
「え? じゃあ覗いてみれば正体がはっきりするじゃない」
それはそうなんだけどさ。
ぶっちゃけて言って「こっそり覗く」なんてことはできない。
なぜならここの部屋を分けている扉は引き戸や障子じゃなくてヒンジ式のドアだ。中にいる人に気づかれずにこっそり覗くなんてことはまずできない。
「そして、正体を現すと『もう一緒にいることはできない』とかなんとかいって姿をくらますだろう」
三人とも少し考え込む。
おそらくは考えていることは同じだろう。
正体は知りたいが、まだ恩返ししてもらってない。正体を知るにしても、まずいったん恩返ししてもらってからでいいんじゃないかな?
その恩返しの品があまりにもしょぼかったらもう逃げられても何でもいいから正体知りたいけど、もしすごくいい物だったら恩返ししてもらわないと損じゃん。
とりあえず一回恩返ししてもらってから考えようぜ。
もしすごくいい物だったら、できるだけたくさん恩返ししてもらって、生かさず殺さず搾り取れるだけ搾り取ってから正体を覗こうぜ。
アルトーレを出国してから路銀を補充する方法もなくなって懐が心許ないからな。稼げるときに稼ぐに限る。
「それにしてもおぬし、なぜセリカ殿のことを知らんのに『覗くとどうなるか』だとか、そのあとのことだとかには詳しいんじゃ?」
そんなこと言われてもな、それはもう常識なんじゃないのか。
「お待たせいたしました」
早いな。
そんなに長く話をしていたつもりはなかったんだが、いつの間にか作業が終わったようで、奥の部屋のドアが開いた。
その手に持っているものは何か銀色の光沢を放つ布。これはいったいなんだ? 弦の恩返しは自分の羽毛で機織りをしてたんだっけ? これが何でできているかが分かれば、こいつの正体を暴く一助にもなるかもしれないが。
「手編みの鎖帷子でございます」
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