武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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最終章 手を取り合って

ぷりぷり牡蠣のアヒージョ

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 ここに来るまでは、俺は「魔族ともきっと分かり合えるはずだ」と思って、それを信念に行動してきた。それが依頼主であるアルトーレ王国の命令とは必ずとも一致しないとは分かっていながらも。
 
 だが、この『食糧庫』に来て、衝撃的な事実とどうやら向き合わなければならなくなってしまったようだ。
 
「これが……『食糧』……?」
 
 目の前にある地下牢にとらわれていたのは十名弱の男達。皆一様に生気のない目をしており、縋るように俺たちに助けを求めてくる。
 
「助け……助けてください。あなたが今噂の流れている勇者様ですか……?」
 
 もともと人間と生態の近いダークエルフのイルウとばかり接触してきたから、考え方にバイアスがかかっていたのかもしれない。『分かり合えるはず』というのも、多様的な考え方ではあるものの、ある意味では一面的なものの見方でしかなかったのかもしれない。
 
 この、助けを求めている人間が、『食糧』だと、そう明確に提示されたのだ。
 
 考えてみればこれまでに会ってきただけでも敵には巨大な竜もいれば虎獣人や巨体の悪魔もいた。そいつらが人間を捕食しないなどとどうして言い切れよう。いや、言い切れまい。(反語)
 
「人間を……食糧に……」
 
 確認するようにアスタロウが呟く。この事実を受け入れて、その上での共存などありえないだろう。何より人間がこんな家畜のような扱いを受けて食われる、こんな事実を『仕方がない』なんて言って受け入れられるのなら、それは勇者とは言えまい。
 
 この、やせ衰えて無残な姿を晒している人々のありさまを……ありさまを……? あれ? やせ衰えてはいないな。むしろ、血色がいい。血色はいいが、その上で生気のない目をしている。
 
「うらやましいのぅ……」
 
 うらやましい? うらやましいってお前……どういうことだ? 魔族に捕らえられて、毎日毎日、一人ずつ食糧として連れ去られていって、その恐怖ときたら……って感じの話だと思うんですけど。なんかおかしいな。
 
「サキュバスの魔王に、毎晩搾り取られておるのか……」
 
 え?
 
 そういうこと?
 
 『食糧』って、そういうことなの?
 
 ちょっと話が変わってくるんだけど。
 
「うらやましいことなど、ありません」
 
 いやうらやましいだろ。っていうかその話はもう確定なの? 性的な意味での『食糧』なの?
 
 さっきまで俺の中でのこの人たちの評価が『かわいそう』だったのがもうかなり『うらやま死刑』に傾きつつあるんだけども。
 
 え? 本当にそうなの? こいつら牢屋の中に閉じ込められて、日がな一日やることもなくダラダラして。夜になったらあのセクシー美女とえっち三昧?
 
 マジでふざけんなよ。俺がどんな苦労してここまで来たと思ってんだ。ダークエルフにケツ犯されそうになったり、貢がせた鎖帷子売り歩いたり、大変だったんだぞ。
 
「エサ扱いされて、都合のいい時に呼び出されて、搾精される……尊厳も何もない。この辛さがあなた達に分かりますか?」
 
 分かるかボケ。
 
「食事も精の付くものばかり。今日の朝飯など、朝からぷりぷり牡蠣のアヒージョだったんですよ! 朝からアヒージョ! 人をバカにするのにもほどがある!」
 
 お前は俺をバカにしてんのか。ああくそ、腹減ってるの思い出してきた。牡蠣のアヒージョいいなあ。ってか今の説明、「ぷりぷり」って修飾語つける必要あったか? なんかこいつ若干俺たちのこと煽ってないか?
 
「昨日の夕飯もスッポン鍋で、昼はうな重」
 
 そんだけ食ってりゃそりゃ血色もよくなりますわ。
 
「たまにはさっぱりしたものが食べたい!!」
 
 ああ~、ほんと殴ろうかなこいつら。
 
「毎晩毎晩呼び出されて、ち〇ぽの乾く暇もない!!」
 
 死ね。
 
「でもそれも今日まで。こうして勇者様が助けに来てくれたのなら、ようやくこのセッ〇ス漬けの性活ともおさらばできるのですね」
 
「ああ?」
 
「じゃあケンジくん、さっそく牢の鍵を開けるわね」
 
「いや……」
 
 しゃがんで鍵開け道具を出そうとしたアンススを俺が制止する。
 
「どうしたの? 助けるんじゃないの?」
 
「…………」
 
 俺と同様に、アスタロウも神妙な顔つきで考え込んでいる。おそらく奴も俺と同じ考えなのだろう。
 
「助ける必要ある? こいつら」
 
「え?」
 
「なんか……助ける気分にさせてくれないっつうかさぁ……」
 
 そうなんだよ、気分の問題なんだよ。俺が感情論でものを言っているっていうのは自分でも分かっている。
 
 でもね、こういうのって大事じゃないかな。
 
 ただでさえ俺たちは、というか俺は基本的には善意で勇者やってるわけじゃんね? 自分の命の危険も顧みずに、他人を助けてるのよ。ってなるとね? モチベーションが必要なの。
 
 その助け出すべきかわいそうな人たちがよ? うまいもん食いまくってセッ〇ス三昧か。
 
 死ね。
 
 助ける価値なし。
 
「行こっか」
 
「ちょ、ちょっと!?」
 
「んだよ」
 
「勇者様なんでしょ? 助けに来てくれたんじゃないんですか!?」
 
「ん~……」
 
 俺たち三人は顔を見合わせる。
 
 別に助けるかどうかを迷っているわけじゃない。俺の中じゃもう助けないことは確定している。問題はこの判断にただ一人納得していないアンススをどうやって説得するかだな。
 
 なんかこいつらのために頭を悩ませるのも無駄な時間な気がするけどさ。
 
「別にこいつら助けなくても死ぬわけじゃないじゃんねえ。だったらまあ……このままでもよくない? どうせすぐに脱出させることはできないしさあ……そうだ! ここでこいつらを逃がしたら俺たちが潜入してることがバレちゃうんじゃん」
 
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!! 今思いついたみたいな言い方!」
 
 ようやく状況を把握してきたのか、牢屋の中のヤリチン達が焦り始めたようだ。
 
「魔王の弱点……知りたくないですか?」
 
 なんだと?
 
 状況が変わった。
 
 もちろん今のところ俺は魔王と直接敵対するつもりはない。しかし、もしも、ということがある。好まざる事態だからと言ってそれを想定しないのは愚か者のすることだ。弱点があるというんならそれを知っておいて損はない。
 
「教えてもらえるか……」
 
 牢の中の若者は、こくりと静かに頷いて答える。
 
「魔王の弱点は……Gスポットです」
 
 死ね。
 
 そういう弱点じゃねえよ。
 
 てかホントお前ら考えてものしゃべれよ。なんで俺が怒ってるか分かってねえだろ。
 
「行きましょうか、ケンジくん。こんな下品なこと言う人たち助けたくないって気持ちはわかるわ」
 
 まあ、墓穴を掘ってくれたと思って良しとするか。普段からケツの穴に聖剣が刺さってるパーティーにこんなこと言われるのもかわいそうだけど。
 
「ちょっと、勇者様? 勇者様?」
 
 俺たちは、食糧庫を後にした。
 
「ぷりぷり牡蠣のアヒージョがどこにあるか探しに行こーぜ」
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