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小さなテーブルを埋め尽くす料理を見て、蒼馬くんは目を輝かせる。
「やば! 玉ねぎのサラダもレストランみたいだし、コンビニ飯がいつもより美味そうに見える!」
「サラダは切っただけだし、お惣菜はお皿に盛りつけただけだよ」
「そのひと手間が嬉しいんじゃないっすか~! 俺なんか惣菜パックから直食いだし、ランチョンマットとかそもそも家にない」
「男の一人暮らしはそれが普通なんじゃないかな? とにかく温かいうちに食べようよ。今グラスも持ってくるね」
冷蔵庫に入れて冷やしておいたグラスに各々が買った酒を注ぐと、蒼馬くんは携帯で写真を撮り出した。
どうやら喜んでもらえたらしい。僕は引かれなくて良かったと胸をなでおろす。
「涼さん、初宅飲みの記念撮影しません?」
そう言って蒼馬くんは腕を伸ばしてスマートフォンを高く掲げた。僕も小さなテーブルの中心に身を寄せて、控えめにピースするとシャッター音が何度も鳴った。
「え?」
「ははっ、見てみて! 連写したんだけど、最後の方の涼さん目が猫みたいにまんまるになっててかわいー」
「そっ、そりゃあ驚くよ! 連写機能とか使ったことないし、そもそも写真も撮らないし……」
普段は朝の爽やかな自然光の下でしか会えない彼が目の前にいる。ただそれだけで心が浮ついて、頬が緩んでしまう。
「へえ、いつぶりの写真ですか?」
「証明写真……いや、社内報のためになんか取られたような?」
「プライベートじゃなくて仕事で撮ったのが最後って、やっぱこの写真激レアじゃん!」
「そんなありがたがるようなものでも……」
「いいや、宝物ですよ。俺は記憶とか気持ちとかそういうのに意義を見出すタイプなんで。今さらですけど、この写真送りたいんで連絡先教えてもらえませんか……?」
「もちろん! いいよ!」
端末をこちらに向けて連絡先を表示する蒼馬くんは、少し緊張して見えた。
一年間約束を取り付けなくても朝になれば会えた。不要だった連絡先が、写真一つでこんなにも簡単に手に入ってしまうなんて――。
表示された日下蒼馬という名前が特段輝いて見えた。
「蒼馬くんの名前、文字でも見てもかっこいいね」
「イェーイ。両親に感謝っすね。画数が多いし、一発変換されないので、友達からはソーマって書かれます。仕事用のSNSもソーマだから」
「仕事? 蒼馬くんは実習先の酒蔵でバイトしてたんじゃなかったっけ?」
「酒蔵の方もバイトっすけど、フリーで音楽系の活動してて……。プロって呼べるかは微妙なところで、まあ、趣味に毛が生えたアマチュアなんですけど――」
グラスを一気に傾けた蒼馬くんは喉を上下させた後、ぷはっと息を吐いた。
そして椅子の横に置いていた鞄から名刺らしきものを取り出して僕に差し出す。
「あんま人に言ってないんですけど、曲を作って動画サイトにアップしたり、友達のバンドに楽曲提供したりしてます。市役所のコンビニでバイトしてたやつ覚えてますか?」
「へえ、すごい! コンビニの彼も覚えてるよ、雰囲気のある人だったね」
「とっつきにくい感あるけど、中身はお節介兄貴って感じで面白いんすよ。俺が涼さんの話してたのも覚えてたみたいで、昨日初めて本物見たって連絡寄越してさ」
あのバンドマンの彼が僕の免許証を見て驚いていたのは、年齢だけではなく、蒼馬くんから聞いて名前だけ知っていた人物だったからなのだろう。
一体どんな話をしていたのか気になるが、蒼馬くんはあっけらかんとした表情なので悪い話ではないと願いたいところだ。
「ああ、だから家に来る前に彼女がどうこう言ってたんだね。昨日は磐木先輩と一緒だったから」
「すみません」
頬をかく蒼馬くんは空になったグラスを持ち上げた。
僕はすかさず缶からアルコールを継ぎ足す。
「遠慮せず飲んでね」
「ありがとうございます!」
酒が足りないと怒鳴られることはあっても、礼を言われることはなかった。
火照った頬がより熱くなる。好意が漏れ出してしまいそうだ。あえて話題を蒼馬くんの仕事に戻す。
「それにしても曲を作れるなんて多才だなぁ。でも東京にいた方がお仕事的には幅が広がるんじゃない……?」
「付き合いで色んなところ行きましたけど、やっぱ実家の酒が一番美味くて、もっと広めたいって気持ちは捨てらんなかったし、曲はパソコン一つあればどこでも作れるんで」
「そっか。蒼馬くんがそこまで言うご実家のお酒、今度飲んでみたいな。ネットでも購入できる?」
「そこは任せてくださいよ。今度持ってくるので、一緒に飲みましょ!」
「ありがとう。二本目からはちゃんと売上に貢献させていただくからね」
小指を差し出すと蒼馬くんはアルコールで火照ったのか、目を細めて口角を上げた。
子どものように指切りげんまんと陽気に歌いながら、酒をともに飲む約束をするちぐはぐな行為は、二人だけの秘密を持てたような気がして体温が上った。
「東京も良かったけど、こっちには涼さんもいるし、友達もできたし、楽しいんです。それに授業内容的にはこっちの姉妹校のが都合いいんですよ。実家の酒蔵以外見たことなかったし、色々勉強させてもらってます」
「将来はお酒を取り扱うお店やりたいって言ってたもんね」
朝が良く似合う男だとは思っていたが、それは朝にしか会っていなかったからで、パチパチと弾ける液体が入ったグラスを片手に微笑んでいる姿も良く似合う。
「実家は兄夫婦が継いでるんで、俺はそれを広めて行けたらいいなぁって思って。大学卒業しても金が貯まるまでは知り合いの店で働く予定です」
「素敵な夢だと思う。何度聞いても感動するよ。というか、店内で蒼馬くんが作った曲も流れてたらかっこよすぎない?」
「わはっ、たしかに」
悪戯顔の蒼馬くんはまだ少し残っている僕のグラスに酒を足した。
セーブしておくつもりだったが、好きな人から勧められたら飲むしかあるまい。
「ムードのある店内に美味しいお酒、マスターはイケメンな上に作曲もできる。そんなのどんな子でもメロメロになっちゃうね」
「マジっすか、涼さんでも?」
「あははっ! そうだね、なっちゃうなっちゃう」
もうすでにメロメロですけどね――と白状してしまう前に冷たいグラスを頬にピタリとつけて酔いを醒ます。ひんやりした表面が心地いい。
意を決したような真剣な表情の蒼馬くんは、突拍子もないことを切り出した。
「涼さんって、どんな人がタイプですか?」
「えー? 恋バナとか初めてじゃない? うーん、そうだなぁ」
初めて付き合った人はもう顔も思い出したくない。浮気相手とベッドで絡み合う姿を目撃したあの日から、嫌悪とか植え付けられた恐怖とかしか思い出せないからだ。
それから自分の存在価値を見出すために様々な男と寝たが、身体的な快感は得られても、心は凍ったままだった。不毛な自傷行為は、就職活動の始まりとともに終わりを迎えた。
結局どんなに道を踏み外そうとも正規ルートにしがみつきたくなる性分らしい。同性しか好きになれない自分を認めることができたのも大学になってからだし、おそらく自分は人よりゆっくりとしか成長できないのだ。
頭の中にぽわぽわと浮かんでは消える理想の人。ようやく形になったのは、朝まで抱きしめてくれた人の節くれだった男らしい手だった。
顔を見れなかったので、掴まれた手だけが強く印象に残っている。
ワンナイトした人物の詳細を明かすわけにもいかないので「好きになった人がタイプかな」と、ありきたりな当たり障りのない言葉を返す。
「一目惚れとかはない?」
桜と雨に塗られた世界に飛び込んで来た相手が問うのだから笑ってしまう。
「なんとなくいいなと思っても相手がそうとは限らないでしょ? だから一目惚れしたって認めるのは怖いよ。一度酷い失敗をしてるし、同じ轍は踏みたくないんだ」
「失敗って……」
「よくある話しで、浮気されてこっぴどく振られた。だから次はもっと相手を知って、自分を知ってもらってからじゃないと、怖い……」
「嗚呼、なるほど……。俺のことは結構知ってますよね?」
「う、うん? そうだね?」
「本名も名前も、大学も、交友関係とか仕事、将来の夢も、毎朝伝えてきたつもり。だから同じくらい俺も涼さんのことも結構知ってるよ」
「そうかも……?」
話の流れがおかしい。まるで僕が蒼馬くんと付き合えるか否か問われているようだ。
どうやら酔いがまわって来たらしい。都合が好すぎてそんなわけないと僕はわざとらしくへらっと笑った。
「ねえ、涼さんはどれくらい相手を知ったら付き合える?」
「どれくらい……」
「条件でもいいよ。譲れない条件とか」
いよいよ視界がぐわんぐわんと回り始めた。
たどたどしい呂律で蒼馬くんの言葉を繰り返して、考える。
「叩かないで、浮気しないって約束してくれる、とか……?」
僕がそう言うと、下唇を噛んだ蒼馬くんは泣きそうな顔をして立ち上がり僕が座る隣にしゃがみ込んだ。
「あとは?」
「できれば作ったご飯を残さず食べてくれると嬉しい」
「今日のご飯、美味しかったですもんね。俺なら残さず毎日写真に残して、記録する。んで、それから他にあります?」
「あ、朝まで抱きしめてくれる人がいい……愛して愛して、愛して、たまにでいいから僕も愛されたい、贅沢すぎ……?」
アルコールが入って泣くようなタイプじゃなかったのに、涙が零れた。
蒼馬くんの瞳があまりにも優しくて、まるでありのままの僕で良いと肯定されている気持ちになった。
「お願いされなくても朝まで一緒にいたい。俺がそうしたい。もう一回、俺にチャンスをください――」
体の骨が溶けたみたいに脱力した僕は腕を引かれると、簡単に蒼馬くんの胸の中に閉じ込められた。首元にはつうっと光る一筋の滴。汗と混ざって薫り立つシトラスがなぜか無性に懐かしくて、僕は思わず目をぎゅっと閉じた。
「やば! 玉ねぎのサラダもレストランみたいだし、コンビニ飯がいつもより美味そうに見える!」
「サラダは切っただけだし、お惣菜はお皿に盛りつけただけだよ」
「そのひと手間が嬉しいんじゃないっすか~! 俺なんか惣菜パックから直食いだし、ランチョンマットとかそもそも家にない」
「男の一人暮らしはそれが普通なんじゃないかな? とにかく温かいうちに食べようよ。今グラスも持ってくるね」
冷蔵庫に入れて冷やしておいたグラスに各々が買った酒を注ぐと、蒼馬くんは携帯で写真を撮り出した。
どうやら喜んでもらえたらしい。僕は引かれなくて良かったと胸をなでおろす。
「涼さん、初宅飲みの記念撮影しません?」
そう言って蒼馬くんは腕を伸ばしてスマートフォンを高く掲げた。僕も小さなテーブルの中心に身を寄せて、控えめにピースするとシャッター音が何度も鳴った。
「え?」
「ははっ、見てみて! 連写したんだけど、最後の方の涼さん目が猫みたいにまんまるになっててかわいー」
「そっ、そりゃあ驚くよ! 連写機能とか使ったことないし、そもそも写真も撮らないし……」
普段は朝の爽やかな自然光の下でしか会えない彼が目の前にいる。ただそれだけで心が浮ついて、頬が緩んでしまう。
「へえ、いつぶりの写真ですか?」
「証明写真……いや、社内報のためになんか取られたような?」
「プライベートじゃなくて仕事で撮ったのが最後って、やっぱこの写真激レアじゃん!」
「そんなありがたがるようなものでも……」
「いいや、宝物ですよ。俺は記憶とか気持ちとかそういうのに意義を見出すタイプなんで。今さらですけど、この写真送りたいんで連絡先教えてもらえませんか……?」
「もちろん! いいよ!」
端末をこちらに向けて連絡先を表示する蒼馬くんは、少し緊張して見えた。
一年間約束を取り付けなくても朝になれば会えた。不要だった連絡先が、写真一つでこんなにも簡単に手に入ってしまうなんて――。
表示された日下蒼馬という名前が特段輝いて見えた。
「蒼馬くんの名前、文字でも見てもかっこいいね」
「イェーイ。両親に感謝っすね。画数が多いし、一発変換されないので、友達からはソーマって書かれます。仕事用のSNSもソーマだから」
「仕事? 蒼馬くんは実習先の酒蔵でバイトしてたんじゃなかったっけ?」
「酒蔵の方もバイトっすけど、フリーで音楽系の活動してて……。プロって呼べるかは微妙なところで、まあ、趣味に毛が生えたアマチュアなんですけど――」
グラスを一気に傾けた蒼馬くんは喉を上下させた後、ぷはっと息を吐いた。
そして椅子の横に置いていた鞄から名刺らしきものを取り出して僕に差し出す。
「あんま人に言ってないんですけど、曲を作って動画サイトにアップしたり、友達のバンドに楽曲提供したりしてます。市役所のコンビニでバイトしてたやつ覚えてますか?」
「へえ、すごい! コンビニの彼も覚えてるよ、雰囲気のある人だったね」
「とっつきにくい感あるけど、中身はお節介兄貴って感じで面白いんすよ。俺が涼さんの話してたのも覚えてたみたいで、昨日初めて本物見たって連絡寄越してさ」
あのバンドマンの彼が僕の免許証を見て驚いていたのは、年齢だけではなく、蒼馬くんから聞いて名前だけ知っていた人物だったからなのだろう。
一体どんな話をしていたのか気になるが、蒼馬くんはあっけらかんとした表情なので悪い話ではないと願いたいところだ。
「ああ、だから家に来る前に彼女がどうこう言ってたんだね。昨日は磐木先輩と一緒だったから」
「すみません」
頬をかく蒼馬くんは空になったグラスを持ち上げた。
僕はすかさず缶からアルコールを継ぎ足す。
「遠慮せず飲んでね」
「ありがとうございます!」
酒が足りないと怒鳴られることはあっても、礼を言われることはなかった。
火照った頬がより熱くなる。好意が漏れ出してしまいそうだ。あえて話題を蒼馬くんの仕事に戻す。
「それにしても曲を作れるなんて多才だなぁ。でも東京にいた方がお仕事的には幅が広がるんじゃない……?」
「付き合いで色んなところ行きましたけど、やっぱ実家の酒が一番美味くて、もっと広めたいって気持ちは捨てらんなかったし、曲はパソコン一つあればどこでも作れるんで」
「そっか。蒼馬くんがそこまで言うご実家のお酒、今度飲んでみたいな。ネットでも購入できる?」
「そこは任せてくださいよ。今度持ってくるので、一緒に飲みましょ!」
「ありがとう。二本目からはちゃんと売上に貢献させていただくからね」
小指を差し出すと蒼馬くんはアルコールで火照ったのか、目を細めて口角を上げた。
子どものように指切りげんまんと陽気に歌いながら、酒をともに飲む約束をするちぐはぐな行為は、二人だけの秘密を持てたような気がして体温が上った。
「東京も良かったけど、こっちには涼さんもいるし、友達もできたし、楽しいんです。それに授業内容的にはこっちの姉妹校のが都合いいんですよ。実家の酒蔵以外見たことなかったし、色々勉強させてもらってます」
「将来はお酒を取り扱うお店やりたいって言ってたもんね」
朝が良く似合う男だとは思っていたが、それは朝にしか会っていなかったからで、パチパチと弾ける液体が入ったグラスを片手に微笑んでいる姿も良く似合う。
「実家は兄夫婦が継いでるんで、俺はそれを広めて行けたらいいなぁって思って。大学卒業しても金が貯まるまでは知り合いの店で働く予定です」
「素敵な夢だと思う。何度聞いても感動するよ。というか、店内で蒼馬くんが作った曲も流れてたらかっこよすぎない?」
「わはっ、たしかに」
悪戯顔の蒼馬くんはまだ少し残っている僕のグラスに酒を足した。
セーブしておくつもりだったが、好きな人から勧められたら飲むしかあるまい。
「ムードのある店内に美味しいお酒、マスターはイケメンな上に作曲もできる。そんなのどんな子でもメロメロになっちゃうね」
「マジっすか、涼さんでも?」
「あははっ! そうだね、なっちゃうなっちゃう」
もうすでにメロメロですけどね――と白状してしまう前に冷たいグラスを頬にピタリとつけて酔いを醒ます。ひんやりした表面が心地いい。
意を決したような真剣な表情の蒼馬くんは、突拍子もないことを切り出した。
「涼さんって、どんな人がタイプですか?」
「えー? 恋バナとか初めてじゃない? うーん、そうだなぁ」
初めて付き合った人はもう顔も思い出したくない。浮気相手とベッドで絡み合う姿を目撃したあの日から、嫌悪とか植え付けられた恐怖とかしか思い出せないからだ。
それから自分の存在価値を見出すために様々な男と寝たが、身体的な快感は得られても、心は凍ったままだった。不毛な自傷行為は、就職活動の始まりとともに終わりを迎えた。
結局どんなに道を踏み外そうとも正規ルートにしがみつきたくなる性分らしい。同性しか好きになれない自分を認めることができたのも大学になってからだし、おそらく自分は人よりゆっくりとしか成長できないのだ。
頭の中にぽわぽわと浮かんでは消える理想の人。ようやく形になったのは、朝まで抱きしめてくれた人の節くれだった男らしい手だった。
顔を見れなかったので、掴まれた手だけが強く印象に残っている。
ワンナイトした人物の詳細を明かすわけにもいかないので「好きになった人がタイプかな」と、ありきたりな当たり障りのない言葉を返す。
「一目惚れとかはない?」
桜と雨に塗られた世界に飛び込んで来た相手が問うのだから笑ってしまう。
「なんとなくいいなと思っても相手がそうとは限らないでしょ? だから一目惚れしたって認めるのは怖いよ。一度酷い失敗をしてるし、同じ轍は踏みたくないんだ」
「失敗って……」
「よくある話しで、浮気されてこっぴどく振られた。だから次はもっと相手を知って、自分を知ってもらってからじゃないと、怖い……」
「嗚呼、なるほど……。俺のことは結構知ってますよね?」
「う、うん? そうだね?」
「本名も名前も、大学も、交友関係とか仕事、将来の夢も、毎朝伝えてきたつもり。だから同じくらい俺も涼さんのことも結構知ってるよ」
「そうかも……?」
話の流れがおかしい。まるで僕が蒼馬くんと付き合えるか否か問われているようだ。
どうやら酔いがまわって来たらしい。都合が好すぎてそんなわけないと僕はわざとらしくへらっと笑った。
「ねえ、涼さんはどれくらい相手を知ったら付き合える?」
「どれくらい……」
「条件でもいいよ。譲れない条件とか」
いよいよ視界がぐわんぐわんと回り始めた。
たどたどしい呂律で蒼馬くんの言葉を繰り返して、考える。
「叩かないで、浮気しないって約束してくれる、とか……?」
僕がそう言うと、下唇を噛んだ蒼馬くんは泣きそうな顔をして立ち上がり僕が座る隣にしゃがみ込んだ。
「あとは?」
「できれば作ったご飯を残さず食べてくれると嬉しい」
「今日のご飯、美味しかったですもんね。俺なら残さず毎日写真に残して、記録する。んで、それから他にあります?」
「あ、朝まで抱きしめてくれる人がいい……愛して愛して、愛して、たまにでいいから僕も愛されたい、贅沢すぎ……?」
アルコールが入って泣くようなタイプじゃなかったのに、涙が零れた。
蒼馬くんの瞳があまりにも優しくて、まるでありのままの僕で良いと肯定されている気持ちになった。
「お願いされなくても朝まで一緒にいたい。俺がそうしたい。もう一回、俺にチャンスをください――」
体の骨が溶けたみたいに脱力した僕は腕を引かれると、簡単に蒼馬くんの胸の中に閉じ込められた。首元にはつうっと光る一筋の滴。汗と混ざって薫り立つシトラスがなぜか無性に懐かしくて、僕は思わず目をぎゅっと閉じた。
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