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翌朝、目が覚めた僕はまたしても後ろから誰かに抱きかかえられていた。
すうすうと穏やかな寝息が聞こえる。
なんて最低なデジャブ。しかも今回は行きずりの相手ではなく、よく知っている人物だ。
上半身を起こすと、ベッドの下には何故か自慰用のシリコン製の紫色のディルドやローター、ローションが転がっていて、使用済みのゴムやティッシュもゴミ箱のそばに落ちているのが見えた。
久しぶりに誰かを受け入れた身体はあちこちが痛むが、好きな人と朝を迎えることができたのは初めての経験で、体も心も満たされた充実感のようなものがある。ところがそれも束の間の喜びで、すぐに自分勝手な欲求に蒼馬くんを巻き込んだ焦燥感に苛まれる。
年齢差はあってないようなものだが、学生と社会人。率先して分別をわきまえて行動しなければならないのは自分の方だ。
ひとまず身なりを整えるために服を着ようと思ったが、なぜか蒼馬くんの服しか見当たらず、僕のものは下着すら見当たらなかった。おそらく酔った勢いでリビングで脱ぎ散らかし、ベッドにダイブしたのだろう。そしてあろうことか、僕は洗って乾かしておいたディルドをご丁寧に洗面所まで回収しに行って蒼馬くんを襲った。
昨晩もほろ酔い気分で自慰に耽って寝落ちしたので、自分が取った行動もなんとなくわかる。
しかし、なぜ蒼馬くんが僕の誘いに乗ったのか理解できない。
僕の家に来てすぐに蒼馬くんは洗面所で手を洗った。出てきたあとは挙動不審だった。つまり隠し忘れた大人の玩具を見つけて動揺したのだろう。高い位置にあるケースに入れておいたはずだが、身長差を失念していた。
「本当にどうしてこうなったの……?」
昨晩抱かれながら思っていた言葉が零れる。
すると蒼馬くんはゆっくりと目を開けて「おはようございます」と言って、へにゃっと笑った。
「おは、よう……?」
「あーもう、また逃げ出して。ダメじゃん」
「え? う、うわわ」
寝起きとは思えない力で布団に引きずり込まれ、一回りも二回りも大きな胸に抱かれる。
足の間にぐりっと硬いものが押し付けられて、僕は思わず背を丸めて縮こまった。
「そ、蒼馬くんの勃ってる⁉」
「だって俺、涼さんほどイってないからね。今日休みでしょ? もう一回付き合ってくださいよ」
ちゅっとわざと音を出してキスをした蒼馬くんの顔を両手ではさむんで制止する。
「だ、だめ!」
「体しんどい……?」
「そ、そうじゃなくて、蒼馬くんは嫌じゃないの?」
「いやわけないじゃないですか。ずっと探してた人と再会して、やっと恋人になれたんだから」
「こ、恋人⁉ 誰と誰が⁉」
そんなの僕と蒼馬くんしかいないのだが、あまりにも信じられない現実に確認せざるを得なかった。
蒼馬くんは眉間に皺を寄せると、僕の手を引きながら上半身を起こしてベッドの上で向かい合うようにしてあぐらをかいた。
「恥ずかしくて照れてるだけ? ホントにまた忘れた……?」
「ごめんなさい……。僕、お酒に弱くて……その、シてる最中に一回覚醒したんだけど、また気を失ってしまって」
「途中でやけにいやいや言うな~と思ったけど、本気で逃げようとしてたんだ。セックスする前の最後の記憶はいつ?」
「ご飯食べながら、好きなタイプについて話してたところあたりまで……」
「一番いいとこの記憶全カット⁉ ええ~マジかよ……涼さんもはっきり喋ってたからわかんなかった。酔うとエロくなって記憶飛ぶ系ね……」
「エロく……」
「でもそれじゃ怖かったっすよね……。好きでもないやつに抱かれて、さっきもちんこ押し付けられて……」
片手で顔を覆う蒼馬くんの腕を掴むと、僕は全力で首を振った。叫ぶようにして弁解する。
「嬉しかったよ! ああ、ち……んちんのことじゃなくて、僕がゲイだって知ってもこうして普通に話してもらえてることが。それにこの一年間、どれだけ僕が朝の短い会話を楽しみにしてたと思う? 蒼馬くんのこと知るたびに舞い上がって、一昨日なんか投げチューされただけで慣れないお酒で祝杯あげるくらい……」
「あー! 良かった、それは本音だったんだ! へへっ、じゃあ俺のこと思って一人で玩具使ってシちゃうのも……」
酔った僕はどうやら言わなくていいことまで白状していたらしい。抱いてくれと縋った以上にみっともないことをペラペラと白状してくれていたようだ。
先ほどのしおらしさが嘘だったかのように蒼馬くんニヤニヤしながら詰め寄って来る。
僕が焦って顔を隠そうとすると、ダメだと両手を取られて覗き込まれた。
「酔っ払いの冗談だよ! ち、ちなみに他にも何か言ってた……?」
「蒼馬くんしゅきしゅき大ちゅきって言ってた」
「絶対それは言ってないっ!」
「それに近いことは言ってましたー。あとは俺のちんこしゃぶりながらごめんねって謝ってたかな。気持ち良くしてもらって申し訳ないのはこっちなのに」
最悪のコンボにもう一度記憶を飛ばしたくなったが、そう都合良くはいかない。
羞恥心と罪悪感に打ちのめされながら、僕はどうやって襲った罪を償うか思考を巡らせる。
「……今さらだけど、どんなに小柄でも僕だって男だよ。気持ち悪くなかったの?」
「男なのは知ってますよ? 昨日散々ここから出してたじゃないっすか。まあ、俺がそうしたんだけど」
目を細めて意地の悪い顔をした蒼馬くんと目が合うと、愛おしそうにこちらを見つめる視線に囚われた。
「ひっ……! なんで⁉ なんでこんな距離近くなってるの⁉」
「二回もセックスしてりゃ近くもなるって。そっか、俺が好きだって伝えたのも忘れてるんでしたっけ」
「す、好き……?」
「いいですよ、何回だって伝えます。俺の告白、聞いてください」
「え……?」
「二年前、涼さんが金髪だった頃からあなたが好きです。もっとお互いを知らないと付き合えないって言ってたから、この一年間ひたすら自己開示してきたつもりです。毎日の会話の積み重ねでよりあなたに惹かれました。子供たちにとっては優しいお兄さんで、先輩にとっては可愛い後輩で、誰にでも愛される人なのだと思います。だけど、ずっとその視線を、心をひとりじめしたかった。会社の先輩は彼女でもなんでもなくて、俺の勘違いだったけど、この人しかいないと、改めて思わされた」
「本気……?」
「俺は伝わるまで何回だって言うし、どこまでも追いかけますよ」
掴まれた手首に力が入る。その節くれだった指が、東京での最後の人と蒼馬くんがようやく重なった。
すうすうと穏やかな寝息が聞こえる。
なんて最低なデジャブ。しかも今回は行きずりの相手ではなく、よく知っている人物だ。
上半身を起こすと、ベッドの下には何故か自慰用のシリコン製の紫色のディルドやローター、ローションが転がっていて、使用済みのゴムやティッシュもゴミ箱のそばに落ちているのが見えた。
久しぶりに誰かを受け入れた身体はあちこちが痛むが、好きな人と朝を迎えることができたのは初めての経験で、体も心も満たされた充実感のようなものがある。ところがそれも束の間の喜びで、すぐに自分勝手な欲求に蒼馬くんを巻き込んだ焦燥感に苛まれる。
年齢差はあってないようなものだが、学生と社会人。率先して分別をわきまえて行動しなければならないのは自分の方だ。
ひとまず身なりを整えるために服を着ようと思ったが、なぜか蒼馬くんの服しか見当たらず、僕のものは下着すら見当たらなかった。おそらく酔った勢いでリビングで脱ぎ散らかし、ベッドにダイブしたのだろう。そしてあろうことか、僕は洗って乾かしておいたディルドをご丁寧に洗面所まで回収しに行って蒼馬くんを襲った。
昨晩もほろ酔い気分で自慰に耽って寝落ちしたので、自分が取った行動もなんとなくわかる。
しかし、なぜ蒼馬くんが僕の誘いに乗ったのか理解できない。
僕の家に来てすぐに蒼馬くんは洗面所で手を洗った。出てきたあとは挙動不審だった。つまり隠し忘れた大人の玩具を見つけて動揺したのだろう。高い位置にあるケースに入れておいたはずだが、身長差を失念していた。
「本当にどうしてこうなったの……?」
昨晩抱かれながら思っていた言葉が零れる。
すると蒼馬くんはゆっくりと目を開けて「おはようございます」と言って、へにゃっと笑った。
「おは、よう……?」
「あーもう、また逃げ出して。ダメじゃん」
「え? う、うわわ」
寝起きとは思えない力で布団に引きずり込まれ、一回りも二回りも大きな胸に抱かれる。
足の間にぐりっと硬いものが押し付けられて、僕は思わず背を丸めて縮こまった。
「そ、蒼馬くんの勃ってる⁉」
「だって俺、涼さんほどイってないからね。今日休みでしょ? もう一回付き合ってくださいよ」
ちゅっとわざと音を出してキスをした蒼馬くんの顔を両手ではさむんで制止する。
「だ、だめ!」
「体しんどい……?」
「そ、そうじゃなくて、蒼馬くんは嫌じゃないの?」
「いやわけないじゃないですか。ずっと探してた人と再会して、やっと恋人になれたんだから」
「こ、恋人⁉ 誰と誰が⁉」
そんなの僕と蒼馬くんしかいないのだが、あまりにも信じられない現実に確認せざるを得なかった。
蒼馬くんは眉間に皺を寄せると、僕の手を引きながら上半身を起こしてベッドの上で向かい合うようにしてあぐらをかいた。
「恥ずかしくて照れてるだけ? ホントにまた忘れた……?」
「ごめんなさい……。僕、お酒に弱くて……その、シてる最中に一回覚醒したんだけど、また気を失ってしまって」
「途中でやけにいやいや言うな~と思ったけど、本気で逃げようとしてたんだ。セックスする前の最後の記憶はいつ?」
「ご飯食べながら、好きなタイプについて話してたところあたりまで……」
「一番いいとこの記憶全カット⁉ ええ~マジかよ……涼さんもはっきり喋ってたからわかんなかった。酔うとエロくなって記憶飛ぶ系ね……」
「エロく……」
「でもそれじゃ怖かったっすよね……。好きでもないやつに抱かれて、さっきもちんこ押し付けられて……」
片手で顔を覆う蒼馬くんの腕を掴むと、僕は全力で首を振った。叫ぶようにして弁解する。
「嬉しかったよ! ああ、ち……んちんのことじゃなくて、僕がゲイだって知ってもこうして普通に話してもらえてることが。それにこの一年間、どれだけ僕が朝の短い会話を楽しみにしてたと思う? 蒼馬くんのこと知るたびに舞い上がって、一昨日なんか投げチューされただけで慣れないお酒で祝杯あげるくらい……」
「あー! 良かった、それは本音だったんだ! へへっ、じゃあ俺のこと思って一人で玩具使ってシちゃうのも……」
酔った僕はどうやら言わなくていいことまで白状していたらしい。抱いてくれと縋った以上にみっともないことをペラペラと白状してくれていたようだ。
先ほどのしおらしさが嘘だったかのように蒼馬くんニヤニヤしながら詰め寄って来る。
僕が焦って顔を隠そうとすると、ダメだと両手を取られて覗き込まれた。
「酔っ払いの冗談だよ! ち、ちなみに他にも何か言ってた……?」
「蒼馬くんしゅきしゅき大ちゅきって言ってた」
「絶対それは言ってないっ!」
「それに近いことは言ってましたー。あとは俺のちんこしゃぶりながらごめんねって謝ってたかな。気持ち良くしてもらって申し訳ないのはこっちなのに」
最悪のコンボにもう一度記憶を飛ばしたくなったが、そう都合良くはいかない。
羞恥心と罪悪感に打ちのめされながら、僕はどうやって襲った罪を償うか思考を巡らせる。
「……今さらだけど、どんなに小柄でも僕だって男だよ。気持ち悪くなかったの?」
「男なのは知ってますよ? 昨日散々ここから出してたじゃないっすか。まあ、俺がそうしたんだけど」
目を細めて意地の悪い顔をした蒼馬くんと目が合うと、愛おしそうにこちらを見つめる視線に囚われた。
「ひっ……! なんで⁉ なんでこんな距離近くなってるの⁉」
「二回もセックスしてりゃ近くもなるって。そっか、俺が好きだって伝えたのも忘れてるんでしたっけ」
「す、好き……?」
「いいですよ、何回だって伝えます。俺の告白、聞いてください」
「え……?」
「二年前、涼さんが金髪だった頃からあなたが好きです。もっとお互いを知らないと付き合えないって言ってたから、この一年間ひたすら自己開示してきたつもりです。毎日の会話の積み重ねでよりあなたに惹かれました。子供たちにとっては優しいお兄さんで、先輩にとっては可愛い後輩で、誰にでも愛される人なのだと思います。だけど、ずっとその視線を、心をひとりじめしたかった。会社の先輩は彼女でもなんでもなくて、俺の勘違いだったけど、この人しかいないと、改めて思わされた」
「本気……?」
「俺は伝わるまで何回だって言うし、どこまでも追いかけますよ」
掴まれた手首に力が入る。その節くれだった指が、東京での最後の人と蒼馬くんがようやく重なった。
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