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 「鮫川、この任務を頼めるのはお前しかいないんだ。お願いできるか?」
「はい。やらせて頂きます。」
 ここまで五年間、警護任務で実力が認められるようになってから大仕事を頼まれることも増えた。
 しかし、まさか殺害予告が送られている総理大臣の警護をするとは夢にも思わなかった。しかも任務というのが、総理の外出に必ず着いていき、警護すること。そして、総理の家に住みこんで任務を遂行する。
 いくら優秀とは言え、まだまだ新人の部類に入る俺にこんな重要な任務を託すか?
 本当に警察庁は意味がわからない。
 任務は明日から始まる。

 

 「本日から総理の警護を担当させていただく、鮫川と申します。至らない点もありますが、よろしくお願いします。」
「ありがとう。こんな私のために警護をしてくれるなんて。よろしくね。気楽にしていいからね。」
 殺害予告されている人とは思えない程優しそうな人だった。歳は俺の父親より少し上くらいの見た目で、テレビで見るより、かなりガタイが良かった。
 少しこの任務は不安だった。もし総理の性格が堅苦しくて気難しい人だったら、俺は後悔していただろう。
 実際はとても優しそうな人で、コアラみたいなのほほんとしている顔だった。

 「早速なんだけど、これから中橋パープルの試食会に行くからよろしくね。」
「はい。」
こんなご時世にフルーツの試食かよとは思ったが、総理の行く場所に俺はついて行かなければならない。
 中橋市は首都から車で二時間ほどの場所にある。そして、中橋市はあの問題を残してこの世を去った、君代総理の出身地でもある。
 その為、現総理を嫌う人もいるという。
 なんでいつ殺されてもおかしくない時に、危ない場所に自ら向かうのか、総理の思考が全く分からなかった。

 会場に到着すると、警護の人で埋め尽くされていた。さすがに警護の数は多い。俺は総理に一番近い場所で警護をする。
 恐らく会場の警護体制の予定などがあるはずなのだが、俺には一切知らせが来ていない。
 全く上部は何を考えているんだ。



 はぁ、やっとだ。やっと食べれる。この時を待っていたんだ。
 私が何故、わざわざ危険な場所のフルーツの試食をしに来たのかと言うと、単純に新鮮なぶどうが食べたかったからだ。
 側近には、「この先、外交で役に立つかもしれない」とか適当な理由をつけて無理やり来てしまった。
 しかし、ここまで来たからにはぶどうを楽しみまくってやるぞ。
 と、意気込んでいたが、あまりにも警護の数が多くて気分が悪くなる。これじゃせっかくのぶどうが楽しめないじゃないか。
 あともう少しで試食会が始まる。凄く待ち遠しい。この感覚は子供の時以来だな。
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