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 試食会が始まった。警護関係者はピリピリとした雰囲気で、臨戦態勢だった。
 「お腹がすいて大変だよ。」
 なんでこの総理はリラックスしているんだ。少し脳天気な総理に腹が立ったが、俺には総理を守るという任務がある。全ては任務のためと自分に言い聞かせた。

 「とても美味しいです!皮がパリッとしているんですが身がジューシーで甘さが口いっぱいに広がります!」
 総理はグルメリポーター顔負けの食レポを披露した。とても美味しそうにぶどうを頬張る総理が愛おしく見えるくらいだった。
 その時だった。
 「総理!ぶどうを食べるのをやめてください!」
 近くの警護が叫んだ。緊急事態を察知し、俺は総理を連れて、近くの控え室に逃げ込んだ。
 俺の経験上、恐らくぶどうに毒を盛られたのだろう。
 くそっ。総理はぶどうを沢山食べてしまっている。命はないだろう。俺の責任だ。
 「総理!毒物の検査を行います!」
 現場が騒然としている中、総理は顔色をひとつも変えずに受け答えに応じた。

 現場の皆が結果に注目した。
 「どの毒物も検出されませんでした!」
 その場の誰もが一安心した。俺も例外では無い。
 とりあえず、総理は首都に戻ることにした。
 
 その後、総理がこれから食べる予定だったマスカットに毒が盛られていたのが判明した。
 優秀な警護のおかげで助かったのだ。
 さて、本題はこれからだ。犯人は誰なのか。ぜったいに探し出してやる。



 まさかぶどうに毒が盛られるとは思わなかった。本当に警護が気づいてくれて助かったよ。
 しかし、腹が全く満たされないまま、首都に戻ることになってしまった。やれやれ、これからは食べるもの一つ一つに気を使わないと行けなくなるなんて最悪だ。
 「鮫川くん、迅速な対応ありがとうね。」
「いえいえ、総理をお守りするのが私の使命ですから」
 鮫川くんは頼もしい。何故か安心出来る。この人と一緒にいれば大丈夫って思える。
 さて、これからまた仕事か。ぶどうもっと食べたかったな。
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