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 「強く隣国を非難致します。経済制裁を加えることを検討し、このような攻撃を抑止する防衛設備を強化することを計画しています。」
 実は昨日、隣国の海を挟んだ島から弾道ミサイルが我が国の東南地方20kmの場所に落下した。この影響で漁業関係者が、政府に対し、支援を要求した。当たり前だ。自分たちの仕事場を壊されてしまっては仕事が出来ない。もちろん直ぐに対応し、支援を漁業関係者にする。
 しかし、今までも度々隣国からミサイルが飛来してくることはあったが、ここまで陸地から近い場所に落下することはなかった。国連にも隣国への制裁を要求し、同盟国にも協力を要請した。
 この対処で私はほぼ寝られていない。まさかこんな事で、記者会見をするとは。このような会見は官房長官がやるもんじゃないのか。
 こんなことを言っていても仕方がない。

 台本をそれっぽく読み上げて行くだけだが、ひとつでも言い間違いをするとネットのおもちゃになってしまうので、かなり気をつけている。
 ふと、視界の端で誰かが動いた気がした。そちらの方に視線を向けるが、動くものなど誰もいなかった。
 順調に会見は終わり、久しぶりに殺されかけるようなことがなかった。普通はこれが当たり前なのに。早く平和な日常に戻って欲しいものである。
 あれ?そういえば鮫川くんいないなぁ。




 まさかミサイルが飛んでくるとは全く思わなかったが、俺からしたらチャンスでしかなかった。総理の会見中俺は目を光らせていた。
 怪しい人は仕草で95%は分かる。細かい動作を見逃すことなく見ていくと、一人非常に怪しい奴がいた。髪は茶髪で、記者には似合わないルックスだ。
 10秒に一回、左側にあるチャック付きのバックを見ていて、少しだけ目線に違和感があった。
 俺はコイツをロックオンすることにした。

 「制裁を計画しています。そして、…」
 総理の話が終盤に差しかかる時、ヤツは動き出した。バックに手を伸ばし、一瞬だけ光るブツが見えたのだ。
 「ちょっときて。」
 ヤツはかなり動揺していた。
 俺はほとんど他の人に見られることなく、やつを連れ出すことが出来た。

 「お前、バックの中見せろ。手荒な真似はしたくないんだ。」
「はぁ。もう無理か。」
 諦めた様子で男は話し出した。
 「俺はbrawlerの下っ端さ。上のやつらから捨て駒のように扱われて、今日総理を殺せって言われて銃一丁持たされて来たって訳。」
「わかった。バックの中漁るぞ。あ、後俺に危害を加えようものならお前の命はないからな。」
 男は黙り込んだ。俺はバックの中を物色した。
 「あった。」
 会員証があった。その他にも見たことがない通信機具や書類が見つかった。これは直ぐに澄野に連絡しなければ。
 「ありがとう。お前はもう用済みだ。感謝するぞ。」
「嫌だ、いのちだけは。助けてく」
 おっと、シャツに血が着いてしまった。早く洗わないとだな。
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