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 「ほほぉん。これはかなり進展するぞぉ。えっとぉ、これはこれでぇ。」
「終わったら教えろよー」
 いつもクールな澄野が珍しく興奮した様子で調べている。こういう時は勝手にやらせておけばいいんだよね。
 「後、出来れば明日の明け方には計画を実行したいな。早くbrawlerを潰したいぜ。」
 後ろから誰かの気配を感じ、俺は振り返った。
 「鮫川、くん?」
「総理。これはあの、」
「そんなに慌てなくていいよ。説明してくれるかい?」
「はい。」
 俺は総理に俺が悪人潰しを行っていることと、計画を話した。
「鮫川くんのおかげで被害が最小限で抑えられているのか。本当に感謝してもしきれないよ。」
「いえいえ、趣味のようなものですので。しかし、このことを世に打ち明けられてしまうと…」
「わかった。必ず約束するよ。この事は口外しない。」
 本当に総理がわかる人で良かった。俺の勘が、この人には話していいと言っていた。
「実は前にもbrawlerの一員を潰したりしていたんですよ。」
 俺が前の話をし出すと、総理の顔が曇った。何か失言をしてしまったかもしれない。
「それって、若い少年かい?」
「えーと。恐らくそうです。」
 俺はここで初めて気づいた。あの時、俺が潰したのは、総理の息子さんなんだ。何故俺は気づかなかった?何故俺は話してしまった?脳内で後悔の言葉がクルクル回っていた。
 「そ、総理。私を殺してください!」
 俺は咄嗟に口に出してしまった。もうここまで来たら殺されても文句は言えない。いっその事殺してくれた方がいい。
 しかし総理は想定外のことを話し出す。
「そうか。ヒロシは、君にね。でも鮫川くんがこうするってことは相当悪なことをしていたんだよね。それは私の責任だ。君を恨むなんて、私には出来ないよ。」
 総理は珍しく言葉を詰まらせていた。それもそうだ。息子を殺した犯人が目の前にいるのだから。
 「鮫川くん、私の息子はどんなことをしでかしたのか教えてくれ。」
「息子さんは、非常に申し訳にくいのですが…」
「早く言ってくれ!」
 総理が突然声を荒らげた。総理をこんな状況に立たせるなんて、俺は本当に酷いやつだ。
 俺は全てを総理に話すことにした。
 「息子さん。いや、ヒロシさんは、数年前の老人ホーム大量虐殺事件の実行犯だったんです。犯人は現在見つかっていないとなっていて、brawlerが関係しているとは警察すらも知らないです。brawlerはヒロシさんを捨て駒として扱ったのです。ですが、ヒロシさんは警察から上手く逃げ切ることに成功しました。しかし、その時私は、老人ホーム大量虐殺事件の犯人を探していて。その、仲間と犯人を探し出し、ヒロシさんが犯人だと知りました。そして、私は、ヒロシさんを。」
「すまない。もう、これ以上は言わなくていいよ。ごめんね。ごめんね。こんなことを話させてしまって。」
 俺は気づいたら泣き出していた。総理も泣いていた。

 この出来事で俺と総理は、より一層親交が深まった。
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