ただいま、魔法の授業中!

ロンメル

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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)

三、人生で最も長く感じた5分

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 シュウは校舎の3階までをものの1分で登りきった。当初の予定通り、8時30分の始業前の到着である。先に到着していた彦根が窓を開け、シュウを迎え入れる。
「おいおいおい!ここ、3階だぜ!?まさか窓から登校するとは思わなかったぜ。すげぇな、シュウは!」
 シュウのルームメイトである橋場聡介そうすけは、興奮気味に彦根と共にシュウを迎え入れた。他のクラスメイトは呆気にとられたのか、呆然とシュウ達の様子を眺めている。
「ゼェ…、ゼェ…、間に合った…か?」
 シュウは床に倒れ込み、息切れ切れに彦根に尋ねる。完全にスタミナ切れのようだった。生まれたての小鹿のように体を震わせている。
「ああ、まだ先生は来ていないぞ…!滑り込みセーフだ!」
「待ってたぞ、シュウ!良かったな、間に合って!」
 ここで遠巻きにシュウ達を眺めていた生徒一同は一様に何の事態か察し始める。

 ―――そうか、この人は遅刻しそうになったから、3階の窓から登校したのか。

 それは果たして理に適っているのか?普通の人は普通に登校し、間に合わなければ普通に遅刻をするだけだ。彼はだらしがない癖に真面目な人間なのか。いや、シュウには人知れず、遅刻をする訳にもいかない理由があるのだが、それはこの場にいる大勢には知る由も無い話なのである。

 シュウは彦根と聡介の肩を借りながら、上履きに履き替える。すっかり安堵していたが、途端、ドロリとした冷たい魔力の流れを教室に感じる。シュウは、未知の人間が教室に人知れず侵入している気配を察知した。

「―――良かったわねぇ、シュウ・ガントランス。鬼ヶ原先生には見逃して貰えたそうよ?」

 女性の冷たい声の主は、どこからともなく侵入し、シュウに見えない圧力を与える。

 ―――鬼ヶ原先生?それは誰のことだ?

 シュウは女性の言葉に首を傾げる。もしかして、生徒玄関にいたオークのような先生か。あれは見逃していたのか。シュウの疑念は黒い渦を巻く。

「―――登校初日だものねぇ、生徒玄関から登校しても、注意で済んだそうだけど…」

 椅子だ。声の主は教壇に置かれた椅子の上から声を発している。しかし、その姿は見えない。気配と声の方向だけでその存在は分かった。

「―――でもね、シュウ・ガントランス。あなた、ここに来るまでに一体いくつの結界を突破してきたの?」

 シュウは頭から血の気が引くのを感じた。やはり、屋根伝いはまずかったか。登校途中、違和感を何回か覚えていたが、急いでいたので完全に無視をしていた。
「おかげで、朝から職員室はちょっとしたパニックになっていたのよ?」
 椅子の上に朧気おぼろげな影が立つ。それは黒板を凌ぎ天井まで届く程の歪で巨大な影。怒っているのだろうか、その柔らかい口調には若干の怒気が孕む。しかしそれも徐に椅子の上に縮み始めたかと思うと、影の主はその輪郭を帯び始める。
 黒いスーツに身を包んだ女性が、教壇に据えられていた椅子に脚を組んで座っていた。シュウを挟む彦根も橋場も、女性の怒気に気圧され、シュウから離れていく。

「…まぁ、良いわ。座って頂戴。まずはホームルームを始めないとね。折角間に合ったのだし」
 女性がそう言い終えると、始業のチャイムが鳴り始める。
 途方もない時間のように感じられたが、5分しか経っていなかったようだ。シュウの人生で一番長い5分間であった。
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