4 / 22
第1章 今日から君も魔法使い(見習い)
三、人生で最も長く感じた5分
しおりを挟む
シュウは校舎の3階までをものの1分で登りきった。当初の予定通り、8時30分の始業前の到着である。先に到着していた彦根が窓を開け、シュウを迎え入れる。
「おいおいおい!ここ、3階だぜ!?まさか窓から登校するとは思わなかったぜ。すげぇな、シュウは!」
シュウのルームメイトである橋場聡介は、興奮気味に彦根と共にシュウを迎え入れた。他のクラスメイトは呆気にとられたのか、呆然とシュウ達の様子を眺めている。
「ゼェ…、ゼェ…、間に合った…か?」
シュウは床に倒れ込み、息切れ切れに彦根に尋ねる。完全にスタミナ切れのようだった。生まれたての小鹿のように体を震わせている。
「ああ、まだ先生は来ていないぞ…!滑り込みセーフだ!」
「待ってたぞ、シュウ!良かったな、間に合って!」
ここで遠巻きにシュウ達を眺めていた生徒一同は一様に何の事態か察し始める。
―――そうか、この人は遅刻しそうになったから、3階の窓から登校したのか。
それは果たして理に適っているのか?普通の人は普通に登校し、間に合わなければ普通に遅刻をするだけだ。彼はだらしがない癖に真面目な人間なのか。いや、シュウには人知れず、遅刻をする訳にもいかない理由があるのだが、それはこの場にいる大勢には知る由も無い話なのである。
シュウは彦根と聡介の肩を借りながら、上履きに履き替える。すっかり安堵していたが、途端、ドロリとした冷たい魔力の流れを教室に感じる。シュウは、未知の人間が教室に人知れず侵入している気配を察知した。
「―――良かったわねぇ、シュウ・ガントランス。鬼ヶ原先生には見逃して貰えたそうよ?」
女性の冷たい声の主は、どこからともなく侵入し、シュウに見えない圧力を与える。
―――鬼ヶ原先生?それは誰のことだ?
シュウは女性の言葉に首を傾げる。もしかして、生徒玄関にいたオークのような先生か。あれは見逃していたのか。シュウの疑念は黒い渦を巻く。
「―――登校初日だものねぇ、生徒玄関から登校しても、注意で済んだそうだけど…」
椅子だ。声の主は教壇に置かれた椅子の上から声を発している。しかし、その姿は見えない。気配と声の方向だけでその存在は分かった。
「―――でもね、シュウ・ガントランス。あなた、ここに来るまでに一体いくつの結界を突破してきたの?」
シュウは頭から血の気が引くのを感じた。やはり、屋根伝いはまずかったか。登校途中、違和感を何回か覚えていたが、急いでいたので完全に無視をしていた。
「おかげで、朝から職員室はちょっとしたパニックになっていたのよ?」
椅子の上に朧気な影が立つ。それは黒板を凌ぎ天井まで届く程の歪で巨大な影。怒っているのだろうか、その柔らかい口調には若干の怒気が孕む。しかしそれも徐に椅子の上に縮み始めたかと思うと、影の主はその輪郭を帯び始める。
黒いスーツに身を包んだ女性が、教壇に据えられていた椅子に脚を組んで座っていた。シュウを挟む彦根も橋場も、女性の怒気に気圧され、シュウから離れていく。
「…まぁ、良いわ。座って頂戴。まずはホームルームを始めないとね。折角間に合ったのだし」
女性がそう言い終えると、始業のチャイムが鳴り始める。
途方もない時間のように感じられたが、5分しか経っていなかったようだ。シュウの人生で一番長い5分間であった。
「おいおいおい!ここ、3階だぜ!?まさか窓から登校するとは思わなかったぜ。すげぇな、シュウは!」
シュウのルームメイトである橋場聡介は、興奮気味に彦根と共にシュウを迎え入れた。他のクラスメイトは呆気にとられたのか、呆然とシュウ達の様子を眺めている。
「ゼェ…、ゼェ…、間に合った…か?」
シュウは床に倒れ込み、息切れ切れに彦根に尋ねる。完全にスタミナ切れのようだった。生まれたての小鹿のように体を震わせている。
「ああ、まだ先生は来ていないぞ…!滑り込みセーフだ!」
「待ってたぞ、シュウ!良かったな、間に合って!」
ここで遠巻きにシュウ達を眺めていた生徒一同は一様に何の事態か察し始める。
―――そうか、この人は遅刻しそうになったから、3階の窓から登校したのか。
それは果たして理に適っているのか?普通の人は普通に登校し、間に合わなければ普通に遅刻をするだけだ。彼はだらしがない癖に真面目な人間なのか。いや、シュウには人知れず、遅刻をする訳にもいかない理由があるのだが、それはこの場にいる大勢には知る由も無い話なのである。
シュウは彦根と聡介の肩を借りながら、上履きに履き替える。すっかり安堵していたが、途端、ドロリとした冷たい魔力の流れを教室に感じる。シュウは、未知の人間が教室に人知れず侵入している気配を察知した。
「―――良かったわねぇ、シュウ・ガントランス。鬼ヶ原先生には見逃して貰えたそうよ?」
女性の冷たい声の主は、どこからともなく侵入し、シュウに見えない圧力を与える。
―――鬼ヶ原先生?それは誰のことだ?
シュウは女性の言葉に首を傾げる。もしかして、生徒玄関にいたオークのような先生か。あれは見逃していたのか。シュウの疑念は黒い渦を巻く。
「―――登校初日だものねぇ、生徒玄関から登校しても、注意で済んだそうだけど…」
椅子だ。声の主は教壇に置かれた椅子の上から声を発している。しかし、その姿は見えない。気配と声の方向だけでその存在は分かった。
「―――でもね、シュウ・ガントランス。あなた、ここに来るまでに一体いくつの結界を突破してきたの?」
シュウは頭から血の気が引くのを感じた。やはり、屋根伝いはまずかったか。登校途中、違和感を何回か覚えていたが、急いでいたので完全に無視をしていた。
「おかげで、朝から職員室はちょっとしたパニックになっていたのよ?」
椅子の上に朧気な影が立つ。それは黒板を凌ぎ天井まで届く程の歪で巨大な影。怒っているのだろうか、その柔らかい口調には若干の怒気が孕む。しかしそれも徐に椅子の上に縮み始めたかと思うと、影の主はその輪郭を帯び始める。
黒いスーツに身を包んだ女性が、教壇に据えられていた椅子に脚を組んで座っていた。シュウを挟む彦根も橋場も、女性の怒気に気圧され、シュウから離れていく。
「…まぁ、良いわ。座って頂戴。まずはホームルームを始めないとね。折角間に合ったのだし」
女性がそう言い終えると、始業のチャイムが鳴り始める。
途方もない時間のように感じられたが、5分しか経っていなかったようだ。シュウの人生で一番長い5分間であった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる
葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる