ただいま、魔法の授業中!

ロンメル

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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)

五、嵐のような少女

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 入学式が無事に終わり、二時限目のホームルームが過ぎて行く。内容は簡単な自己紹介だ。
 シュウは『シュウ・ガントランス』という本名を名乗り、出身地を言い、そして自分の事は当たり障りの無い内容で紹介する。姓の『ガントランス』、そして出身地である『アイルランド北部』と聞けば、魔法史の一番最後に名前が出てくる人物との関わりに勘づく人が出るのかと心配したが、周囲の反応は海外から遊学に来たシュウを物珍しそうに見るだけで杞憂に終わったようだった。そして最後に先般の珍事をネタにクラスを一沸かせして締めた。朝の珍事件のせいでシュウを警戒していただろうクラスメイトも心を開いてくれたかもしれない。シュウにはその感触があった。

「シュウ、どうだった?」
 休み時間に入り、すかさず彦根がシュウに尋ねる。彦根はシュウの事情を知っている数少ない人間だけに、色々と気に掛けているようである。
「ヒコネ、最高だよ」
 シュウは机に両肘を突き、顔の前で手を組んでいる。甚だ御機嫌の様子である。
「俺の名前を聞いて、誰もざわめかない。そうか、ここじゃ爺さんの威光も届かないのか。そりゃそうだよな。新世界で例えるなら国連の事務総長の名前を知っている人は多いかもしれないが、その取り巻きなんてどうでもいいよな…」
「ま、そういうこったな。良かったじゃん。なんか前はそれで結構苦労していたみたいだしな」
「ふふふ、ヒコネ、それは言わない約束だろう?」
「ふ、そうだったな…」

 シュウと彦根がそんな会話で悦に浸っていると、カンナの座席方向からガタンと大きな音が鳴る。音が鳴ったかと思うと、次の瞬間、見知らぬ小柄な少女が二人に詰め寄ってくる。
「お前らさぁ、さっきから何ニヤニヤにやついてだよ。きめーんだよ、あぁっ!?」

 彦根が消え入るような声で「ひっ」と息を呑む音が聞こえる。この少女、小柄な割にその威圧感は大型肉食獣にも劣らない。

「な、何なんだお前は、突然…」
 シュウは動揺を悟られまいと、努めて泰然と対応する。

 この少女『武藤ゆみ』はシュウのクラスメイトであり、玄守市近郊が出身の地元ガールである。腰まで伸びる長い黒髪を後ろでまとめたポニーテールが、少女の激昂と共に踊っている。

「ちょ、ちょっと弓ちゃん、落ち着いてよぅ…」泣きそうな、弓を後ろから引き留める声が聞こえる。引き留めるのは、眼鏡を掛けた大人しめな少女、『文塚詩織』である。彼女もまた、武藤弓と同郷の地元ガールである。

 それにしてもこの二人、身長差が凄い。弓が小柄な少女に対し、詩織は長身の少女である。弓が立っている筈なのに座っているシュウとほぼ同じ目線なのだが、詩織はシュウと同じくらいの平均的な男性の身長はありスタイルも良い。並んで立つと母親とその娘である。

「だってよぅ、しおりん。こいつぜってぇヤバい奴だって!」
 弓がシュウを指差し、詩織に答える。ほぼ初対面の詩織は、シュウ達を見て「ええ…」と困惑している。
「3階の窓から登校するわ、しかもその理由が遅刻しそうになったからだって!?ハァ?ふざけるのも大概にしろや!さっきの自己紹介もちょっとウケたからって調子に乗ってるし!」
「そんくらいいいじゃん…」シュウはぼそっと抗議する。
「それにさっき!てめぇ、カンナちゃんにちょっかい出してただろ!!」
「…はあ?何のこっちゃ」
「すっとぼけんじゃねぇぞ!さっき!廊下で!ナンパしてたべ!!」
 弓はシュウの机をバンッと平手打ちする。乾いた音が教室中に響き渡る。

「えぇっ…!!」と驚嘆の声を上げたのははらはらとした表情で行く末を見守っていた、当事者カンナであった。
「シュウ君、そうだったの!?」何故かカンナは顔を赤らめている。
「いや、違うでしょ。あの時話しかけたのはカンナからだし」
「だよね!弓ちゃん、そういうことなの、あれは私から話し掛けていたから、私からナンパしたことになるの!」
「いや、別にそういう事にもならないから!」
「やかましいわ!!そもそも、カンナちゃんはてめぇなんかが話し掛けて良い女の子じゃないから!てめぇみたいな奴はな、野放しにしとくと、その内カンナちゃんにも迷惑掛けンだよ!だから今の内にシメとかないと!」
 いまいちよく解らない主張だが、要は調子に乗っているシュウが気に入らないので突っ掛っているようである。あと、カンナに今後まとわりつくのを阻止したいとも。その点についてはなかなか鋭いと言えない事もない。
「何でだよ。お前には関係無いだろ」
 シュウは尚も泰然とした態度を崩さずに反論に出る構えを見せる。
「なっ…、何ぃ!?」
 弓が青ざめ、わなわなと震えだす。今にも拳か魔法が飛ぶかと思われたその時、カンナがシュウと弓の間に割って入る。
「まあまあまあ、弓ちゃん!そうだ、トイレに行こっか!ね、しおりんも行こっ!ね?」
 唖然としていた詩織も我に返ると「うん」と頷き、弓の腕を引っ張って行った。
「…シュウ君、ごめんねっ」
 カンナもそう言い残すと、詩織達に続いて退室するのであった。
「何でカンナが謝るんだよ…」
 シュウは釈然としない面持ちで独りごちた。嵐のような騒動は去り、教室内には再び活気が戻り始める。
やあやあ、二人とも!今のは何の騒ぎだったんだい?僕にも教えて欲しいな」
 そしてお調子者の聡介がほとぼりが冷めた頃にやって来た。
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