ただいま、魔法の授業中!

ロンメル

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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)

八、予定の決定

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 右手に自分、左手に聡介と、間違えないように持ってきたグラスに水を注ぐ。注意はそこだけに向け、シュウは完全に上の空だった。そんな時、背後から声を掛けられる。
 「あら、シュウ君。こ ん に ち は」
 「こんにちは」で背中をツンツンされ、どきりとする。動揺で水を零しそうなる。
 背後から声を掛けたのはカンナだった。カンナだけで取り巻き2名は見当たらない。
 「お、おう、来てたんだ」先ほどの橋場との会話が思い返され、変に意識してしまう。
 「今食べ終わった所なの」
 「へー。他の2人は?」
 「お手洗いよ」
 「………」間が空く。騒々しい筈の食堂の喧騒が遠く聞こえるようだった。
 口火を切ったのはカンナだった。
 「シュウ君は午後どうするの?藤守君や橋場君と一緒なの?」
 「…いや、特に決めてないな。そもそも、朝の件のペナルティが何なのか連絡待ちなんだけどさ、分からないと予定も立てられないんだよね」
 やれやれと肩を竦め、苦言を呈す。自業自得ではあるのだが。

 「―――あー、その件なんだけどね、シュウ君」
 カンナの背後に立つ、長身の初老紳士。ずっとそこに存在していたかのような。いや、シュウとカンナの認識する限りではたった今この瞬間に出現したのだが、彼は勝手見知ったような様子でシュウに話しかける。
 「君のペナルティは航空ショーの後片付けに決まりましたよ」
 「げぇ、サー・エドモンド!!」
 シュウは目を円くしたかと思うと、グラスを両手に持ったまま気を付けの姿勢を取る。

 エドモンド・ハフナー、ここ玄守学園の学園長にして理事長を兼務。さらに玄守学園都市の首長もこなす、玄守の学問、行政のトップである。魔法使いとしては『工房構築』に特化しており、玄守の学園都市としての都市機能を全面再構成し、時間とお金は掛ったそうだが、世界に誇る『玄守学園都市』を創り上げたお方である。ここまでがカンナも知る、エドモンド先生の経歴である。入学式の紹介と父からの伝聞による情報だ。

 「シュウ君、『げぇ』は酷くないですか?」
 シュウの失礼な態度に、エドモンド先生は眉を顰めるもその物腰は変わらず柔らかい。
 「失礼しました、サー」シュウは咳払いをする。
 「…それで、ペナルティは航空ショーの後片付けとのことですが?」
 「そうですよ。なんせドラゴンを校庭で飛ばす訳ですからね。毎年後片付けには苦労をしているのですよ」
 ドラゴンと言えど牛や馬のように生き物である。催すものは垂れ流しというところなのだろうか。
 「その点、君はそういうドラゴンのお世話に馴れていると聞いていましたのでね。ここは是非、ご協力を願えないものかと考えておりまして…」
 エドモンド先生はやけに恭しくシュウに語りかける。
 「そしたら、そのシュウ君が多数の先生方にご迷惑をお掛けしたという話を耳にしてしまったんですよめ。かのご高名なエリック・ガントランス卿のお弟子さんと言えど入学初日から問題児の烙印を押されてはこれからの学校生活に支障が出るのではないかと思うんです。なのでここはやはり、ガントランス卿の大事なお弟子さんを預かっている身としては、大変心苦しくもありましたが…」
 「分かりました」シュウはエドモンド先生の話しを遮って承諾した。
 「分かってくれましたか!」
 「その大役、是非このシュウ・ガントランスにお任せください」
 シュウが深々とお辞儀をする。グラスを手に持ったままである。
 「…ですので」シュウはゆっくりと面を上げ、エドモンド先生の顔を見据える。顔が若干引き攣っている。
 「ええ、勿論。ガントランス卿には内密にさせて戴きますよ。余計なご心配をお掛けしたくは無いですからねぇ…」
 フフフと微笑むエドモンド先生の柔和な笑みに、カンナは微かな黒さを垣間見た気がした。
 「神城君」
 「へ?」
 エドモンド先生に急に呼ばれ、カンナは声が裏返ってしまう。自身は完全に蚊帳の外にいるものだと思い込んでいた。
 「済みません、失礼しました。何でしょうか」
 「いえ。神城君にはおばあ様からもお父様からも大変お世話になっておりましたので、こうして神城君を当校にお迎えできたことが大変光栄に思えて仕方が無いのです。是非、今度お茶でもご一緒したいですね。…その時はご友人もお誘いください」とエドモンド先生は悪戯っぽくウインクをしてみせる。
 「…はあ」とカンナは困惑した表情で頷く。エドモンド先生はそれを意に介さず、シュウにまた向き直る。
 「シュウ君、後片付けは今日中に完了していればOKです。分からないことがあればマゼンタ先生にお尋ねください。完了報告もマゼンタ先生にして頂ければ結構です」
 では、と要件を伝えると、エドモンド先生の輪郭が徐々に綻び始める。そうして滑るように後退したかと思うと、風で砂が飛ぶように光の粒となり霧散した。

 カンナは唖然としていた。今の一連の流れの中で情報量が多かったのもあった。しかし…
 「―――え、今、消えなかった…?」
 一番驚いたのは、今まで目の前にいたエドモンド先生が急に消えたことだった。一方、カンナの驚愕を余所に、シュウは平然としている。というか、すっかり緊張も解けたようだった。
 「消えたというか、最初からここには居なかったというか…。まあ、世界屈指の工房の魔法使いだからね。玄守学園内だと何でもアリだよ。あの人は、きっと」
 シュウはやれやれといった様子で温くなった水を捨て、グラスに水を注ぎ直す。
 「午後の予定がやっと決まったよ…」シュウはそう独りごちた。
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