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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)
九、穏やかな午後
しおりを挟む昼食後、シュウと聡介は寮に戻る。他の生徒達が屋外運動場へと流れ、殺到していく中、狭い廊下を進む際は人波を掻き分けるように進むことになった。
午後も朝と変わらぬ快晴。絶好のフライト日和だった。
シュウの後を着いて歩く聡介は、シュウの懲罰内容を聞いてぶーぶー文句を言っていた。
「ちぇー、ドラゴンのウンコ掃除ってなんだよそれー。東城先生の仕事の手伝いじゃないのかよー」
こんな調子である。一番文句を言いたいのは―――言える立場でもないが―――シュウの筈なのだが、聡介はシュウのペナルティに不服そうだった。
「なんだよ、もし本当にトージョー先生の手伝いだったら、ソースケも一緒に手伝ってくれたのか?」
はたと一考した後、朗らかに「内容による」とサムズアップして答える聡介。
「理想のシチュエーションとしてはだね…」聞いてもいない事を聡介は語りだす。
「夕焼けの帳で朱色に染まる資料室にて東城先生と二人。黙々と作業しながらも、二人は互いを意識し始めていて…」
…まずい。夕陽に染まるカンナをシュウは想像してしまう。絶対に美しい。
「次の資料をチェックするため、目の前の山に手を伸ばすと…あ!って…」
聡介は伸ばした右手を引っこめ、右手を大事そうに左手で包む。どうやら妄想の中で東城先生と指の先が触れ合ってしまったらしい。
「…そしたら東城先生が本棚の高いところが届かないからって、脚立を支えて欲しいと頼むんですよ」
「成る程」
成る程じゃないが、シュウもすっかり妄想の住人状態だった。
「そしたらね、目の前にあるんですよ」
「なにが!?」
「スカートから延びる健康的な肉付きの脚が、ふくらはぎが!」
「そ、それは…、それはアカン奴や…!」
シュウがあわわと身を捩る。傍目から見ると完全にヤバい奴らである。
「先生からは強く言われる訳ですよ『上は見るな』と。スカートの裾を押さえながらね。でもね、視線は追っちゃうでしょ?ふくらはぎの上に実る太ももの、それはまた美しい流線型のアプローチを…。そして鼻孔をくすぐる甘い匂い…」
「に お い!?」
Oh,my Godと、シュウは嘆息する。シュウにはカンナの匂いまで想像することができなかったのだ。
「…何してんのお前ら」
彦根が引き気味にシュウ達に声を掛ける。
「あれ、ひこにゃんだ。どこに行ってたんだよ。飯はもう食っちまったぞ」
聡介の切り替えが早すぎる。余韻も糞も無かった。
「職員室だよ。シュウ、東城先生から伝言を預かっている」
「なに、抜け駆けは許さんぞ!」聡介が凄い剣幕で横槍を入れる。
「抜け駆けって何だよ…」彦根は呆れている様子だった。
「…もしかして、ペナルティの話か?それならさっきサー・エドモンドから聞いたぞ」
「え、そうなの?っていうかエドモンド校長と会ったの?マズイじゃん」
「じいさんには言わない条件で引き受けたようなもんだから…」
「成る程ね。これから先もそれを条件にいろいろ難題を言われたりしてな」
ハハハと笑いながら彦根は言うが、シュウの顔色は良く無かった。
「縁起でも無い事を言うよね。死亡フラグじゃん、それ」
「死亡フラグは早めに回収しておくと回避できるんだぜ?」彦根はドヤ顔をする。
「…さっきから何の話をしてんの?」
話についていけない聡介が痺れを切らして割って入る。
「あー…」とシュウは説明しようと言葉を詰まらせるが、彦根が代わりに説明する。
「シュウのじいさんが滅茶苦茶怖い人で、しかも学園長のエドモンド先生と旧知の中だから裏で繋がっているという話さ」
「成る程ねー」聡介は分かったのか分からなかったのかよく判らない返事をした。
「本当、騙されたわー。あの時は一世一代の反抗期だったのに、結局じじいの掌の上で踊っていただけだもんなあ…」はあ、とシュウは深いため息を吐く。
「まあまあ」と彦根。「悪くはないだろ?」とシュウの背中を軽く叩く。
「んー、まあね」とシュウは肩を竦める。
「で、午後の予定は決まったのか」と彦根。
「取り敢えず、作業着を取りに行かないとね。それから、ミセス・マゼンタから指示を貰いに行くと」
「じゃあ、その後に…」聡介が謎の溜め動作を見せる。
「ドラゴンを見に行きますか!」
シュウがそう切り出すと、聡介が「やったね!」と飛び跳ねた。年甲斐も無く見たかったのだろうか、コイツは。ドラゴンを見慣れたシュウと彦根はそんな風に聡介を見ていた。
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