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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)
十五、ガントランス
しおりを挟む黒森上空へ無事離陸し、フライトも安定し始める。カンナも慣れてきたのか、シュウの身体から手を離し、楽な姿勢を取っていた。「わー、飛んでるー」なんて、呑気な事を言える位にはリラックスをしているようだった。
日は傾き始めてはいるが、まだ夕方にも早い。無事に保護出来て、本当に良かったと、シュウは改めて胸を撫で下ろす。
「シュウ君、質問しても良い?」唐突にカンナが問う。シュウは「良いよ」と答える。
「エリック・ガントランスさんの事なんだけど…」
『エリック』の名前を出した時点でシュウが身構えたのを察して、カンナは質問を切り出し辛くなる。
「やっぱり今の無しで…」と言い掛けた所を、シュウは「続けて」とだけ答えた。
「エドモンド学園長が、シュウ君の事を『エリック・ガントランス卿のお弟子さん』って発言していたかと思うけど、私、その名前に聞き覚えというか、見覚えがあったのよね」
「へえ」シュウは上の空の様子だった。しかし、カンナは続ける。
「確か、歴史の教科書だったかと思うのだけど、最終章で、現代の3賢者の一人として名前が載っていたわ」
「勉強熱心だね」感心はしているが、気の抜けた感想だった。
「シュウ君は、『賢者エリック・ガントランス』のお弟子さん、という認識で良いのかしら」カンナは努めて慎重に尋ねた。先刻のエドモンド学園長とシュウとのやりとりの様子や、今の反応から察するに、シュウはこの質問にはあまり触れられたくないようであり、もしかすると気を悪くしてしまうのかもしれない。カンナにはその確信があった。
「…そんな事、知りたいの?」シュウは、少し困惑していた。
「知りたい。シュウ君ともっと仲良くなりたいから。だから、もっと知りたい」
少女にそう言われ、気恥ずかしそうに頬を掻くシュウ。
「大した話ではないのだが、『賢者エリック』は、俺の『師匠』…というよりかは、『養父』だな」
シュウは自身について語り出す。
「俺は元々身寄りの無い子供でさ、エリックには物心がつく前に『養子』という形で引き取られて育ったんだ。そして、エリックには複数の弟子がいて、俺は末弟に当たるんだけど、『賢者』という身分は何しろご多忙でね、俺自身はエリックから直接魔法の指導を受けたことなんか無いから、だから『賢者の弟子』なんて言われると御大層な響きのように聞こえるんだけど、実際の俺はそこら辺の魔法使いとは変わらないんだよね。上の弟子に何かあった時の補欠だな。要は」
「…俺さ、実は勘当も同然で家を出て日本に来たんだ。だから、本当の所は爺さんの弟子でも何でも無いんだぜ?」シュウは自嘲気味に笑う。
「ガントランスの家は、北アイルランドで母国への蛮族の侵入を水際で阻止する要職に代々就いていて、騎士の家系だったんだよね。エリックの父の代までの話だけれど。だから、エリックは俺には武人であることを求めた。『賢者』の跡継ぎとしての魔法の探求なんかよりもね」
「実際、俺はさほど魔法の才能に恵まれてはいないからね。それほど勉強熱心でもないし。だから当然といえば当然の流れだったろうさ」
「大変…だったのね」カンナは呟く。家の都合で決められる人生。カンナには想像を絶するが、当時の少年に伝統を重んじる家風はさぞかし息苦しかったに違いない、と思った。
「…俺さ、魔法生物の学者になりたいんだ」
「学者?」
「そう。それが一生に一度、俺が爺さんに刃向った理由」シュウがドラゴンの頚元を撫でる。
「魔法使いが何で魔法を習うかって、理由の一つとして魔法生物や魔法現象による災厄から身を守るところに根本的なものがあるのだけど、それは正しくて、でも、身を守るにしてもそれだけではいけないとも思うんだよね」
「それだけじゃいけないってことは、他に?」
「やっぱり、正しく知ることだよね。その生き物の生態を、怖さを、そして、儚さを…」
慈しむかのような表情で鱗を撫でるシュウの横顔が、不意に険しさを帯び始める。
「さっき、カンナが『ドラゴンが怖い』って言った後に泣いた時、俺は悲しくなったんだ…。どれだけ怖ろしい思いをしたか想像して、カンナがこの世界を嫌いになったらどうしようとか、色々考えちゃってさ…」
「でも、人は『知る』ことで恐怖を克服できる生き物なんだ。知ることで、距離感とか、対策とか、何やかんやで恐怖を受け入れることが出来るんだ。俺もそうしてきたように…」
シュウはフライト後、初めて背後のカンナに振り向く。彼の碧眼が凛とした輝きを見せる。
「俺、カンナが俺と仲良くなりたいって言ってくれて、安心したよ。だって、『魔法使い』続けるんだろ?」シュウがニカッと破顔する。カンナはその笑みを見て、温かい気持ちが込み上げてくる。
「うん、続けるよ?だって、シュウが助けてくれたし、弓ちゃんやしおりんが守ってくれた。怖くても大丈夫。私、みんなに会えたこの世界が好きだもの!」カンナはそう言うと、ハッとして少し顔を赤らめて、シュウの背中に頭を押し付ける。
「…勢いで呼んじゃったけど、呼び捨てで…良い?」
視界から消えたカンナを捉えようと、体勢を変えようとしたシュウをカンナは「見ないで」と制した。カンナの豹変にシュウは少し当惑したが、「問題無いよ」と答える。
すると、カンナは頭を上げ、「じゃあ、シュウ、これからも宜しくね」と言った。
改めて振り向くと、満面の笑みを浮かべたカンナが居た。西日に輝く、少女の笑顔が眩しかった。
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