ただいま、魔法の授業中!

ロンメル

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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)

十四、脱出

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 勝利宣言をしたシュウは、一頻ひとしきりドラゴンの首筋を撫で擦ったり、翼を観察した後、満足したのか地上に降り立った。その間、当のドラゴンは背伸びをし、樹上にその牙を食い込ませた姿勢のまま、シュウに何も出来ずに爪で樹皮を抉ったり翼をばたつかせたり尾を地面に叩き付けるなど、何かにもがいている様子だった。
 ただただ呆然と眺めているだけだったカンナの元に、シュウが駆け寄ってくる。
 「はい。約束の杖」差し出された杖をカンナは「ありがとう」と受け取った。
 「…ねえ、あれはどうなっているの?」カンナは大樹の脇でもがき続ける巨竜を指差す。
 「ああ、あれはね。ドラゴンの顎を樹皮に接着してやったんだよ」
 シュウは土魔法によって、大樹の樹脂の接着力を一時的に高め、ドラゴンの牙と樹皮をくっ付けてしまったのだそうだ。ドラゴンは無理な姿勢を維持する為に力が半減され、シュウに何も抵抗できない状態だったのだという。更に暴れ出そうものなら折れかけの大樹は倒壊し、巨竜といえどもその重量は支えられないため、下敷きになってしまいドラゴンと言えども無事では済まされないのだ。
 要は、シュウの策略にドラゴンは完全に嵌り、成す術もない状態。つまりシュウの完全勝利となった訳だ。
 「まあ、パワーだけの中級種程度なら、俺の敵じゃないね。可愛いトカゲちゃんだよ」
 シュウは余裕綽綽の様子だった。

 「…それで」カンナはシュウの様子に少し呆れつつも、冷静に問う。
 「どうやって学園に戻るの?」
 カンナの質問にシュウはにやりと笑うと、「抜かりない」と答える。
 シュウが徐に指笛を吹くと、森の奥、シュウが駆け付けてきたであろう方向から聞き覚えのある嘶きが聞こえてきた。
 「まさか…」カンナは身構える。
 「ドラゴンの死骸見つけてさあ、きっとアイツと一緒に来たらお互いに興奮して手が付けられなくなると思って。置いて来たんだ」
 シュウの合図で駆け付けてきたのは、カンナを攫ったドラゴンと同種の、『飛龍』に属する騎竜だった。軽やかな疾駆でシュウの元に近寄ると、シュウの挙げた手の下に近寄り、『伏せ』の状態で待機する。訓練された身のこなしを、シュウの指示にも忠実にこなす。
 「お帰りはこちらになります」シュウが恭しく礼をする。
 シュウは先にドラゴンの背中へ腰を下ろすと手を差し伸べ、カンナを促す。ドラゴンは人が乗り易いよう、頚を下げた状態を維持している。カンナは躊躇いがちにドラゴンの脇に近寄るも、そこで黙ったまま立ち尽くす。シュウの手を取ろうとする手も、震えていた。
 「…どうした?」シュウが尋ねる。
 「………怖いの」黙していたカンナが呟いた。
 「ドラゴンが怖くて、どうしたらいいか分からないの」少し、涙を浮かべていた。
 シュウは少し考えた後、「成る程ね」と納得すると一度乗ったドラゴンからまた降りる。
 「怖いもの、一つ出来ちゃったかな?」シュウは微笑みながら優しくカンナの肩を抱くと、ゆっくりと、ドラゴンの胴部にカンナを誘導する。
 「触ってみな。絶対に暴れないから」そう言いながら、シュウは優しくドラゴンの背中を撫でる。カンナも、シュウを真似て恐る恐る鱗に触れる。ざらついた鱗に覆われた皮膚が、ドラゴンの呼吸に合わせて膨らんだり萎んだり。表皮のすぐ下に感じられる、ドクドクと脈打つ鼓動。
 「…ごめんなさい」撫でる少女の手が止まる。
 「何が?」シュウは優しく問う。
 「弱くて、怖がりで、ごめんなさい。何も出来なくて、ただ、見ているだけで…」
 カンナは両掌で、顔を押さえる。今日、何度目の涙だろうか。
 「…今も、帰らなきゃいけないって分かってるのに、こうしてシュウ君を困らせてる」
 「何も、おかしな事は無いよ」シュウは肩を竦める。
 「ドラゴンを《怖い》と思うのはね、とても正しい事だと思う」シュウは続ける。
 「俺もドラゴンは怖いと思うもん。だから、アイツらの事はだいたい解った上で接してるし、そうじゃなきゃこんな余裕ではいられないよ」
 「…そうなの?」顔を上げたカンナとシュウは目が合う。
 「そうだよ。だから逆に、不用意にドラゴンの反感を買うような真似をしたり、攻撃したりするのは、危険なんだよね。ドラゴンへの畏れとか敬意を欠くような。…ほら、ユミを真似て上級魔法を放とうとしたでしょ?あれは阻止させて貰ったけどね」
 「あ」とカンナは小さく呟く。先刻の謝罪の意味に合点がいった。
 「だからさ、怖いのはしょうがないし、それを今すぐ克服してくれとは言わないけどさ、俺と一緒に乗るときくらいは安心して任せてくれない?」
 長い沈黙。カンナがじっとシュウを見つめてくる。腫れぼったい瞼と、涙に潤んだ鳶色の瞳に、シュウは上気してしまう。居た堪れなくなり、「ダメだった?」と自信無さげに訊く。
 「ううん。乗る」
 カンナは微笑むと、はにかんだ表情でシュウの右手を両手で握る。
 「だから、帰ろ?」

 カンナがシュウの背後に跨る。カンナは自身の恐怖心を克服したのか、はたまた折り合いを付けられたのかは定かではないが、渋い顔をしながら黙々と乗ってくれた。スカートの捲れを気にしてか、多少居心地を悪そうにしている。
 「どこに掴まればいいかな?」カンナがおどおどしながら尋ねてくる。やっぱり不安なのだろう。
 「肩でも腰でも何処でも、好きなところをどうぞ」
 「え…。じゃあ、腰…」
 カンナがシュウの腰に手を回した瞬間だった。辛うじて均衡を保っていた巨木が倒壊したのは。ぎいぃぃと鈍い音が森全体に響いたかと思うと、地響きと共に、ドラゴンと巨木が倒れ伏した。
 カンナは「ひぃ」と悲鳴を上げながら、シュウの背中に抱き着く形になる。
 シュウの背中で柔らかく丸みを帯びたものが2つ、むにぃと潰れる感触を感じた。
 「よし、出発だな!」シュウは有無を言わせず、ドラゴンに合図を送る。
 ドラゴンの急加速にカンナは「ちょっ!」とか「待って!」と叫んでいたが、シュウは聞こえないフリをした。カンナの抱き締める腕の力が強くなっていくからだ…。
 「僥倖だ!丁度大きなギャップも出来た。あそこから黒森上空へ抜けるぞ!」シュウは倒木したことによって出来た、ぽっかりと開け林冠から覗く空を指差す。
 「『ギャップ』って、何ぃ~っ!?」カンナの素朴な疑問にシュウは答えてあげなかった。

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