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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(4)
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「これが最後のお別れって訳じゃないし、兄妹なんだから縁が切れる訳でもないだろ?」
「……そうだけど……」
「静香の化粧品とかパジャマとかまだ俺の部屋にあるから、俊之くんとケンカしたら、その時はいつでも泊まりにおいで」
そう言った途端に、静香は勢いよく顔を上げる。
「もう! お兄ちゃんたら、私はケンカなんかしないよ。それにケンカしたからって、そんな簡単にアメリカから帰ってこれないし!」
涙を溜めたまま、くちゃくちゃの顔で抗議してくる妹の頭を、俺は笑いながらポンポンと小さく叩いた。
「幸せになるんだよ」
――本当に……妹の幸せを心から願う。俺にとっては、静香だけがこの世でただ一人の家族だと思っているから。
もしも……この世に、生涯変わらない愛があるとしたら……。これから結婚しようとしている二人の愛が、そうである事を願いたい。
それでも……。
それは、とても不確かなものだ。いつかきっと、その形は変わるから……。
でも今だけは、妹の幸せを願う。どうか、その愛の形が変わらないようにと。
***
それから数日後。
静香の結婚式も無事に終わり、二人はアメリカに旅立った。
俺は、週末を一人で過ごすようになり、何となく物足りなさを感じていた。
妹に会えなくて寂しいのか? 確かにそうかもしれないけれど。
でもそれだけじゃなく、なぜだかソワソワと落ち着かない。この気持ちの正体は、いったい何なのか。
毎週恒例の行事のようになっていたことを、急にやめたからかもしれない。
そんなことを思いながら、静香はいないというのに、俺はあのカフェレストランに一人で行ってみる事にした。
習慣というものは、面白い。
別に金曜日に行かなくてもいいんだ。
仕事が休みの土曜とかでもいいのに、金曜日は残業にならないように仕事を片付けて、早々と退社する。
そして……いつものように店に入る前に、まず窓から『彼』の姿を探していた。
それは多分、無意識な行動だったと思う。
窓から彼の姿が見えると、何故か心が跳ねる。
ちょっとストーカーみたいだなと頭に過ぎって、心の中で苦笑するけど……。
逸る気持ちを抑えながら、店内へと歩を進める。
「いらっしゃいませ」
客が店に入ってきたのを感じ取ると、条件反射のように振り向いて、あの満面の笑顔で出迎えてくれる。
それだけで、 孤独も癒えない傷も忘れさせてくれるような……そんな気さえする。
――魔法みたいだな。
自分の考えに自嘲しながら、席まで案内してくれる彼の背中を見つめていた。
――本当に……。
静香がいなくなって、この店に毎週通う理由はもうないのに……、あの笑顔を見たくて。
ただそれだけ…‥。
その時の俺は、そう思っていた。
「……そうだけど……」
「静香の化粧品とかパジャマとかまだ俺の部屋にあるから、俊之くんとケンカしたら、その時はいつでも泊まりにおいで」
そう言った途端に、静香は勢いよく顔を上げる。
「もう! お兄ちゃんたら、私はケンカなんかしないよ。それにケンカしたからって、そんな簡単にアメリカから帰ってこれないし!」
涙を溜めたまま、くちゃくちゃの顔で抗議してくる妹の頭を、俺は笑いながらポンポンと小さく叩いた。
「幸せになるんだよ」
――本当に……妹の幸せを心から願う。俺にとっては、静香だけがこの世でただ一人の家族だと思っているから。
もしも……この世に、生涯変わらない愛があるとしたら……。これから結婚しようとしている二人の愛が、そうである事を願いたい。
それでも……。
それは、とても不確かなものだ。いつかきっと、その形は変わるから……。
でも今だけは、妹の幸せを願う。どうか、その愛の形が変わらないようにと。
***
それから数日後。
静香の結婚式も無事に終わり、二人はアメリカに旅立った。
俺は、週末を一人で過ごすようになり、何となく物足りなさを感じていた。
妹に会えなくて寂しいのか? 確かにそうかもしれないけれど。
でもそれだけじゃなく、なぜだかソワソワと落ち着かない。この気持ちの正体は、いったい何なのか。
毎週恒例の行事のようになっていたことを、急にやめたからかもしれない。
そんなことを思いながら、静香はいないというのに、俺はあのカフェレストランに一人で行ってみる事にした。
習慣というものは、面白い。
別に金曜日に行かなくてもいいんだ。
仕事が休みの土曜とかでもいいのに、金曜日は残業にならないように仕事を片付けて、早々と退社する。
そして……いつものように店に入る前に、まず窓から『彼』の姿を探していた。
それは多分、無意識な行動だったと思う。
窓から彼の姿が見えると、何故か心が跳ねる。
ちょっとストーカーみたいだなと頭に過ぎって、心の中で苦笑するけど……。
逸る気持ちを抑えながら、店内へと歩を進める。
「いらっしゃいませ」
客が店に入ってきたのを感じ取ると、条件反射のように振り向いて、あの満面の笑顔で出迎えてくれる。
それだけで、 孤独も癒えない傷も忘れさせてくれるような……そんな気さえする。
――魔法みたいだな。
自分の考えに自嘲しながら、席まで案内してくれる彼の背中を見つめていた。
――本当に……。
静香がいなくなって、この店に毎週通う理由はもうないのに……、あの笑顔を見たくて。
ただそれだけ…‥。
その時の俺は、そう思っていた。
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