出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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「これが最後のお別れって訳じゃないし、兄妹なんだから縁が切れる訳でもないだろ?」
 
「……そうだけど……」
 
「静香の化粧品とかパジャマとかまだ俺の部屋にあるから、俊之くんとケンカしたら、その時はいつでも泊まりにおいで」

 そう言った途端に、静香は勢いよく顔を上げる。

「もう! お兄ちゃんたら、私はケンカなんかしないよ。それにケンカしたからって、そんな簡単にアメリカから帰ってこれないし!」
 
 涙を溜めたまま、くちゃくちゃの顔で抗議してくる妹の頭を、俺は笑いながらポンポンと小さく叩いた。
 
「幸せになるんだよ」

 ――本当に……妹の幸せを心から願う。俺にとっては、静香だけがこの世でただ一人の家族だと思っているから。
 
 もしも……この世に、生涯変わらない愛があるとしたら……。これから結婚しようとしている二人の愛が、そうである事を願いたい。

 それでも……。 

 それは、とても不確かなものだ。いつかきっと、その形は変わるから……。

 でも今だけは、妹の幸せを願う。どうか、その愛の形が変わらないようにと。

 
 ***


 それから数日後。

 静香の結婚式も無事に終わり、二人はアメリカに旅立った。
 
 俺は、週末を一人で過ごすようになり、何となく物足りなさを感じていた。

 妹に会えなくて寂しいのか? 確かにそうかもしれないけれど。

 でもそれだけじゃなく、なぜだかソワソワと落ち着かない。この気持ちの正体は、いったい何なのか。

 毎週恒例の行事のようになっていたことを、急にやめたからかもしれない。
 
 そんなことを思いながら、静香はいないというのに、俺はあのカフェレストランに一人で行ってみる事にした。

 習慣というものは、面白い。

 別に金曜日に行かなくてもいいんだ。

 仕事が休みの土曜とかでもいいのに、金曜日は残業にならないように仕事を片付けて、早々と退社する。

 そして……いつものように店に入る前に、まず窓から『彼』の姿を探していた。

 それは多分、無意識な行動だったと思う。
 
 窓から彼の姿が見えると、何故か心が跳ねる。 

 ちょっとストーカーみたいだなと頭に過ぎって、心の中で苦笑するけど……。

 逸る気持ちを抑えながら、店内へと歩を進める。 

「いらっしゃいませ」 

 客が店に入ってきたのを感じ取ると、条件反射のように振り向いて、あの満面の笑顔で出迎えてくれる。 

 それだけで、 孤独も癒えない傷も忘れさせてくれるような……そんな気さえする。 

 ――魔法みたいだな。 

 自分の考えに自嘲しながら、席まで案内してくれる彼の背中を見つめていた。 

 ――本当に……。

 静香がいなくなって、この店に毎週通う理由はもうないのに……、あの笑顔を見たくて。 

 ただそれだけ…‥。 

 その時の俺は、そう思っていた。 

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