出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
276 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―

(41)

しおりを挟む
 山手にある閑静な住宅街は、昔、俺が建築課で現場監督をしていた頃、初めて担当した家がある。

 何をするのも初めてで、喜んでもらえるように最善を尽くそうと、毎日遅くまで現場に行ってたっけ。

 その頃、夜遅くに車で帰る時に見つけた場所。

 高い丘の上にある住宅街は、夜になると夜景が綺麗で、特に公園の前は遮るものが何もなくて、見通しがよい。

「え? ここ? 公園?」

 不思議そうな顔をして俺の方を見る直くんに、「前を見てごらん」と言って、フロントガラスを指差した。

「……わ……ッ」

 前方が行き止まりで、ガードレールの向こう側に広がる都会の夜景に、直くんが感嘆の声をあげる。

 その横顔がキラキラと輝いているように見えて……。

 直くんは、素直に綺麗なものを綺麗だと、そのまま受け止める。

 そんな純粋な笑顔を、俺のせいで曇らせてしまうんじゃないかって、いつも不安になるけれど……。

 直くんが俺に飽きるまででいいから、それまでは俺から直くんを手放すことはないんだろうな、と考えていた。

 同時に、結婚の話はなるべく先に延ばせないか、父からも言ってもらえるように頼んでみよう、なんて都合のいい事も。

「夏になると河川敷でやってる花火大会とか、ここからよく観えるんだよ」

「へえー、ここからだと、夜景と花火が一緒に見えて綺麗だろうなー」

「うん、綺麗だよ。夏になったら、一緒に観よう」

 夏まで一緒に居れるかどうかも分からないのに。俺はその時、本当に心からここで一緒に花火を観たいと思っていた。

 ――しかし、似合ってるな。

 隣を見ると、助手席で少し前のめりになって、前方の夜景を眺めている直くんが女の子にしか見えなくて、コートの下のワンピースが気になって仕方ない。

「ね、直くん。車の中だし、寒くなければ、そのコート脱いで欲しいんだけど」

 「え? コート?」

「折角可愛い服を着ているのに、コート着てるとよく見えないから……」

「服は、可愛いかもだけど、俺、男だし、よく見えなくていいよ!」

 そんなに恥ずかしがられると、余計に見てみたくなるんだよ。
 
「駄目かな……」

「いい……ですけど……恥ずかしいから、ちょっとだけだよ?」

 照れながらも、直くんはシートベルトを外して、コートを脱いでくれた。

 コートを右手に持って後ろの座席に腕を伸ばして置く瞬間に、ふわりと長い髪が後ろになびく。

 スクエアカットの胸元から首筋のラインが綺麗で……、思わず見惚れてしまっていた。

「と、透さん、そんなに見られると……」

 気が付けば、何かを言いかけた直くんの、艶のある唇に吸い寄せられるように口付けていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】引きこもりだった僕が貞操観念のゆるい島で癒される話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:12

回帰する魔術師は彼女の幸せだけを願っている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:23

悪役令嬢が死んだ後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,209pt お気に入り:6,140

貞操観念がバグった世界で、幼馴染のカノジョを死守する方法

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:17

【R18】双璧の愛交花 -Twin Glory-

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:102

カナリア

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:92

処理中です...