猛獣の妻に初夜の手ほどきを

久遠縄斗

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喰われてもいいと思っていた獣を喰いに行く

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 ルースライド・ラガーグリン。
 黒髪黒目の、地味なのに他を威圧する体格を有するラガーグリン公爵家の四男。それが俺だ。
 上に三人も兄がいて、その三人ともが優秀と来れば四人目が多少落ちこぼれでも両親や使用人たちは目をつむってくれる。ヤンチャが過ぎれば叱られるが、兄たちと比べれば継ぐべきもののない俺はかなり自由にさせてもらえている。その点は優秀な三人の兄に感謝しなければならない。

 何しろ、その自由にさせてもらっているお陰で、俺はこのたび結婚することを許されたのだ。

 相手は平民だ。といっても、ただの平民じゃない。平民出の騎士だ。女だてらに騎士を務めているだけあって、背も高く体格もそれなりにいい。舞踏会や夜会で見かける令嬢方のような煌びやかさはないが、騎士服をまとう凛とした姿はしなやかな筋肉をもった美しい獣のようだ。短い赤髪と同じ色の鋭く理知的な瞳。日に焼けた肌は彼女の野性味をさらに引き立たせている。

 彼女のような猛獣になら喰われてもいいと思えるほど、俺は彼女に惚れている。

 最初の出会いは騎士団でだった。彼女が十八歳、俺がまだ十五で新米騎士のクソガキだったころだ。
 彼女はそのころから女性ながらに剣の腕は一流だった。男の力強い剣とは違い、技を巧みに織り交ぜたしなやかな動きをする剣は相手を翻弄する。とどめの一撃は素早く、気づけば負けている。何度も挑んで、何度も地に膝をつかされた。
 この十年の間に、彼女の俺を見つめる瞳が新米騎士を見下ろす冷たい視線からライバルとなり、やがて戦友へと変わっていった。そして俺は彼女の剣技に惚れ、彼女自身に惚れていった。

 その強さに、その笑みに、そのすべてに──

 一昨年の末に彼女と数年ぶりに手合わせをして初めて負かした後プロポーズした。が、振られた。一勝したくらいでいい気になるなと怒鳴られた。間をおいてまた手合わせをして負かした後に再度プロポーズしたが、やはり振られた。今度は身分を考えろと怒鳴られた。
 そうして手合わせや試合を重ねて俺が二十四勝したとき、彼女は根負けしたようにようやく俺のプロポーズを受けてくれた。
 落とすまでに一年半もかかった。もっとも、あちこちに根回しをして彼女を逃さないように網を張り巡らせたのが良かったのかもしれない。

 騎士ではあるが平民の彼女が俺の妻になることに、周りは何の反対もしなかった。三人の兄がそれぞれ地位も美しさも兼ね備えたご令嬢を娶っていて、家督的には何の憂いもないからだ。四男の俺はどこの誰を嫁にしようが構わないらしい。
 一部の使用人からは、母親似の眉目秀麗な兄たちに比べて、父親似の厳つい顔と体を持った俺の元に妻が来てくれたことだけでも奇跡だと言われ、その言葉を執事が叱るどころか同意するように大きくうなずいたのは納得しがたいが。

 四男とはいえ公爵家の結婚だ。互いに結婚証明書にサインをして終わりというわけにはいかない。式を挙げてその後はお披露目も兼ねたパーティー。囃し立てられ、さんざん麦酒ビールを飲まされて、解放されたのは夜中を少し回ったあたりだった。

 かなり酒を飲まされたが、この程度でどうにかなるような体ではなく、熱くはなっているが酔っているという感覚はない。もっとも、体が熱くなっているのは違う意味なのかもしれない。

 彼女を手に入れるまでずいぶんと時間がかかった。新米騎士のクソガキが、彼女が欲しい一心で腕を磨き、その副産物で第二騎士団団長の座まで手に入れた。その期間十年。人によっては短いと言われるかもしれない。だが、俺にとっては長かった。

 それでも、ようやく彼女が手に入った。

 一人で彼女を想って悶々としていた夜が終わる。これからは何の遠慮もなく彼女に触れられる。今夜は初夜だ。一人ではなく、二人で共にする初めての夜。

 俺は高鳴る胸の鼓動を抑えながら、俺たち二人に与えられた離れの部屋へと向かった。




 喰われてもいいと思っていた獣を、今から俺は喰いに行く。




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