猛獣の妻に初夜の手ほどきを

久遠縄斗

文字の大きさ
上 下
3 / 6

愛撫 ※

しおりを挟む
 すでに唇の柔らかさは堪能していたから、すぐに舌を侵入させた。歯列をなぞるように舐めとると、受け入れるように口が開く。そのまま口内に侵入し、待ち構えていた彼女の舌に絡み合わせる。逃げず、かといって応えてくるでもなく、ただそこにある舌を舐る。上あごをくすぐり、また舌を絡める。時々思い出したように唇を食み、優しく口づける。
「ふ………んっ」
 こぼれた唾液を辿って頬に唇を滑らし、そのまま耳にキスをした。

「好きだ、ロッカ」
 耳に囁けば肩が震えて頬が赤く染まる。キスの時はこんな反応はなかったのに、愛を囁いただけで恥じ入る姿にこっちが悶えそうになる。
「赤くなって可愛いな、ロッカは」
「私は年上だぞ。可愛くなど…………んっ!」
 反論する唇をふさぐ。
「俺の言葉を拒むのか?」
「拒んでない。だが、可愛いなどと言われたことがないから恥ずか………しいのではなくて、驚いただけだ!」
 クックッと笑えばロッカはムッと唇を尖らせた。その尖った口に人差し指を当てる。

「俺にとって、ロッカは誰よりも可愛いし、誰よりも綺麗だ」
 唇に当てていた指を外して手のひらで赤くなっている頬を覆い、いまだ尖っている唇にキスをする。頬から首筋に手のひらを這わせ、肩から腕を撫でおろした。そっと触れる手がくすぐったいのか、ロッカの肩が震える。
「何故そんな触り方をする? マッサージならもっとガシッと掴んで揉んでくれた方が効果があるだろう」
「マッサージじゃない。愛撫だ」
「愛撫!?」
 心底驚いた顔をして、それからどこか納得したような神妙な表情でうなずく。
「こ、これが愛撫か。なるほど、これを繰り返してお互いを知るのだな」
 言い終えぬうちに、ロッカの腕が俺の首に絡み付いた。そのまま引き寄せられて、今度はロッカから唇が合わされる。驚く間もなく、ロッカの舌が俺の口内に侵入してきた。舌を絡められて吸われる。その間にもロッカの手が俺の肩から腕へと這い降りていき、また肩へと戻ってくる。

 ロッカにした行為がそのまま俺へと返ってきた。優秀な騎士は、教わったことをすぐに覚えて応用までしてみせる。
 お互いにお互いを知るための行為だから、俺からの一方通行では駄目だと思っているんだろうが、そんなことをされると俺の理性は簡単に崩れてしまう。それでも、すぐにでも彼女の中に入り込みたい欲望を抑え込む。

 俺は絡んでくるロッカの舌を愛撫し深く探りながら、彼女の胸を揉みしだいた。ロッカの体が大きく震える。が、抵抗はなかった。
 しなやかな筋肉に覆われた体の中で、女性を感じさせる膨らみは綿のように柔らかい。なのに先端にある蕾は薄い夜着越しでもわかるくらいピンと硬くとがっていて、俺の手のひらの中でその存在を主張する。
 胸への愛撫を行いながら、顎から首筋へ、さらに鎖骨へと唇を這わせた。時折舌で肌をくすぐればロッカの腰がビクッと跳ねる。胸の蕾を夜着越しに唇で食んだ。今まで以上に大きく体が跳ね、喉を反らせる。
「ま、待て、ルース。そこは赤子に乳を飲ませるための場所だろ。なぜそんなことをする」
「愛撫だ」
「乳もか!?」
「ここだけじゃない。全身にする」
 ロッカはあまりの驚きのために口をパクパクとさせている。できれば空気だけでなく、甘い声も混じらせてもらえると俺としては嬉しいのだが。
 経験値が低いせいか、ロッカの口からは苦痛に似た呻きしか出てこない。それでも太ももをこすり合わせるように身をくねらせている姿も、何かをこらえるような吐息も、耐えるような表情も苦痛だけではない何かが時折見える。
 その苦痛ではない何かを引き出すために、胸の先端に舌を這わせ、吸い、甘噛みする。唾液が夜着を濡らし、蕾が透けて見えるほど愛撫を繰り返した。

 やがて布越しでは物足りなくなって、夜着を脱がせる。抵抗しようとした腕を、無言で赤い瞳を見つめることによって抑えつけた。同じように下着も足から抜いて全裸にさせる。
 身に着けているすべてを取り払ったロッカは想像した以上に美しい。拒まないと約束したせいか、目の前にさらされた体を手で隠すこともしない。

 一枚の絵画を見るように、上から下までじっくりと視線を向ける。

「あまり、見るな………それにずるいぞ、私だけ裸にして。お前も脱げ」
 羞恥に頬を染め、ぼそりと呟いて顔を背ける。苦笑しながらもガウンを脱ぎ捨てた。下着などはいていなかったから、そそり立つ欲望が彼女の前に露呈する。そんな俺の一物を見て、彼女が目を見開いた。
「な、なんだ、それは!? そんなんじゃなかったはずだ」
 立派だと言われたことは何度かあるが、なんだそれはと驚かれたのは初めてだ。

 いや、それよりも──

「他の男のモノを見たことがあるのか?」
 俺が全裸を見せるのは初めてで、つまり彼女はこうなる前の一物を見たことがあるということだ。どこの誰のモノを見たのか。嫉妬から、そいつの名を聞き出して切り殺してやりたい思いに駆られる。

「ほ、本で見た。私だってこれでも勉強したんだ。お前の裸を見ても取り乱さないように、医学の本を借りて読んだ。だが、そこに載ってたのはもっと違う形をしたものだったぞ。お前、病気ではないのか?」
「あのなあ………」
 よりよって医学の本を選ぶか。
 そこに載っているのはもちろん起立したものではなく、通常の下を向いているモノだろう。それと比べれば形も大きさも違っていて当然で、ロッカが驚くのも無理はないが、そこから説明しないといけないのか。

 自分についているモノについて。

「普通の状態は確かにお前の読んだ本と同じだが、興奮するとこうなる」
「何に興奮している?」
「お前に欲情してる」
「!」
 一瞬で首元まで真っ赤に染まった。赤い瞳が慌ただしくあちこちに向けられて、動揺しているのが一目でわかる彼女の姿。いつもの凛としてすました騎士とは違う表情を見つけて、俺は得意げに唇を上げた。

 他の誰にも見せたことのない彼女の一面を見つける。それは俺だけに与えられた特権だ。

「ふ………」
「ふ?」
「触れてもいいか?」
 ロッカの口から出た言葉に俺は目を剥く。
「私もお前のすべてを知りたい。駄目か?」
 眉を下げて懇願されれば否と言えるはずもなく、諾の返事をしてその場に胡坐をかいて座った。身を起こしたロッカが俺の前に両ひざをそろえて座る。じっと見ているだけの彼女の手を取って、自分のモノへと導いた。

 そっと触れた指がロッカのものだと意識すれば、それだけで興奮して爆発しそうになる。
「熱いんだな。それに、硬い」
 最初は恐々と触れていた指が、やがて大胆に絡み付いてきた。裏筋をツッと指が這って、背筋を快感が走り抜ける。
「………くっ」
「い、痛いのか!?」
 食いしばった歯から漏れ出た声に、ロッカが驚いた声を上げた。それに首を振る。苦痛ではないと知ったロッカの指が、俺の怒張の形を辿るように撫で始める。

 卓越した騎士は相手の様子を見て次の一手を予測する。ロッカも例に漏れず、わずかな呼吸や動作から相手がどういう状態なのかを見抜く直感力を持っている。

 ロッカは俺の呼吸を読み、どこがいいところなのかをすぐに察した。敏感な先端をロッカの指が円を描く様に撫でさすった。快楽が断続的に襲ってきて、勝手に息が上がる。
「気持ち、いいのか?」
「ああ」
 熱い呼気とともに答えると、ロッカは俺の様子を伺いながら剛直をきゅっと握り、そのまま扱きだした。
「はぁ………ぅくっ」
 普段剣を握っているからロッカの握力はかなりある。それが容赦なく俺の欲望を握りしめて扱いてくる。
 快楽にふける俺の声を聞いて、さらに動きが速まる。思いを寄せている女の手で扱かれて我慢できるはずがない。
「ロッカ…………っ、もう、離せ」
 限界を感じてそう口にする。しかしロッカの手は止まらない。先端に集まる熱が解放を求めてくる。歯をくいしばって耐えるが、持ちそうになかった。
「はっ………、ロッカ、く…………うっ」
 張り詰めた怒張がドクリと脈打つ。先端から白濁が迸り、ロッカの口から引きつった悲鳴のような声が漏れる。が、それを気にしている余裕は俺にはない。

 荒い呼吸を繰り返して整えながら、彼女の中に入ることなく吐き出された白濁に盛大に凹む。初夜に妻を愛撫していて、愛撫を返されてイクなどなんとも情けない。しかも手で。まるで童貞のようではないか。

「ル、ルース、すまん。これって、子種………だよな? 初夜は、これで終わりなのか?」
 気落ちしたような声に彼女をちらりと見やる。残念なような、それでいてわずかな安堵の見える様子。日に焼けた褐色の右腕に、俺の吐き出した白濁がぶちまけられていた。その滴った先の太ももを何気なく見降ろす。
 普段騎士服を着ていて日にさらされることのない足。その白い太腿に白濁が散っている。背徳的なその光景を見た瞬間、欲望を吐き出して力を失っていた剛直が頭をもたげた。あっという間に回復し、再び張り詰める。

「嘘……だろ」
 その様を見ていたロッカがかすれた声を上げる。
「こんなすぐに回復するものなのか?」
「お前が相手だからだ」
「え?」
「何回でもできるぞ。一晩中でも、一日中でも」
 ロッカの裸体を見ただけで勃つ。妄想ではない、夢にまで見た彼女の姿態が目の前にあるのだ。入れずに終われるはずがない。おそらくだが、入れても一度や二度では満足はできないだろう。

「仕切り直しだ」
 ロッカの体に、まるで俺のモノだと言わんばかりに飛び散っている欲望の証を拭きとる。綺麗になった肌に口づけた。

「今度は俺がお前を知る番だ」
 ニヤリと笑う。それにロッカが慌てて首を振る。
「私はまだお前のことをすべて知っているわけではない。まだ──」
 言葉の途中でその唇をふさいだ。言葉を吸いつくすように舌を絡めて吸う。角度を変えて深く口づけながらベッドに再び押し付けた。




「俺のことは後でたっぷりとお前の体に教えてやる。だから今は俺に、お前がどうやって啼くのかを教えろ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

初夜が嫌だと泣いたら、旦那様に「好きな男に思う存分抱かれてこい」と言われました ※続編更新しました

夏川花椒
恋愛
クリスティアン・ドイル侯爵に嫁いだエラ。 初夜を迎える日、寝室で向かい合うクリスティアンにエラは泣きついた。 「……私、好きな人がいるんです」 実家の伯爵家で使用人をしているハリーのことが忘れられないと言うエラに、クリスティアンは「その男に思う存分抱かれてこい」とエラを焚きつけた。 --- 可愛い新婚夫婦の話です!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

最愛の夫が余命一年らしいので、彼の望み通り離縁することにします

ぽんた
恋愛
サエ・バッキンガムは、ある日最愛の夫のトラヴィスが余命一年だと知る。子どもの頃から悪名高いサエは、金の力で大好きなトラヴィスを夫にした。当然、トラヴィスはサエを憎悪している。しかも、トラヴィスには結婚前から「真に愛する人」がいる。それでも、サエは彼を愛し続けている。愛する人が余命一年。しかし、悪妻悪女を演じるサエは、トラヴィスに素直になれないでいる。時間はない。愛する夫に離縁をつきつけ、彼には残された時間を「真に愛する人」とすごしてもらおう。サエは、ついに決意した。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

処理中です...