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娼婦と甘い夢
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客相手でないセックスは久しぶりで、私も本気で感じて本気でイった。それも何度もイかされて、精魂尽き果てた。なのにザイクスはまだ余裕のある顔をしていたのがムカつく。腹が立つが、文句も言えないほどへとへとだった。こんなに本気で喘いだのは何年ぶりだろうか。
おそらく私とザイクスの体の相性がものすごくいいのも原因の一つだろう。気怠い体をベッドに横たえたまま深いため息を吐く。二日酔いの方がまだ楽だと思えるくらいに疲れた。
「なんで……そんなに元気なのよ」
私の声はかすれている。喘ぎすぎて喉が痛く、声も出にくい。一方ザイクスはニコニコしながら、嬉々として私の世話を焼いてくれる。
汚れた体を湯で絞ったタオルでふき取り、寒くないようにと毛布で包んだ。
本来ならそういったことをするのは娼婦の私の役目なのだが、疲れているし嬉しそうに奉仕してくれているので任せることにした。
「傭兵の体力を見くびるなよ」
何でもないことのようにさらりと言うがあり得ない。
今まで傭兵も何人か相手にしたことはある。けれど、ザイクスほど体力も精力もある男は見たことがない。傭兵というより、ザイクス自身がおかしいとしか思えない。
「俺は、これからちょっと出かけてくる」
「今から?」
窓の外を見て私は眉をひそめた。外はもう暗くなり始めている。これから出かければ夜になるのは確実で、一体こんな時間からどこへ行こうというのか。
「なんだ。心配してくれてるのか?」
「私が? 冗談でしょ。犬が狼の心配なんてするもんですか」
「ははっ、確かにな」
ザイクスは笑うとベッドに腰かけて、寝転がる私の頭を撫でた。そのまま髪を一束掬い上げて唇を寄せる。
「この部屋はしばらく押さえてある。疲れただろうから、ゆっくりしていくといい」
誰が疲れさせたのかと思いながら睨みあげれば、ザイクスは肩をすくめた。そしてまた私の頭を優しく撫でる。
「ロジーは犬って感じゃないな。どっちかと言うと猫だ。気高く美しく、そして人に懐かない」
「ふふっ。優しくして油断していると、鋭い爪で引っかかれるわよ」
「ロジーから受ける傷なら、悪くない」
「噛みつくかも」
「ああ、それも悪くない」
優しく頭を撫でられて目を細める。こんな風にゆったりとした時間の中で、誰かに優しくされたことなどなかった。
嬉しさと照れくささに目をつむる。そうすると、この二日間で疲れ果てていた体は容易く眠りへと引き込まれていく。頭を撫でられる心地よさがそれを増長させていた。
「明日の昼には戻る。それまでは、ここにいろ」
「…………」
返事もできず、私は深い深い眠りへと落ちていった。
「ずっと俺のそばにいろよ。ロジー」
耳元で小さく呟かれた声は、私の意識に届くことはなかった。
ж ж ж ж ж ж ж ж ж
眩しい太陽の光で目を覚ました。ベッドから体を起こす。ゆっくりと瞬きを二回繰り返し、私はここがどこなのかをようやく思い出した。
一昨日の夜に飲み比べ勝負をして負けてここに連れてこられた。そして昨日は、ザイクスに体を貪り尽くされた。
そのザイクスの姿はどこにもなかった。
窓の外を見れば、朝というには憚られるほどの位置に太陽がある。昨日は朝から昼過ぎまで揺らされた。夕方近くに気を失うように眠ったことを考えれば、かなりの時間眠っていたことになる。
よほど疲れていたのだろう。それに、気が抜けてしまったことも原因の一つなのかもしれない。
外では常に気を張り詰めていた。子供のころから今まで、誰にも負けないように、誰からも後ろ指をさされないように。
それが娼館を追い出され、ザイクスに負けて気が緩んだ。泣いて啼いて、心も体も疲れ果てて夢も見ずに眠った。だから体はすっきりとしていた。そして心も軽くなっている。
誰かに支えてもらうことが、こんなにも心地いいことだと知らなかった。今まで気を張りつめすぎていたせいで、私を助けようと差し出してくれた手さえ拒絶していたのかもしれない。気が付かず、彼らに背を向けて。
こんな風に考えられるようになったのも、ザイクスのお陰なのだろう。
彼が私の心の傷を癒してくれた。病など何でもないと言ってくれた。私が戦ってきた証だと認めてくれた。恥じることではない、逆に胸を張っていいのだと。
「情が……移ったかな」
私は一人呟く。
豪快で人に優しく、懐も大きい。いい男だと素直に思う。だからこそ、早めに離れなければと思う。娼婦が一人の男のそばにいるということは、生涯をささげるという意味でもある。私は今まで幾百もの男を相手にしてきた。どんなに取り繕っても、綺麗な体ではない。
たとえ傭兵でも、私のような女がそばにいていい相手ではない。
昼までには戻ると言った。だが、ここにいろと言われた言葉に返事はしていない。彼が帰るまでにここを出れば、ザイクスとの関係は切れる。大きな町だ。姿をくらませば見つからない。それにザイクスも探さないだろう。私たちは一時の体だけの関係なのだ。
「…………」
けれど、それを寂しいと思う自分もいる。もっとザイクスのことを知りたいと思う。髭の下の素顔を見てみたい。笑った顔を、照れる様を、自身に満ち溢れたその姿を見たい。そしてあの黄金の瞳で見つめられたい。
「…………馬鹿ね」
呟いて、一人自嘲の笑みを浮かべた。
恋する気持ちなどとうに忘れてしまったと思っていた。けれどザイクスと出会って抱かれ、ほんの少しときめいた。
本気で誰かに愛されたいと、乙女のように淡い夢を見た。
私は首を振ってベッドから立ち上がると、身支度を整えた。元々持っているものなどないに等しい。服を身にまとって財布を胸元に入れ、わずかな荷物の入った鞄を持てばそれで終わる。それでも時間をかけてしまったのは、浅ましい思いからだ。
もたもたしている間に、ザイクスが帰ってくるかもしれない。
けれどそんなわずかな期待は泡と消え、無情な現実だけが残った。
「馬鹿ね」
もう一度呟いて首を振る。
「さよなら。いい男だったわよ、ザイクス。元気で」
誰も答えないとわかっていて呟いた。言葉はすぐに消えて、後には何も残らない。
私は小さく息を吐くと、一歩踏み出した。
宿を出るまで、私は一度も振り向かなかった。
おそらく私とザイクスの体の相性がものすごくいいのも原因の一つだろう。気怠い体をベッドに横たえたまま深いため息を吐く。二日酔いの方がまだ楽だと思えるくらいに疲れた。
「なんで……そんなに元気なのよ」
私の声はかすれている。喘ぎすぎて喉が痛く、声も出にくい。一方ザイクスはニコニコしながら、嬉々として私の世話を焼いてくれる。
汚れた体を湯で絞ったタオルでふき取り、寒くないようにと毛布で包んだ。
本来ならそういったことをするのは娼婦の私の役目なのだが、疲れているし嬉しそうに奉仕してくれているので任せることにした。
「傭兵の体力を見くびるなよ」
何でもないことのようにさらりと言うがあり得ない。
今まで傭兵も何人か相手にしたことはある。けれど、ザイクスほど体力も精力もある男は見たことがない。傭兵というより、ザイクス自身がおかしいとしか思えない。
「俺は、これからちょっと出かけてくる」
「今から?」
窓の外を見て私は眉をひそめた。外はもう暗くなり始めている。これから出かければ夜になるのは確実で、一体こんな時間からどこへ行こうというのか。
「なんだ。心配してくれてるのか?」
「私が? 冗談でしょ。犬が狼の心配なんてするもんですか」
「ははっ、確かにな」
ザイクスは笑うとベッドに腰かけて、寝転がる私の頭を撫でた。そのまま髪を一束掬い上げて唇を寄せる。
「この部屋はしばらく押さえてある。疲れただろうから、ゆっくりしていくといい」
誰が疲れさせたのかと思いながら睨みあげれば、ザイクスは肩をすくめた。そしてまた私の頭を優しく撫でる。
「ロジーは犬って感じゃないな。どっちかと言うと猫だ。気高く美しく、そして人に懐かない」
「ふふっ。優しくして油断していると、鋭い爪で引っかかれるわよ」
「ロジーから受ける傷なら、悪くない」
「噛みつくかも」
「ああ、それも悪くない」
優しく頭を撫でられて目を細める。こんな風にゆったりとした時間の中で、誰かに優しくされたことなどなかった。
嬉しさと照れくささに目をつむる。そうすると、この二日間で疲れ果てていた体は容易く眠りへと引き込まれていく。頭を撫でられる心地よさがそれを増長させていた。
「明日の昼には戻る。それまでは、ここにいろ」
「…………」
返事もできず、私は深い深い眠りへと落ちていった。
「ずっと俺のそばにいろよ。ロジー」
耳元で小さく呟かれた声は、私の意識に届くことはなかった。
ж ж ж ж ж ж ж ж ж
眩しい太陽の光で目を覚ました。ベッドから体を起こす。ゆっくりと瞬きを二回繰り返し、私はここがどこなのかをようやく思い出した。
一昨日の夜に飲み比べ勝負をして負けてここに連れてこられた。そして昨日は、ザイクスに体を貪り尽くされた。
そのザイクスの姿はどこにもなかった。
窓の外を見れば、朝というには憚られるほどの位置に太陽がある。昨日は朝から昼過ぎまで揺らされた。夕方近くに気を失うように眠ったことを考えれば、かなりの時間眠っていたことになる。
よほど疲れていたのだろう。それに、気が抜けてしまったことも原因の一つなのかもしれない。
外では常に気を張り詰めていた。子供のころから今まで、誰にも負けないように、誰からも後ろ指をさされないように。
それが娼館を追い出され、ザイクスに負けて気が緩んだ。泣いて啼いて、心も体も疲れ果てて夢も見ずに眠った。だから体はすっきりとしていた。そして心も軽くなっている。
誰かに支えてもらうことが、こんなにも心地いいことだと知らなかった。今まで気を張りつめすぎていたせいで、私を助けようと差し出してくれた手さえ拒絶していたのかもしれない。気が付かず、彼らに背を向けて。
こんな風に考えられるようになったのも、ザイクスのお陰なのだろう。
彼が私の心の傷を癒してくれた。病など何でもないと言ってくれた。私が戦ってきた証だと認めてくれた。恥じることではない、逆に胸を張っていいのだと。
「情が……移ったかな」
私は一人呟く。
豪快で人に優しく、懐も大きい。いい男だと素直に思う。だからこそ、早めに離れなければと思う。娼婦が一人の男のそばにいるということは、生涯をささげるという意味でもある。私は今まで幾百もの男を相手にしてきた。どんなに取り繕っても、綺麗な体ではない。
たとえ傭兵でも、私のような女がそばにいていい相手ではない。
昼までには戻ると言った。だが、ここにいろと言われた言葉に返事はしていない。彼が帰るまでにここを出れば、ザイクスとの関係は切れる。大きな町だ。姿をくらませば見つからない。それにザイクスも探さないだろう。私たちは一時の体だけの関係なのだ。
「…………」
けれど、それを寂しいと思う自分もいる。もっとザイクスのことを知りたいと思う。髭の下の素顔を見てみたい。笑った顔を、照れる様を、自身に満ち溢れたその姿を見たい。そしてあの黄金の瞳で見つめられたい。
「…………馬鹿ね」
呟いて、一人自嘲の笑みを浮かべた。
恋する気持ちなどとうに忘れてしまったと思っていた。けれどザイクスと出会って抱かれ、ほんの少しときめいた。
本気で誰かに愛されたいと、乙女のように淡い夢を見た。
私は首を振ってベッドから立ち上がると、身支度を整えた。元々持っているものなどないに等しい。服を身にまとって財布を胸元に入れ、わずかな荷物の入った鞄を持てばそれで終わる。それでも時間をかけてしまったのは、浅ましい思いからだ。
もたもたしている間に、ザイクスが帰ってくるかもしれない。
けれどそんなわずかな期待は泡と消え、無情な現実だけが残った。
「馬鹿ね」
もう一度呟いて首を振る。
「さよなら。いい男だったわよ、ザイクス。元気で」
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私は小さく息を吐くと、一歩踏み出した。
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