極々普通の王太子、名前すら覚えて貰えず、弟に婚約者までも奪われたので王子辞めました。でも何か思っていたのと違う方向へ行ってませんか?俺!?

黄色いひよこ

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二章

もう一人の王太子

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王太子は、その晩真夜中に独り城を後にした。

明け方出たのでは弟王子が只をこねそうだと感じたせいだ。

そうなると、決心が鈍りそうになる。

自分は、誰にも顧みられない王子だ、そして、国の傀儡かいらいだ。

そんな人生を歩む位なら居なくなった方がマシだと思った。

それが、無責任な行動だと他人に揶揄されたとしても、言いなりになるくらいなら華々しく散ってやると思っての行動だった。


そして王子は、此処を立つ前に父である王に、日付が変わる前に暇乞いを済ませていた。

自分から王太子である事を返上し、公爵令嬢との婚約解消を願い出て第一王子となった彼は、退出する寸前にもう二度と城には帰れないだろうと、父親に言ってはみたものの、執務中だった王は聞こえていただろうか?

首を捻りたくなる。

彼は執務室を出ると、独りきりで真夜中の空を掛け出した。


「くっくっくっくっ……。馬鹿だよねぇ……、あんな上辺ばかりの連中を、命をかけて守る価値なんて有るのかな、サフィシル殿下」


彼はそう自問自答すると、アドラメレクの待つ場所へと急いだ。




かの悪魔との死闘は、三日三晩続いた。

体力の無い王子としては、良く持った方だったと思う。

魔術を屈指しての戦いは、王子に生きている実感をもたらし、アドラメレクに敵ながらあっぱれと、言わしめた。

そして彼は、最後の力を振り絞り極大魔法をアドラメレクにかけた。

結果は……。

アドラメレクを倒す事は出来なかったが、数千年は復活が見込めない程の、大ダメージを与える事に成功した。

だが、彼サフィシルの命はそのまま潰えた。

遺体は何処にもなかった。

そう、灰となって消えたと、巷では、まことしやかに囁かれている。


だが、真実は全く持って違っていた。

サフィシルは全く違う場所にいたのだ。

目前には小さな部屋が無数に広がっている。その一つ一つが何かで蠢いて居る。

そんな訳の解らない場所にサフィシルは立っていた。


「此処は何だ? 」


何処だ、とは言わない。

何だと言う方がしっくり来るような場所だったからだ。

すると、


「此処は5次元だよ」


そう言う声が四方八方から聞こえて来た。

サフィシルは辺りをキョロキョロと見渡す。

けれど、その場所には誰も居ない。


「何処だ、誰なんだ? 」

「あぁ、そうか、ちょっと待て…… 」


その声はそう言うと、サフィシルの正面に像を結んだ。

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