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二章
始まりの前に戻るその前に③
しおりを挟むだが、彼女は違う。
否、それ以前に、
「ひやあっっ! しゃっ、しゃべりましたわっ!? 」
と、こんな具合なのだ。
当然解っていた反応に、キットは呆れ、サフィは動じる事無く、くつくつと笑う。
「コレット嬢、世界は貴女が住んでいた場所1つキリだと思いますか? 」
多分、サフィに取って可笑しい事など何もない。
可笑しな振りをして笑いながら、コレットに問うサフィに、彼女は違和感を覚えながらも、何か感じ取ったのか引き締まった表情をして見せて、
「そうですね、きっとひとつでは有りませんわね。本当に私ったら、取り乱して申し訳有りません。失礼な事を申し上げましたわ」
と、居住まいを正してぺこりと首部を垂れた。
そんな彼女の態度にサフィは相好を崩す。
聡明な辺境泊令嬢にサフィは、
「人間も居れば魔と呼ばれる者も居る。勿論、このキットのような生き物も。君が此処に居るのは、死なせるには惜しいと僕が思ったから。或いは拾い上げた気紛れかも知れないし、君の決められた事象とも言える。要は、君はこれから君が生きてきた世界とは違う場所へ転移させられる事になる。勿論、君の意思を優先するよ。このまま死ぬか、異世界転移するか、コレット辺境泊令嬢、君はどうしたい? 」
サフィはあえて彼女にそう聞いた。
『生きたい』と答えるか、『死にたい』と答えるのか。
殆どの人間なら生きたいと答えるこの選択。
だがコレットはこう言った。
「どちらでも良いですわ。今の私には生きる意味や、生きがいが有りませんもの。異世界とやらに行っても、私は目的も何もなく生きてどうすれば良いのです? 」
そう言う彼女に、サフィはどう答えるのか。
「なら君に目的をあげよう。異世界に転移する目的を」
そうしてゆっくりと脚を組み替えると、嫣然と微笑んでコレットに言い放った。
「君に守って欲しい人が居る。彼女は、世界を救うパズルの大切なピースの1つだ…… 」
そして、その笑みはどこか人間性に欠ける、酷薄な笑みだとコレットは肌で感じ取ったのだった。
サフィに生きる目的を与えられたコレットは異世界転移する前に、彼に実戦を踏まえた戦い方と、地球的教育を施された。
魔力の無い世界から、魔力の有る世界へ。
軍隊仕込みのサバイバル術に、魔法操作のやり方など。
其処にお決まりのチートなど存在しやしない。
サフィとキットにありとあらゆる総を仕込まれて、コレットは立派な戦闘侍女へと成長した。
時間経過の解りづらいこの場所から、コレットは漸くサフィから転移の許可を得たのだった。
「コレット嬢、これから君を聖女の元に送る。彼女の名はエスリル。必ず彼女の侍女、お世話係になって下さい。君は僕の弟子のようなものなんだから、しっかり聖女を護り見届けるんだ、良いね」
「了解。期待にはきっちり応えますから、安心して下さい」
コレットはドヤ顔でサフィを見上げ、当のサフィは、チラッと彼女を見て小さく息を吐いた。
サフィに仕込まれた彼女だ、魔族の一個中隊ぐらいは、独りで瞬殺出来る程度の腕前が今は有る。
はっきり言おう、これぞチートと言わないか?
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