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北の大森林の主
急患⑧
しおりを挟む「あっ、うううう、わたくしはまたっ…… 」
そのくりっとした愛くるしい瞳からはポロポロと涙がとめどなく溢れて、アイセンレイトはラスティエルの頬に触れ、彼女の涙を指の腹で拭った。
ぴくんと肩を震わす彼女に、アイセンレイトは優しげな瞳で彼女を見詰め、声を掛ける。
「どうしたの? 怖い夢でも見た? 此処は安全だから。ね、大丈夫だよ…… 」
蕩けそうな甘やかな声音に、聞くともなしに聞いていた月光が、ギョッとした。
珍しいものでも見たように見開く目は唖然として、口もポカンと開いている。
何時も厳しい目をして己を律して縛る彼しか見ていなかった月光に取って、蕩けるような微笑みを彼が浮かべるのを見るのは、青天の霹靂としか言えない。
コレが番との出逢い、巡り会いなのだと改めて感じた月光は、2人の邪魔をしないようこっそりと立ち上がって、そろ~りとリビングを後にした。
勿論、リビングに常駐していた数人の騎士も連れて。
「坊ちゃんにも漸く春が来たかぁ~。良きかな、良きかな」
う~んと唸りながら伸びをすると、
「よっしゃ、達磨さんの様子でも見て来るとするかいな」
と言って怪我人の部屋へと歩き出した。
所変わって、アイセンレイトの居るリビングでは、甘過ぎる空気がそこはかとなく漂っていた。
ぐずっと鼻を鳴らすラスティエルに、アイセンレイトは年上らしい包容力で、彼女の涙を拭い続けていた。
「わっ、わたくしはっ、またっ、気絶してっ、レイトさまにっ、しっ、しつ、れっ」
途切れ途切れだが、ポロポロと涙を流す彼女を、アイセンレイトは不謹慎だが可愛いと感じてしまう。
「良いよ。僕も悪かったんだから。急に抱きしめたりなんかして…… 」
眉尻を下げながらラスティエルを伺う様は、まるでうなだれる犬のよう。
「ほら、もう泣き止んで。少しずつぼくに慣れて。僕は君が大好きなんだから。酷い事なんかしないよ」
こくこくと頷くラスティエルに、アイセンレイトはふわりと優しい笑みを見せた。
「レイト様…… 」
涙を拭き取られたラスティエルが、アイセンレイトの求めに応じてにこりと笑った。
「愛してるよ、僕のラスティエル」
泣き笑いのラスティエルに満足げな微笑みを見せたアイセンレイトは、悪びれる事無く感情の赴く儘に、新たな爆弾を投下してしまったのだった。
今度はかろうじてですが、気絶は免れたラスティエルでした。
達磨さん事、ギデウス団長が目覚めたのは、幾許もしない内だった。
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