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私の囀りが、快楽を追求するモノに成りはてて、真紘さんは、優しく、けれど力強く激しい律動を見せ始めた。

より一層、強く喘ぐ私。

彼は、そんな私の聲(こえ)を聞いている。

聞いて、癒やしにしている。

私は、キュッと閉じていた瞼を上げた。

目の前に、深い深い緑の闇が見えて……。

その視線が絡み付いて、あたしは、貴方の闇に捕らえられた。




「柚芽、既成事実、作っちまおうか? そしたら、お前は俺から逃げられない…………」

「そうね。それは名案だわ。作りましょう。貴方と私の赤ちゃん。そうしたら、貴方は私のモノに成るかしら? どんな手を使っても、貴方を其処から引きずり出してあげる。私、幸せな家庭を築きたいと思ってるの。真紘さん、貴方と…………」




私の言葉に、貴方の闇が動揺した。

そんなに驚く事かしら?

こんなに、貴方を愛してるって、言っているのに。

正気に返ると、覿面(てきめん)私から遠ざかろうとする貴方。

それは、私が、歌手だから?

貴方が、マネージャーだから?

その前に私は、只の女よ。

貴方を愛するただの女。

貴方の瞳の闇色が薄まる。

狂気から正気へ。

私の一言で、いとも簡単に貴方は戻る。

でも、逃がさない。

言い出したのは貴方の方なのだから。

私は、貴方の首に両手を絡め、両脚を高く上げて貴方の腰に絡める。

ギュッとしがみ付けば、再奥まで貴方を受け入れた形になって、私は嬌声を上げた。

貴方と絡み合う視線。

私は、重大な事実を告げる。

貴方を闇から引きずり出す、二度目の試み。



「さぁ、始めましょう。私は、心底真紘さんを愛しているから、貴方の子供を宿し育み、貴方との家庭を護る心積もりが有るわ。だから、貴方が少しでも、お姉ちゃんじゃなくて、私を見てくれていたら嬉しい…………」



女の私が此処まで言ったのよ。

はぐらかさないで、貴方の気持ちを教えて欲しい。

『目は口ほどに物を言う』私は、そのことわざを信じて、貴方の瞳を覗き込んだ。

揺れる貴男の瞳が、ふっと止まった。



「柚芽……。俺と亜依の間に夫婦の営みはたったの一度も無い。俺は、見てくれがこんなだから、経験豊富に見えるかもしれない。けど、俺は愛した女しか抱かない主義だから」



私は、目を見張る。

それは、愛されてるって、思って良いって、事?



「ねぇ、真紘さん……。私の事、好き?」



私の言葉に、貴方は、寂しそうに笑った。



「柚芽……。ごめん、言えない……。今は、言えない。何時か言うから、待っててくれるか? 」



──好きだ──



声に成らない声が、真紘さんから発せられた。

唇だけを動かして。

読み取れた貴方の聲。

私は、真紘さんの言葉に、ポロリと一滴、涙を零した。

これで、貴方と一緒に頑張れる。

わたし…………。

頑張れるから。

貴方の唇が、私の涙を捉える。



「柚芽…………」



そして貴方は、律動を再開し始めた。

あたしは、甘い声を上げる。

どことなく、貴方の全てが優しかった。


 
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