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⑤
しおりを挟む私の囀りが、快楽を追求するモノに成りはてて、真紘さんは、優しく、けれど力強く激しい律動を見せ始めた。
より一層、強く喘ぐ私。
彼は、そんな私の聲(こえ)を聞いている。
聞いて、癒やしにしている。
私は、キュッと閉じていた瞼を上げた。
目の前に、深い深い緑の闇が見えて……。
その視線が絡み付いて、あたしは、貴方の闇に捕らえられた。
「柚芽、既成事実、作っちまおうか? そしたら、お前は俺から逃げられない…………」
「そうね。それは名案だわ。作りましょう。貴方と私の赤ちゃん。そうしたら、貴方は私のモノに成るかしら? どんな手を使っても、貴方を其処から引きずり出してあげる。私、幸せな家庭を築きたいと思ってるの。真紘さん、貴方と…………」
私の言葉に、貴方の闇が動揺した。
そんなに驚く事かしら?
こんなに、貴方を愛してるって、言っているのに。
正気に返ると、覿面(てきめん)私から遠ざかろうとする貴方。
それは、私が、歌手だから?
貴方が、マネージャーだから?
その前に私は、只の女よ。
貴方を愛するただの女。
貴方の瞳の闇色が薄まる。
狂気から正気へ。
私の一言で、いとも簡単に貴方は戻る。
でも、逃がさない。
言い出したのは貴方の方なのだから。
私は、貴方の首に両手を絡め、両脚を高く上げて貴方の腰に絡める。
ギュッとしがみ付けば、再奥まで貴方を受け入れた形になって、私は嬌声を上げた。
貴方と絡み合う視線。
私は、重大な事実を告げる。
貴方を闇から引きずり出す、二度目の試み。
「さぁ、始めましょう。私は、心底真紘さんを愛しているから、貴方の子供を宿し育み、貴方との家庭を護る心積もりが有るわ。だから、貴方が少しでも、お姉ちゃんじゃなくて、私を見てくれていたら嬉しい…………」
女の私が此処まで言ったのよ。
はぐらかさないで、貴方の気持ちを教えて欲しい。
『目は口ほどに物を言う』私は、そのことわざを信じて、貴方の瞳を覗き込んだ。
揺れる貴男の瞳が、ふっと止まった。
「柚芽……。俺と亜依の間に夫婦の営みはたったの一度も無い。俺は、見てくれがこんなだから、経験豊富に見えるかもしれない。けど、俺は愛した女しか抱かない主義だから」
私は、目を見張る。
それは、愛されてるって、思って良いって、事?
「ねぇ、真紘さん……。私の事、好き?」
私の言葉に、貴方は、寂しそうに笑った。
「柚芽……。ごめん、言えない……。今は、言えない。何時か言うから、待っててくれるか? 」
──好きだ──
声に成らない声が、真紘さんから発せられた。
唇だけを動かして。
読み取れた貴方の聲。
私は、真紘さんの言葉に、ポロリと一滴、涙を零した。
これで、貴方と一緒に頑張れる。
わたし…………。
頑張れるから。
貴方の唇が、私の涙を捉える。
「柚芽…………」
そして貴方は、律動を再開し始めた。
あたしは、甘い声を上げる。
どことなく、貴方の全てが優しかった。
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