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神獣朱雀『エレオノラ』
帝都のペントハウスにて
しおりを挟むペントハウスのリビングで、ナディアを待つ間、彼女の親父さんがずっと側にいた。
何か言いたそうにしているが、言い出しづらい感半端無い。
そんな感じだ。
薬師はそう感じ心の中で苦笑した。
父親とは、こんな感じなのかなと、思いつつ。
仏教で、仏と名の付く者達は元々人だった者だから、当然全ての仏には親が居た。
それは薬師も例外では無い。
けれど親がどんな人達だったかと問われると、『分からない』としか言いようがない。
修行で一つ一つ克服する度に、個人的思いは失われる。
如来に個人とする概念は、無いに等しい。
けれどそれでは、地上で助けを求める人々を救う事なんて出来ない。
だから薬師は、如来である他に、櫂と言う自分も残している。
だが、それですら完璧では無かった。
「ナディアのお父上、まだお名前を伺っておりませんでしたね…… 」
「あははは、そう言えばそうでしたね。薬師様。改めまして、私は、レイノルズ=オーエン=シルベスタと申します」
薬師は、レイノルズの自己紹介に対してにこりと笑った。
「私は、薬師瑠璃光如来、瑠璃光 櫂が個人名だと。まぁ、此方の名前では誰も呼びませんが…… 」
レイノルズが眉を上げると、薬師は苦笑して、
「人であった頃に使っていた名前だと思います。忘れてしまったので、さだかでは無いですけれどね」
そう告げた。
「忘れてしまう程って……、貴方は一体…… 」
「年齢なら聞かないで下さい。私もどれだけ生きているのか正確には解りませんから。修行してしまうと多くを超越して、人としての多くを無くします。寿命もその一つです。ただ、私は生者を加護する者ですから、人が何を求め、救済を願うのか、理解する為、人であった時の感情を切り離して持っています。それが、瑠璃光 櫂と言う訳です」
レイノルズは、だからかと何かに納得した。
だから、大切な娘を預ける事にも納得し、安心したのだった。
神とは計り知れない者。
理解し難い者。
だから人間を理解出来ない者だとも思っていた。
そんな神の元で娘が幸せになれるのか、それが気掛かりだったのだ。
けれどこの神は、神では有るが人を理解しようと努力している。
立派だと心から思った。
おこがましくは有るけれど。
レイノルズは、彼の妻同様深く頭を下げて薬師に「娘を頼みます」と、懇願した。
「はい、彼女は必ず俺が護ります」
薬師は、其処で初めてレイノルズに素の自分と言う者を見せた。
爽やかに屈託無く笑う薬師には、神なのに人間くさい笑いが溢れていた。
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