無実の罪で断罪される私を救ってくれたのは番だと言う異世界の神様でした

黄色いひよこ

文字の大きさ
89 / 220
神獣朱雀『エレオノラ』

帝都のペントハウスにて

しおりを挟む

 ペントハウスのリビングで、ナディアを待つ間、彼女の親父さんがずっと側にいた。

 何か言いたそうにしているが、言い出しづらい感半端無い。

 そんな感じだ。

 薬師はそう感じ心の中で苦笑した。

 父親とは、こんな感じなのかなと、思いつつ。

 仏教で、仏と名の付く者達は元々人だった者だから、当然全ての仏には親が居た。

 それは薬師も例外では無い。

 けれど親がどんな人達だったかと問われると、『分からない』としか言いようがない。

 修行で一つ一つ克服する度に、個人的思いは失われる。

 如来に個人とする概念は、無いに等しい。

 けれどそれでは、地上で助けを求める人々を救う事なんて出来ない。

 だから薬師は、如来である他に、櫂と言う自分も残している。

 だが、それですら完璧では無かった。


 「ナディアのお父上、まだお名前を伺っておりませんでしたね…… 」

 「あははは、そう言えばそうでしたね。薬師様。改めまして、私は、レイノルズ=オーエン=シルベスタと申します」


 薬師は、レイノルズの自己紹介に対してにこりと笑った。


 「私は、薬師瑠璃光如来、瑠璃光 櫂が個人名だと。まぁ、此方の名前では誰も呼びませんが…… 」


 レイノルズが眉を上げると、薬師は苦笑して、


 「人であった頃に使っていた名前だと思います。忘れてしまったので、さだかでは無いですけれどね」


 そう告げた。


 「忘れてしまう程って……、貴方は一体…… 」

 「年齢なら聞かないで下さい。私もどれだけ生きているのか正確には解りませんから。修行げだつしてしまうと多くを超越して、人としての多くを無くします。寿命もその一つです。ただ、私は生者を加護する者ですから、人が何を求め、救済を願うのか、理解する為、人であった時の感情を切り離して持っています。それが、瑠璃光 櫂と言う訳です」


 レイノルズは、だからかと何かに納得した。

 だから、大切な娘を預ける事にも納得し、安心したのだった。

 神とは計り知れない者。

 理解し難い者。

 だから人間を理解出来ない者だとも思っていた。

 そんな神の元で娘が幸せになれるのか、それが気掛かりだったのだ。

 けれどこの神は、神では有るが人を理解しようと努力している。

 立派だと心から思った。

 おこがましくは有るけれど。

 レイノルズは、彼の妻同様深く頭を下げて薬師に「娘を頼みます」と、懇願した。


 「はい、彼女は必ず俺が護ります」


 薬師は、其処で初めてレイノルズに素の自分と言う者を見せた。

 爽やかに屈託無く笑う薬師には、神なのに人間くさい笑いが溢れていた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...