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番外編:ソラシア帝国大舞踏会
狼さんは公爵でした。
しおりを挟むもんどり打って倒れた所を、あの右腕をズシンと落とす。
ゲフンという声がしたが、薬師は気にも留めなかった。
地に倒れ伏した狼獣人の身体と顔を、鋭い何かが掠めて刺さる。
「ヒイッ!! 」
と、情けない声を上げはしたものの、気絶と失禁をしなかったのは、流石、狼獣人と言った所か。
鋭い何かを放ったのは、薬師では無く、ナディアであった。
勿論、それが何かと尋ねられれば、記憶に新しいとある者達とでも言っておこう。
何せ此処は社交の場。
狼獣人の纏う上質な衣装に、無惨にも大穴を六つも開けてしまったのだ、薬師は逸れを見て溜め息を吐いた。
「ナディア、流石にそれはやり過ぎかと…… 」
「いいえ、わたくしの番である薬師様を捕まえて、『我が番』などと聞き捨てなりませんわ。それにこの子達は私の大事な護衛達。皆、きちんと分をわきまえておりますわ」
と、薬師の言葉ににっこりと笑うナディアであったが、そんな二人のやり取りとは別に、ナディアのドレスの裾を掴み、言い放つ言葉があった。
「違う! 我が番はそなただ!! 」
そう言ってぐっと引っ張られたのは、ナディアのドレスの裾だった。
「きゃっ!? 」
とっさの事でバランスを崩すナディアを薬師は楽々と片手で支え、消えてしまった剣の代わりに、今度は薬師がその片足でゲシッと狼獣人を踏みつけた。
「こんのぉ、離せ! 我を踏みつけるなど、この国の皇帝は何をしている。我は嘩嚥国 山東領の領主、嚥俊傑公爵なるぞ!、この踏みつけている足を外せっ!! 」
と、狼獣人は薬師の足元で吠え立てたのだった。
これぞまさしく、愚の骨頂である。
「嘩嚥国、青龍の国か。俺を見て白龍と結び付けれなければ其れまでの人材って事か……。私相手に権力を振りかざしても無駄な事ですよ。後、ナディアが貴方の番とは聞き捨て有りませんね。何かの間違いでは有りませんか? 」
俊傑と名のった狼獣人は、薬師がやんわりと否定しても、ナディアが番だと言い張るばかりであった。
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