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第2部:御披露目の前
亡者達
しおりを挟む「始まったようだね…… 」
ふっと息を吐くように言う薬師は、勧められる儘に気怠げに腰掛けていたソファーから再び立ち上がり、誰に聞かせる訳でもなく独り呟いた。
と、言っても側には孔祥が控えて居たのだが、薬師の彼への態度は『居ない者』扱いである。
あんまりだと普通の神経ならば思いがちだが、この男、神、嫌、仏である。
人間とはちと、感性と言うモノが違う。
どう人に擬態しても根本が違うので、端から見れば冷たいの一語に尽きるのだ。
そんな薬師が、気怠げに(そう見えるが定かではない)嗤う。
「孔祥、酷な事を言うようだが、そなたの父は多くの者の不況を買った。此も因果応報、自業自得。残念だが五体満足では居られないであろう。覚悟しておけ…… 」
そう言う薬師の口調は、何時もの彼とは程遠い。
「はい、私もようく理解しております。全ては御心の儘に…… 」
そう言うと、孔祥は美しい所作で平伏した。
ひらひらと領布が舞う。
つられて男がよろよろとそれを追駆けている。
もうどの位、こうしてこの領布を追い掛けていただろうか?
数時間、数分、数秒。
祥啓は、もう何がなんだか解らなくなっていた。
── 私の娘を返せ ──
おどろおどろしい声が耳元で聞こえ、祥啓は思わず振り返った。
領布の向こう側に人が佇んで居る。
それは陽炎のようにゆらゆらと揺れながら袈裟懸けに斬られ、血に染まった姿で恨み言を口にしていた。
「ひいいぃぃぃぃ~」
祥啓は、己の口から悲鳴が漏れるのを人事のように耳にした。
それでも身体は正直に動くのかばっとその位置から飛び退いた。
彼に迫るその亡者から逃れる為に…… 。
「さぁ、行っておいで。今度は君の番だ。怨み、嘆きが有るだろう? 逸れを訴えておいで。心残りを晴らして、この世から解放されようね…… 」
そう言って年老いた夫婦を送り出すのは因達羅であった。
「うわああぁぁぁ!! 来るな! 来るな! こないでくれえぇ!! 」
よろよろと近付く夫婦の亡者は、ころりと首を落とすと祥啓の前までゴロゴロと転がり出て、
── 娘を返せぇ…… ──
地を這う声で訴えた。
これで亡者が三人である。
「えっと、第三夫人の両親と、第二夫人の婚約者だっけ死んでたの? 後、第四夫人って誰か殺されてたっけ? 」
あっけらかんとした口調で安底羅が問い掛ければ、珊底羅が
「あそこは貴族家の出身だがあの男に没落させられたようだ。皆、平民になっている」
と、答えた。
「あぁ、でも弟が鬼籍に入ってるよ。昨年の話だね。あぁ、可哀想に栄養失調だ…… 」
と、巨大な閻魔帳を捲りながら横槍を入れたのは因達羅であった。
そう、亡者を呼びだしているのはこの御仁であった(コレを職権乱用と言う)。
「はいっ! 君も行ってひとこと言っておいで」
と言って因達羅は、呼び出した少年の背中を押した。
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