悪女で悪魔

黒澤尚輝

文字の大きさ
1 / 69

しおりを挟む
 


「あまり私に近寄らないで」

自分より背の低い少女を見下し睨みつける女。ドロリと血液のような瞳にははっきりと拒絶が浮かび上がっていた。

「ごっごめんなさい⋯⋯調理実習でクッキーを焼いて⋯⋯さんに食べてもらいたくて」

ミルクティー色の髪を高い位置で二つに結び、兎が描かれたエプロンをつけた少女は大きな瞳に涙を溜めエメルネスと呼ばれた女を見上げた。
赤黒い瞳の女エメルネスは少女が手に持つクッキーをチラリと見下ろし眉をひそめ、口を開いた。

「⋯⋯?あなたの作った物なんて食べられるわけがないでしょう。それに、私の名を呼ぶのはやめて。気分が悪い」

エメルネスは少女を強く睨みそう告げると踵を返した。
少女の青空を閉じ込めたような大きな瞳に溜まった涙が溢れ出した。光る粒のような涙が頬を伝い床に零れ落ちていく。

「おい」

背を向け歩き始めたエメルネスを呼び止めたのは怒りを含んだ低い声。

「⋯⋯また、あなた?」

エメルネスが振り返ると涙する少女の隣に立つ男の姿があった。

がお前に何をしたというんだ。入学式の時からずっと強く当たって⋯⋯彼女の気持ちを考えたらどうなんだ」

黄金色の髪を持ちエメラルドのような瞳を持つ男がエメルネスを強く睨みつける。
対し、エメルネスはそんな男をバカにするかのように鼻で笑った。

「ふっ⋯⋯ほんと、見てみたいわ。その頭には一体何が入っているのか。何度言っても私に近寄ってきて⋯⋯嫌がらせでもしてるの?」
「お前っっ」

男の手に赤い炎が灯った。

?許可されていない場での対人魔法使用は禁じられているはずですが?」
「ちっっ」
「では、失礼します」

炎が消えたことを見届けたエメルネスは、今度こそ少女アメリア首席に背を向け歩き出した。

首席さんと呼ばれた男はアメリアの背を摩り慰め、アメリアは溢れ止まらぬ涙を必死に拭っていた。
男は女が歩き去った廊下を睨みつけアメリアに触れていない方の手を強く握りしめた。

2人から離れたエメルネス。彼女の瞳は少し潤み、赤く染まった頬と熱い吐息を隠すように早歩きで誰もいない空き教室を目指していた────。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

処理中です...