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しおりを挟む「あまり私に近寄らないで」
自分より背の低い少女を見下し睨みつける女。ドロリと血液のような瞳にははっきりと拒絶が浮かび上がっていた。
「ごっごめんなさい⋯⋯調理実習でクッキーを焼いて⋯⋯エメルネスさんに食べてもらいたくて」
ミルクティー色の髪を高い位置で二つに結び、兎が描かれたエプロンをつけた少女は大きな瞳に涙を溜めエメルネスと呼ばれた女を見上げた。
赤黒い瞳の女は少女が手に持つクッキーをチラリと見下ろし眉をひそめ、口を開いた。
「⋯⋯殺す気?あなたの作った物なんて食べられるわけがないでしょう。それに、私の名を呼ぶのはやめて。気分が悪い」
エメルネスは少女を強く睨みそう告げると踵を返した。
少女の青空を閉じ込めたような大きな瞳に溜まった涙が溢れ出した。光る粒のような涙が頬を伝い床に零れ落ちていく。
「おい」
背を向け歩き始めたエメルネスを呼び止めたのは怒りを含んだ低い声。
「⋯⋯また、あなた?」
エメルネスが振り返ると涙する少女の隣に立つ男の姿があった。
「アメリアがお前に何をしたというんだ。入学式の時からずっと強く当たって⋯⋯彼女の気持ちを考えたらどうなんだ」
黄金色の髪を持ちエメラルドのような瞳を持つ男がエメルネスを強く睨みつける。
対し、エメルネスはそんな男をバカにするかのように鼻で笑った。
「ふっ⋯⋯ほんと、見てみたいわ。その頭には一体何が入っているのか。何度言っても私に近寄ってきて⋯⋯嫌がらせでもしてるの?」
「お前っっ」
男の手に赤い炎が灯った。
「首席さん?許可されていない場での対人魔法使用は禁じられているはずですが?」
「ちっっ」
「では、失礼します」
炎が消えたことを見届けたエメルネスは、今度こそ少女と男に背を向け歩き出した。
首席さんと呼ばれた男はアメリアの背を摩り慰め、アメリアは溢れ止まらぬ涙を必死に拭っていた。
男は女が歩き去った廊下を睨みつけアメリアに触れていない方の手を強く握りしめた。
2人から離れたエメルネス。彼女の瞳は少し潤み、赤く染まった頬と熱い吐息を隠すように早歩きで誰もいない空き教室を目指していた────。
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