悪女で悪魔

黒澤尚輝

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2番目に連れられ来たのは空き教室。魔法で教室に被害が出た際一時的に移動できるよう空き教室が多くあるこの学校は国内1の設備を誇っている。

ギスギスとした空気が流れる。居心地の悪さを隠すためため息を吐く。
2番目が振り向きゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、悪女ちゃん。ウェルに何かした?」
「⋯⋯ウェル?」
「はっ、ほんとにそれ、言ってる?主席のスゥエルニ・バングリットだよ?」
「あぁ、主席の」

──主席の名前そんな感じだったかしら?

「本当にムカつくなぁ、君」
「ならわざわざ呼び出しなんてしないほうが良かったんじゃないんですか?」
「チッ」

明らかにイラついている2番目。本当に面倒くさい。ここで動揺してしまえば勘繰られるだろう。冷静を装い応対する。一体主席は今どんな状態でなぜこの男に怪しまれたのか、気になるところではあるものの変に話せば勘の良さそうなこの男のことだ、何かに勘づくだろう。やはり成績上位者は面倒くさい。
重苦しい空気感に思わずため息が漏れる。

「ニーナにもキツく当たるし」
「⋯⋯」

誰のことだろうか。ニーナとは。

なんだから他人に当たるのはやめたほうがいいと思うよ?」
「は、」

頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。

──私のせい?私のせいで落ちぶれたというの?この男は。もう何百年も抑えられていたはずのこの欲望があの女のせいで現れたのだ。好きでこの体に生まれたわけではない。

ぞわり。

背中に寒気が走る。この男の言葉に酷く怒りが湧き上がる。頭の中を埋め尽くす罵倒の数々。

──周囲の人間の声が鬱陶しい。あの女の存在が憎い。何も知らないというのにあの女の味方をし私を責め立てるこの男が忌まわしい。精液でしか魔力の補給ができないこの体が疎ましい。

──いや、何よりこんな自分が何よりも1番厭わしい。

立ち尽くす。先祖を恨んでしまう自分に。他者を貶す自分に。落ちこぼれた自分に。あの女の笑顔が皆から愛される事実に。それに対比し〝悪女〟と呼ばれるまでに嫌われる自分に。

たしかにあったのだ。私にも。誰かから好意を向けられたいという想いが。しかしこんないやらしい体つきだ。こんな見た目だ。人と話すと緊張でキツイ言い方をしてしまう。こんな私には愛される資格などないのだろう。魔族の血を受け継ぐ私。淫魔の本能が現れてしまった私にはもう未来などないのだろう。

目の前の男を見る。見下ろす瞳は嫌悪が混じる。この男を貶めたらどうなるのだろうか。ふとそんな考えが浮かんだ。結局は精液を摂取しなければ生きてなどいけない。それならばもう誰に何をしても同じではないのか。催眠があるのだからこの男を辱めても許されるのではないか。

そして私の理性で縛り付けていたはずの本能が体を支配した。

やったことがないはずなのになんとなく理解ができていたフェロモンを意図的に表出する行為。相手の目を見つめ意識をする。

──私に欲情しなさい。

徐々に赤みを帯びていく2番目の頬。何かがおかしいと感じただろうがもう遅い。途端に膝をつく男。瞳は潤みチョコレートのような甘い香りが強く香る。
乾く唇を舌で舐める。一歩一歩男に近づき見下ろす。なんて愉快な時間だろうか。腰に甘い響きが走る。

──さぁ、私の時間よ。

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