悪女で悪魔

黒澤尚輝

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「エメルネスさん!」

振り向けば聖女の末裔と首席、団長の息子そして1年の天才が立っていた。聖女の末裔の手にはお弁当。他3人は私を睨みつけている。なぜこれほどまでに私を追い詰めるのだろうか。

「お昼!一緒にどうですか?」
「⋯⋯なんなの、本当に」
「え?」

怒りが込み上げてくる。見た目の可愛らしさから異性からの人気があり守りたくなる動作で5人の男を侍らせる。聖女の末裔という身分から教師たちからも気にかけられている。
私への嫌がらせをやめればいいのにいつまでも話しかけてくる。それを突っぱねれば私が責められる。受け入れれば痛みに襲われる。どうしろと言うのか。

「いい加減に、して」
「おい」
「お願いだから、もう、やめてほしい」
「お前!ニーナをなんでそんなに嫌うんだ!」

私の切実な願いを言えば首席が、一年の天才が批難する。団長の息子は何も言わないが目が私を責めている。

「もう、本当にやめてほしい」
「エ、エメルネスさん⋯⋯?」
「私に、関わらないで」

涙を浮かべる聖女の末裔。なぜそんな傷ついた顔ができるの。なぜ私を悪者にするの。私に関わらなければいい話なのに。どうして。
これ以上いれば私が何を言うかわからない。早く逃げよう。

「私はこれで」
「ま、待って!」

突然走り出す聖女の末裔。その時だ。何もないのに足をとられ私のすぐ目の前で倒れ始めた。

「きゃっ」
「ニーナ!」
「おい!」

一年の天才と首席が手を伸ばす。団長の息子は驚いている。距離があり手が届かない。
そして、私の腕に倒れ込んできた。助けなければ良かったのに、なぜか手を伸ばしてしまった。左腕に捕まる少女。そこが焼けるように痛み出す。今までに感じたことのない強すぎる痛みに思わず手を振り払ってしまう。

「っっつ」
「きゃあっ」

振り払った勢いで後ろ向きに倒れ始めた少女を団長の息子が受け止めた。聖女の末裔は3人から声をかけられている。尻もちすらついていないのに痛みの有無を聞かれていた。

左腕は燃えるような痛みに包まれ思わず崩れ落ちた。嫌な汗をかき耳鳴りがする。腕が全体的に焼かれじくじくと痛んだ。首席が少女から私に顔を向けた。怒りに染まった瞳のまま私の方へと近づいてくる。

「ユナイデル!貴様アメリアを突き飛ばすなどっ」

首席が私の肩を強く掴んだ。腕も痛いし肩も痛い。なぜこんなことに⋯⋯。痛みで朦朧とする頭。甘い香りが近くから香る。

──このままでは、大変なことにっ。

肩を掴む首席の手を振り払う。

「離しなさい」
「ユ⋯⋯ナイデル?」

じわり、生理的な涙が浮かぶ。驚く首席を尻目に走り出した。後ろからは私を責める声がする。
しかし、今の私にはそんな声など聞こえるはずもなく。いつかの時のように空き教室は滑り込んだ。

────────

昼、食事をするため教室を出れば目の前にアメリアが立っていた。ご飯食べよ、そう笑顔で挨拶をしてきた。以前であれば良く笑う接しやすい後輩だ、そう感じていたはずなのに。最近ではアメリアを見ればあの女を思い出してしまう。

あの夢の女は素直で可愛げがあってエロかった。しかし現実は俺を見れば顰めっ面をし避ける。可愛げがない。
アメリアを好きなはずな友人は何かとあの女のことを聞いてきて怪しい。

「あいつ⋯⋯何隠してんだ?」
「なんか言った?」
「いや、何でもない」

アメリアの他には3年の首席、第一騎士団団長の息子グレイ・ミュエルシ。そして1年の天才、アルト・カインがいた。この2人はアメリアへの好意を抱いていると思う。
そんな2人とともになぜかアメリアを教室へ送る(3人もいるのか?)ことになった。

そして歩き始めればいつもの如くあの女に遭遇することになった。いつも通りアメリアがユナイデルに声をかけそれを迷惑そうに突っぱねる。なぜあんなにも当たりが強いのか。
そんな時だ何もないところでいつものように転んだ。アメリアは注意散漫なのかよく転ぶ。またか、と思いつつも手を伸ばすが届かない。転んだとしても怪我をしてる姿は見たことがないから今回も無事だろう、そう考えていた。

するとどうだユナイデルが手を伸ばし受け止めた。かと思えば顔を顰め振り払いアメリアが後ろ向きに倒れ始めた。ミュエルシが受け止めたからいいが、一体何を考えてるんだ。
肩に手を置き声をかければ真っ青な顔色のユナイデルがこちらを睨みつけた。

──まただ。俺にはなぜこんなにキツく当たるのか。この女は。あの夢のように甘えてくればいいものを。なぜ1人で立ち上がる。この状況、少しでも俺に頼りさえすればどうにかなると考えないのか。

訳のわからない感情が湧き上がり怒りになる。自分でもこの気持ちの制御ができない。

「離しなさい」

凛とした声だった。アメリアを受け止め怪我でもしたのか目尻に涙が溜まっていた。体は震えているのに強がりこちらを睨む。心臓が強く軋む。あの夜を思い出す。赤く染まる頬と柔らかな手の感触。夢なのにやけにリアルに思い出す。この顔を快楽で滲ませ溶かし喘がせ何も考えられなくしてやりたい。

ずくりと下半身が重くなる。手が緩めばユナイデルは自らを守るよう身を抱き走り去っていった。追うこともできず立ちすくんでいればカインが走り追いかけて行った。ともに行こうと足を動かせば腕に抱きつき引き止めるアメリア。

こんな良い子な少女に俺は少しだけイラついてしまった。しかしそんなことを出さないようすすり泣くアメリアをミュエルシと教室に送り届けた。ミュエルシが俺を怪しげに見てることなど知る由もなかった。
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