悪女で悪魔

黒澤尚輝

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翌日の休みは家を出ることなく過ごした。ひたすら授業の予習をし魔法を練習した。不正と言われようとも努力は実ると信じて。
夜中には家を出て魔力の補充へ向かう。いつもと変わらない日常。本の内容が少しだけ頭に残っていたが自分で行為に及ぶ勇気などなく、口淫をし催眠をかけるだけにした。中級より少し上くらいの魔力を3人分摂取し割と溜まった頃に部屋へ戻った。

その日も監獄に入る私が命乞いをする惨めな夢を見た。
早朝に目が覚め頭痛がする。キッチンで白湯を作り飲みながら外を眺める。雲行きの怪しい空は今にも雨が降りそうだった。

────────

学園に着けばなぜかまた会う聖女の末裔。隣には1年の天才少年。こちらを睨みながらも警戒していていつもみたいに文句は言わず少女の後ろに隠れている。まるで猫だ。
聖女の末裔は変わらず話しかけてくる。返答する気にもなれず返事も早々にクラスへと向かった。

授業も特に問題はなくそつなくこなした。ヴァイス先生が声をかけてきたが端的に返答しその場を後にした。少しそっけなくしすぎたかとも思ったが向こうからしたら特に問題などないだろう。

今日こそは落ち着いてお昼を過ごすため足早に空き教室へ向かい静かな空間でサンドイッチを食べた。どこかから聞こえてくる生徒たちの声をBGMにゆっくりと過ごした。学園内でのこんな落ち着いた時間はいつ振りだろうか、そんなことを考えながら外を眺める。

「よぉ。ユナイデル」

突然の声に驚き振り向けばすぐ近くに3年、騎士団長の息子が立っていた。

「⋯⋯なんですか」
「この間はどうもな」
「何の話ですか」
「イェルニーナ吹っ飛ばしただろ」
「事故です」

ニヤニヤと笑い見下ろす団長息子。かなり優秀で既に第一騎士団入団が決定しているとかなんとか。血筋もあるだろうが素晴らしい剣技の使い手らしく女生徒たちが噂しているのを何度か耳にした。
何を考えているのかよく分からない男の全て見透かしているかのようなこの目が苦手だった。

「そういえばお前魔力補給ができるようになったんだな」
「はい」
「どうやって?」
「なぜ言わないと?」
「はっ生意気だなぁ」

気に触る話し方をするものだ。先輩でなければ無視をしたいところだったがしょうがなく返答をする。

「そういえば、この間1年坊主がお前を追っかけてっただろ」
「⋯⋯」
「その後見にきたら教室の床で寝てやがったんだよあいつ」
「はぁ⋯⋯」
「何した?」
「私は何も」
「しらばっくれんなよ?お前からイヤーな匂いがぷんぷんすんだよ」
「何のことでしょうか」
「お前、何もん?」
「⋯⋯ユナイデル家長女ですが」

一歩近付く団長の息子。同時に一歩下がる私。ギラリと光る眼光は肉食獣のようで寒気がする。

「この匂い、なんの匂い?」
「は?」
「甘い匂いだよ。2年になってから突然お前から匂い始めた」
「さぁ」
「色気付いて香水でもつけてんのかと思ったが違う。思考を鈍らせる匂いがする」

やはり、優秀。薄々気がついているのだろう。

「⋯⋯先輩はかなり優秀と聞きました」
「はぁ?」
「優秀な人材には、どれ程の効力があるのでしょうか」
「何言ってんだ?お前」

目を見て小さく唱える。いつものようにフェロモンを放出させる。しかし違和感を感じただけのようだ。もう少しだけ量を増やしてみる。するとどうだ。徐々に顔が赤くなっていく。

「効くは効くんですね」
「⋯⋯何した」
「さぁ」

私の顔の横に手をつき逃げ場をなくされる。窓と団長の息子に挟まれる。近付いたため匂いが濃くなる。先輩の香りは誰よりも甘い、バニラのような香りがする。

あの女に茹で上げているこの男。優秀で将来が約束されている女生徒たちの憧れ。そんな男を誘惑したら最悪正体がバレる可能性がある。しかし好奇心には勝てず欲情を誘ってしまった。もう後には戻れない。更にフェロモンの量を増やし興奮させていく。

「っ!?」
「ふふ、やっぱりあなたも男よね」

違和感を感じたところでもう遅い。すでに制服のズボンは膨らみ始めている。
天才少年に施したように水縄を出現させ後ろ手に拘束する。そのまま机に乗り上げたように座らせればもうこっちのものだ。フェロモンが強いと筋弛緩の作用も出てくるのかほとんど抵抗なくここまでできた。

「お前、まさか、」
「ふふ。そう。知ってるかしらね?あなたは」
「魔⋯⋯?」
「さすが。優秀な人は違うわね」

異生物でも見たかのように驚く団長息子。さすが優秀なだけあり色々調べて知っているのだろうか。
硬い太ももに手を滑らせる。さすがは騎士。筋肉がしっかりとついており所々に筋がある。そこを爪で掻いてみれば少しだけ体を捩らせた。頬を染めされるがままになっている男に女性優位な小説を思い出した。

「嫌いな女にこんなことされて、屈辱でしょう」
「⋯⋯」
「睨んでもしょうがないわよ」

静かに睨みつける男。さして抵抗もしないことからやはり筋弛緩でもしているのだろう。制服のボタンをゆっくり外せば美しい筋肉のついた上肢が現れる。厚い胸板と綺麗に割れた腹筋。男はじっとこちらを見るだけ。反応が薄いことに少し不服に感じる。
そっと手を伸ばし筋肉の溝をなぞる。首席よりも綺麗に割れた筋肉たちは溝が深くなぞりやすい。

「さすが、騎士」
「⋯⋯」
「反応しなさいよね」

黙ったままの団長息子に痺れを切らしそっと首元へ唇を落とす。わざと音を立てて吸い付けばぴくぴくと身体が動き反応を示す。鎖骨あたりに強く吸い付けば赤い痕が残る。私のもののように感じるその痕にくすぐったい気持ちになりさらに数を増やしていく。

「⋯⋯っ」
「これ、いいわね」
「なるほどな。淫魔か。契約でもしたのか魔と。これは大事件だな」

ふっと笑みをこぼす先輩。さっきから減らず口をたたく煩わしさから思わず口付けを落とす。目を見開き驚くその表情に喜びが込み上げた。

「お、まえ」
「いいわね。その顔」

頬を両手で包み込み顔中に口付けをする。瞼に頬に鼻に。これはあの小説の女がやっていたことだ。女慣れしているはずのこの男の顔が真っ赤に染まる。目を合わせそのまま口へキスをした。ぺろり、唇を舐めればそこが緩んだ。その隙にするりと舌を滑り込ませた。
ぴちゃぴちゃ。水音が静かな教室に響いている。いつのまにか男も舌を合わせ始め段々と音が大きくなる。私は男の上へと乗り上げており男は少し上を向き私と口付けを交わしている。まるで雛鳥が親鳥に餌を求めるかのように私との口付けを求める男の姿に優越感に浸った。

口を離せば男の鋭い目と合う。このままいつも通り口淫をしてしまおう、そう考え男の上から降りた。ズボンへと手を伸ばしたところでびしゃびしゃっ、と水の弾ける音がした。

「やってくれたな。エメルネス・ユナイデル」
「きゃっ」

腕を強く掴まれ壁へと縛り付けられる。目の前には団長息子。両腕を拘束され壁へと押し付けられ足の間には男の太い足が入っており閉じることができない。身動きが取れず男を見上げればその目はさっきのように肉食獣のような今にも食い尽くされそうなそんな目をしていた。

「な、ぜ動けるっ」
「優秀なんだよ。俺は。少し時間さえあれば身体の弛緩くらいどうとでもできる」
「っつ⋯⋯」
「さぁ、反撃だ」

そのままかぶり付くように唇が奪われた。
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