悪女で悪魔

黒澤尚輝

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休日。街にある本屋へとやってきた。帽子を深く被り霞眼色かがんしょく眼鏡という目の色が分かりにくくなる魔道具をかけ誰にもバレないようにこっそりと来た。──プライベートでの変装魔道具の使用は自由だが学校では校則で禁止されている──

本屋の片隅、大人な小説の多くある官能小説コーナー。そこには様々な内容の小説が置いてあった。例えば騎士と平民のラブロマンスや研究所職員との監禁ヤンデレ小説など色々ありすぎて戸惑った。
とりあえずラブロマンス系とヤンデレ系、女性優位のものを購入してみた。店員さんに変な目で見られそうで不安だったが特に気にした様子もなく安心した。

本屋を出た私はそのまま老舗の喫茶店へ向かった。人が少なく静かな雰囲気のこのお店が気に入っている。近くに写真映えのするカフェができたことで客入りが減っておりさらに過ごしやすい空間となっている。

窓際へ座り今日買った本を開く。まず読み始めたのはラブロマンス。幼馴染だった男の子が騎士になり疎遠になり始める。距離が離れすれ違いが起き、なんやかんやあって結ばれ関係を持つ。行為中には愛の言葉を囁き優しく前戯を行う。そして女の子が傷つかないようゆっくりと繋がる。
胸が締め付けられるような感覚に陥り思わず読み耽る。2人の愛の物語に幸せな気分になった。

ふと顔を上げれば外は夕陽が輝く時間となっていた。すっかり冷めてしまったコーヒーに申し訳ない気持ちになり飲み干す。おかわりを頼もうと店員さんを呼ぼうと窓側にあるベルに手をかけた。
窓の外に目を向けると夕陽を受け輝く桃色が見えた。ピンク色の髪の毛を高い位置で二つに結び楽しそうに笑う少女とその少女を囲む6人の男。
いつもの3年2人組、2年2人組、1年の天才。そしてなぜかヴァイス先生もいる。なんとも言えないもやっとした気持ちが胸に広がる。私に対しては当たりの強い男たち、私の不正を疑い自分のキャリアを考える男があの少女には優しく笑いかける。この違いはなんなのだろう。

手元にある小説に目を向けた。この2人はお互いを愛し合い幸せに暮らしている、そういう話だった。私のようにフェロモンを放出し無理矢理発情させ一方的な行為しかできない私とは天と地の差がある。

そのまま外を見ていれば少女が躓く。それを助ける男たち。なんて仲睦まじい光景だろうか。あそこには暖かな空気が流れており私とはかけ離れた場所にいる。私では味わえない空気だ。

おかわりを頼むことなく店を後にした。夕陽に照らされる街は美しくキラキラと輝いていた。オレンジ色はやけに切なくなんだか少し涙が出そうだった。

────────

自宅に帰りヤンデレ系の小説を開いた。これは女性経験のなかった研究所の職員の男がとある女性に恋に落ち、その女性からもてあそばれる。その後女性への愛情が愛憎へと変わり監禁をしてしまう。そのまま執拗な行為へと及ぶ、そんな話。
ここまで1人の女性を愛することができる事実に胸が熱くなった。監禁という非人道的な行為を行なっているのに愛を感じる素晴らしい文才に感嘆する。

行為の部分はかなり激しく、道具を用いたり縛ったり、目隠しなど。かなりアブノーマルな表現も多く未知の世界を開拓するかのようで読んでいて面白かった。官能小説は表現が綺麗で読みやすく絵がない分想像力を掻き立てられかなりドキドキする。

かなり夜も遅かったがそのまま最後の一冊へと手を伸ばした。女性優位のその本はまさに私が今まで行ってきた行為と同じような内容のもので男性を翻弄する女性の話だった。
手淫、口淫だけでなく男性を縛り女性自身の秘所に触れながら誘惑するなどかなり刺激の強い内容だった。
所謂自慰行為、私が以前行った表面を触れる行為以外にも強い快楽を感じる部分を摘んだり、秘口に指を出し入れするなど多種多様な動作があると知った。
小説の中の女性は大きな声をあげ絶頂を迎えていた。そんな姿を見た男はそれに興奮しそのまま性行為へと発展していく。2人は乱れ様々な場所で行為に及んでいた。

文字だけでも快感が伝わるようで少し足の間がムズムズとしてきてほんのり濡れ始める。段々淫乱になる自分の体に嫌悪と諦めが募る。
最後の本を読み終わる頃には外は明るみ、日が登り始めていた。三冊で学んだことは多くほんの少しだけ自慰行為にも興味を持ってしまった。
しかしやはり恐怖感はある。本を片付けベッドに潜り込む。三冊とも女性は最終的に男性と結ばれる終わりを迎えていた。幸せそうな行為を行う本の中の登場人物たち。
聖女の末裔はあの男たちとあのような行為を、愛おしいもの同士が行う幸せな行為をするのだろうか。私を蔑む目ではなく愛を宿した瞳で見つめられ、優しく介抱されるのだろうか。
そんなことを考えても無駄だと分かっているのにどうしても想像してしまう。

私を嫌う5人の生徒と私を疑う1人の教師が私を求める姿を想像してしまった。聖女の末裔への当てつけなのか。あの男たちを陥落させたらあの女は私を嫌い近付かないのだろうか。
極上の魔力を求めているのだと自分に言い聞かせ眠りについた。明日も休日だ。たまには昼近くまで眠るのもいいだろう。

その日の夢は誰かと幸せそうに手を繋ぎ笑い合う聖女の末裔を私は監獄から見ている、そんな物騒な夢だった。

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