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聖女 アルミナ
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しおりを挟む「それは良かったですねえ」
シュナイダー卿は、聖女の私がひとりで出かけることを良く思っていない。危険だから、というのが理由だ。けれど私は膨大な神聖力を持っていて、正直護衛なんていらないくらいに自分の身は自分で守ってこれた。たとえ暴漢に絡まれたって、神聖力で強化した拳を喰らわせられた。
ただ、曲り角で人とぶつかって魂が入れ替わるのは想定外すぎた。この事実を知られたらものすごく怒られそうだから、何とか誤魔化さなきゃいけない。
「そちらの方は?」
「道でぶつかったけれど、話してみたら意気投合したのです。これからもっとお話するつもりなので、邪魔しないでください」
私がそっと体をつついて思い出させると、ベリンダが答えてくれた。
「フン、あなたと意気投合する方がいるなんて珍しいこともあるものですね。そうですか。フン、どうぞごゆっくりお過ごしください」
不服そうに鼻を鳴らしながらも、シュナイダー卿は特に反対しなかった。つくづくベリンダが女性で良かったと思う。これが男性なら、絶対に二人きりにはしてくれなかった。聖女は淫らな行為はしてはいけないらしいから。
だけど――シュナイダー卿の視線が、すれ違いざまにベリンダの体に入っている私の胸元に向くのには不愉快になった。今までずっと旅をしてきたけれど、本来の私の慎ましい胸に一切注意を払わなかったくせに。
「さて」
部屋に入ると、私はまず鏡台を覗き込んだ。ベリンダも興味津々に横に並ぶ。そしてお互いに吹き出して笑った。
「全っ然、タイプが違いますね」
ベリンダはの身体は、ものすごく妖艶な美女だ。情熱的な赤毛、透き通るような白い肌、猫のようにぱっちりとした緑色の瞳。そして豊かな胸と、長くしなやかな手足まで揃っている。
「やばい、アルミナ様かわいい!かわいすぎ」
対して、私『アルミナ』の容貌は良く言えばかわいいのかもしれない。信者の方からも清純だとよく言われてきた。20歳になってもひどい童顔で、直毛の金髪、ドングリみたいに丸く大きな青い目がその印象に拍車をかけている。背は低めで、胸も全く膨らんでいない。なのに、ベリンダは嬉しそうだった。
「あたし、こんなふうに生まれたかったなあ」
「私こそ、こんな色気が欲しかったです」
「アルミナ様って何歳?」
「20歳です」
「やばい!あたしも20だよ!」
20歳でこの色気は、彼女が言うようにやばいのかもしれない。鏡の中の光景をもう一度眺め、人間って公平じゃないんだなと思い知る。ベリンダの体なら、憂いを含む表情だってセクシーになった。
「ねえ!あたしなんかに敬語じゃなくていいよ」
「そう?癖になってて……ベリンダも、私をアルミナ様なんて呼ばないで」
「ん!わかった」
無邪気に笑うベリンダは、私の顔だけれどちょっとかわいかった。彼女は多分、ものすごくいい人なのだろう。会ったばかりだというのに、体を交換しているせいか、古くからの友人のような親近感がある。
「戻る方法に心当たりがあるから、調べてみるわ」
「へえ、流石だね。やっぱさ、聖女様だからこんな不思議なことになったのかな?びっくりだよね」
「わかんないけど……このメモをドアの向こうの人に渡してくれる?ついでにお茶とお茶菓子も持ってくるようにって」
私は羊皮紙の切れ端に本の題名をいくつか書き記した。賢者アウグスの伝記と占星術の本は貴重だけど、教会なら写本があるはずだ。聖女に相応しい知識と品格を身に着けなさいと幼い頃からあれこれ詰め込まれたので、それなりに覚えがあった。
やがて部屋に運び込まれたのは大きくて重い大量の本と、トレイに乗せられたお茶のセットだ。
ベリンダは修道女が作ったあまりおいしくないそば粉のビスコッティを珍しそうに齧り、ハーブティーを飲んだ。栄養の代わりに味を犠牲にする修道女の感覚に私はうんざりするけれと、ベリンダは面白がっているようだった。
私は伝記の中から、今回の事態に似た記述を探そうと目を皿のようにしてページをめくる。たしか、アウグスは急に性格が変わってしまった二人の女性と出会い、癒しの手を差し伸べたはず――
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