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聖女 アルミナ
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秋の空は天高く、どこまでも突き抜けるような青空だ。いつまで待っても、嘘をついてベリンダを騙した私の罪を裁く雷は落ちてこなかった。
「ああ、自由なんだ……」
物心ついて以来、初めて訪れた長い長い自由時間だ。身震いすら覚える。
私の最も古い記憶は、白い服を着た神官に神聖力の適応がある、と頭を撫でられたものだ。孤児だった私は手を引かれて神殿に連れられた。そのまま聖女候補として、神殿の奥で厳しい詰め込み教育が始まったのだ。
がんばれば一応褒めてもらえたけれど、教育係の人の期待に応えなければ、外に追い出してやると脅され、行き場なんてない私は努力し続けた。
ある程度の年齢になればそんな脅しはでたらめだと理解したものの、逆らう気力はもう育たなかった。
そしてある日、女神様の声を聞いた。庭の掃除をしているときだった。なぜ私だったのかはわからないが、絶大な神聖力が授けられた。
私は喜び勇んで神官に報告し、聖女に認定された。そうしてある程度体が成長した15歳になると、名誉ある国中を巡る旅を命じられた。
だけど、ここらでひと休みしても、罰は当たらないみたいだ。
私は軽い足取りで、ベリンダの住居へと向かう。一度、彼女と一緒に着替えなどを取りに行ったので、道は覚えていたし、好きに使っていいと鍵も預かっていた。
「姉ちゃん、きれいだね。俺と遊ばない?」
知らない男が不意に近付いてニヤニヤといやらしい視線を送ってきた。確かにベリンダが言っていた通り歩いているだけで男がわらわらと寄ってくるが、
「ごめんなさい、急いでいるのでどいて下さい」
彼の胸元に、軽く触れ、大量の神聖力を送って祝福を与えた。
「あ……あ……?」
男は強すぎる多幸感にぼうっとし、空を見上げる。空がきれいだなあと見蕩れているのだろう。
子どもっぽい私の身体で歩いているときから、しつこい勧誘や物の押し売りによく出会っていたので対処法はわかっているのだ。
「ふんふん……」
鼻歌交じりに屋台の飲食物を買い漁り、路地裏にあるベリンダの家の鍵を開ける。古くて狭い家とベリンダは嘆いていたけれど、若いのに自分の家を持ってるだけで偉いと思う。
「まずは罪深く暴飲暴食しちゃおう」
私は肉の串焼きやケーキ、焼き栗などをテーブルに並べ、口いっぱいに詰めて食べた。ワインも買ってきたのでたくさん飲んでみる。これまでは酒に酔うのは堕落として一杯までしか許されなかったから、すごく刺激的だ。頭がぼうっとした。
それから浴室を覗いた私は、贅沢にも昼風呂をすることにした。踊り子という職業柄なのか、浴室の設備は整っていて、高価な温水の出る魔導具まである。
ベリンダから習ったダンスの練習をしながらお湯が溜まるのを待った。だけど私のダンスはひどいものだ。生まれたての仔馬のような足取りになるだけで、セクシーにはほど遠い。
踊り子として舞台に立ってみたかったけれど、ベリンダは頭を抱えるばかりだった。朗らかな彼女だけれと、踊り子を舐めるなと言いたいところを我慢していたのかもしれない。
結局、一緒に彼女が勤めていた酒場に赴き、しばらく休むと伝えてこの件は終わった。
汗をかいた頃に湯量が十分になったので、服を脱ぎ捨て、ざぶんと浴槽に浸かる。
「ふう……」
これまで知らなかったけれど、胸が大きいと湯に浮くものらしい。そして普段は重くてとても肩が凝る。重力からの解放感に目を閉じ、ベリンダの今頃を想像した。
私の体だから胸は重くないとしても――秋の冷たい風と土ぼこりの中、街道をひたすら歩いているだろう。
馬車は健康に悪いとか勤勉の心に欠けているからと、基本的に徒歩なのだ。足が痛くなったら神聖力で癒せば問題ない、というバカみたいな強制苦行の旅だ。
あまりにも天国と地獄すぎて、私はベリンダが引き返してきやしないと不安になった。聖女のルートとしては、とりあえず3か月ほどでまたここに戻ってくるはずだ。
そのときに、もしベリンダがもう嫌だと言ったら、怒られるのを覚悟でシュナイダー卿に告白しよう。そうして私がこの体のまま聖女をやればいい。
「ふう、気持ちよかったあ」
だから、これはつかの間の贅沢なのだ。すっきりして浴槽から上がり、体にタオルを巻き付けてリビングに戻る。
熱いので買ってきたレモンを切ってグラスに絞り、水を飲もうとしたそのときだった。鍵をかけたはずの玄関のドアから、ガチャリと音がした。まさかベリンダ、かと思ったが姿を見せたのは男性だった。
「あっ……!」
浮かれすぎて、失念していた。ベリンダは同居人がいる、とちゃんと言っていたのに。
「ああ、自由なんだ……」
物心ついて以来、初めて訪れた長い長い自由時間だ。身震いすら覚える。
私の最も古い記憶は、白い服を着た神官に神聖力の適応がある、と頭を撫でられたものだ。孤児だった私は手を引かれて神殿に連れられた。そのまま聖女候補として、神殿の奥で厳しい詰め込み教育が始まったのだ。
がんばれば一応褒めてもらえたけれど、教育係の人の期待に応えなければ、外に追い出してやると脅され、行き場なんてない私は努力し続けた。
ある程度の年齢になればそんな脅しはでたらめだと理解したものの、逆らう気力はもう育たなかった。
そしてある日、女神様の声を聞いた。庭の掃除をしているときだった。なぜ私だったのかはわからないが、絶大な神聖力が授けられた。
私は喜び勇んで神官に報告し、聖女に認定された。そうしてある程度体が成長した15歳になると、名誉ある国中を巡る旅を命じられた。
だけど、ここらでひと休みしても、罰は当たらないみたいだ。
私は軽い足取りで、ベリンダの住居へと向かう。一度、彼女と一緒に着替えなどを取りに行ったので、道は覚えていたし、好きに使っていいと鍵も預かっていた。
「姉ちゃん、きれいだね。俺と遊ばない?」
知らない男が不意に近付いてニヤニヤといやらしい視線を送ってきた。確かにベリンダが言っていた通り歩いているだけで男がわらわらと寄ってくるが、
「ごめんなさい、急いでいるのでどいて下さい」
彼の胸元に、軽く触れ、大量の神聖力を送って祝福を与えた。
「あ……あ……?」
男は強すぎる多幸感にぼうっとし、空を見上げる。空がきれいだなあと見蕩れているのだろう。
子どもっぽい私の身体で歩いているときから、しつこい勧誘や物の押し売りによく出会っていたので対処法はわかっているのだ。
「ふんふん……」
鼻歌交じりに屋台の飲食物を買い漁り、路地裏にあるベリンダの家の鍵を開ける。古くて狭い家とベリンダは嘆いていたけれど、若いのに自分の家を持ってるだけで偉いと思う。
「まずは罪深く暴飲暴食しちゃおう」
私は肉の串焼きやケーキ、焼き栗などをテーブルに並べ、口いっぱいに詰めて食べた。ワインも買ってきたのでたくさん飲んでみる。これまでは酒に酔うのは堕落として一杯までしか許されなかったから、すごく刺激的だ。頭がぼうっとした。
それから浴室を覗いた私は、贅沢にも昼風呂をすることにした。踊り子という職業柄なのか、浴室の設備は整っていて、高価な温水の出る魔導具まである。
ベリンダから習ったダンスの練習をしながらお湯が溜まるのを待った。だけど私のダンスはひどいものだ。生まれたての仔馬のような足取りになるだけで、セクシーにはほど遠い。
踊り子として舞台に立ってみたかったけれど、ベリンダは頭を抱えるばかりだった。朗らかな彼女だけれと、踊り子を舐めるなと言いたいところを我慢していたのかもしれない。
結局、一緒に彼女が勤めていた酒場に赴き、しばらく休むと伝えてこの件は終わった。
汗をかいた頃に湯量が十分になったので、服を脱ぎ捨て、ざぶんと浴槽に浸かる。
「ふう……」
これまで知らなかったけれど、胸が大きいと湯に浮くものらしい。そして普段は重くてとても肩が凝る。重力からの解放感に目を閉じ、ベリンダの今頃を想像した。
私の体だから胸は重くないとしても――秋の冷たい風と土ぼこりの中、街道をひたすら歩いているだろう。
馬車は健康に悪いとか勤勉の心に欠けているからと、基本的に徒歩なのだ。足が痛くなったら神聖力で癒せば問題ない、というバカみたいな強制苦行の旅だ。
あまりにも天国と地獄すぎて、私はベリンダが引き返してきやしないと不安になった。聖女のルートとしては、とりあえず3か月ほどでまたここに戻ってくるはずだ。
そのときに、もしベリンダがもう嫌だと言ったら、怒られるのを覚悟でシュナイダー卿に告白しよう。そうして私がこの体のまま聖女をやればいい。
「ふう、気持ちよかったあ」
だから、これはつかの間の贅沢なのだ。すっきりして浴槽から上がり、体にタオルを巻き付けてリビングに戻る。
熱いので買ってきたレモンを切ってグラスに絞り、水を飲もうとしたそのときだった。鍵をかけたはずの玄関のドアから、ガチャリと音がした。まさかベリンダ、かと思ったが姿を見せたのは男性だった。
「あっ……!」
浮かれすぎて、失念していた。ベリンダは同居人がいる、とちゃんと言っていたのに。
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