聖女ですが何も知らない狼獣人をだましています

植野あい

文字の大きさ
6 / 72
聖女 アルミナ

6

しおりを挟む
「あっ」

 声を上げたのはファルクだった。私はタオルを拾い上げるのに夢中で、慌てていて、声すら出ない。正直他人の体なのでそこまで恥ずかしくはないが、勝手に異性に見せるのはいけないことだ。
 必死でタオルを直しつつ、ファルクの顔をちらりと窺う。彼の顔は真っ赤に染まっていた。ベリンダの豊かな胸や、締まったウエスト、桃のようなお尻に対して正常な反応だろう。

「……服を着てくるから少し待ってて」
「ああ」

 私は木箱を取ってから寝室に行き、クローゼットを漁って服を着る。ついでにちょちょいと木箱の中身を確認し、包帯に神聖力を込めた。これを巻けばすぐ治る、という寸法だ。

「お待たせ、じゃあもう一度患部を見せてね」 

 戻って声をかけると、ファルクは黙って服をたくし上げた。腹筋は見事に割れていて、腰は引き締まっている。痛々しい怪我さえなければ美しい体だろう。私は包帯を巻こうとして――別のものにも気がついてしまった。

 ズボン越しでも明らかに、ファルクの股間が盛り上がっていた。それが怪我や病気のせいではないと私でも知っている。男性が性的に興奮したときの症状だ。知識としては知っているけど、初めて見かけた。

「……ベル姉」
「なに?」
「ごめん」
「謝らなくてもいいわ」

 私の視線に気づき、ファルクが謝った。私がうっかりタオルを落としてしまったせいなのに、ファルクは罪を感じているようだ。眉を悲しそうに下げ、怒られた子どものようにしゅんと俯く。
 それでも股間は上向きで元気そうなのだから、男性も大変なのだろう。しかもファルクは18歳と若い。若い男性の場合、本人の意志とは裏腹なときもあると耳年増の私は知っているのだ。

「なんか、本当どうしちゃったんだよ、ベル姉」
「え?」

 つい笑みをこぼす私を、ファルクは訝しんだ。

「別人みたいになった」
「……大人の女には色々あるのよ」
「俺を置いてどこかに行ったりしないよな?」

 ズキンと胸が痛んだ。ごめんなさい、ベリンダならもう既にどこかに行ってる、なんて言えなかった。

 ファルクの悲哀に潤んだ金色の瞳は、どこまでも汚れがなかった。私の胸の奥が狭くなり、息がしづらくなってしまう。

「最後だから優しくするとかやめてくれよ。俺はベル姉さえいればいいんだ。ずっと一緒にいたいんだよ」
「何て言ったらいいかわからないけど、手当ては終わり。じゃあ私は寝るから」

 男女の難しい話題なんて、私には荷が重過ぎる。包帯を巻き終え、寝室に逃げようとした。背中を向けたところでファルクの腕が伸び、後ろから抱きしめられる。

「ベル姉、行かないで。俺を捨てないで」

 いや、後ろに何か当たってるんですけど?!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...