聖女ですが何も知らない狼獣人をだましています

植野あい

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聖女 アルミナ

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 艶事とは縁遠く生きてきたので、入浴後の汗とはまた違う汗が噴き出した。胸がドキドキして、落ち着かなかった。

 ベリンダとファルクは、こういうことをする関係だったのだろうか。――でも5ヶ月ほど口もきいていなかったというし、たぶん違う。

「それ……やめて」

 私はとりあえずそう言った。正確には、お尻に硬いものを当てるのはやめて、と言いたかった。ファルクは私を後ろから抱いたまま、グスッと鼻を鳴らした。

「ごめん、本当にごめん……ベル姉がこういうの嫌だってわかってる。俺は最低だ」
「さ、最低とまでは思わないけど」

 強引にことを進めようとしてる訳ではなさそうなので、私は慰める口調になる。彼の声が震えていて、捨てられることを恐れて泣いていた私の子ども時代が思い出された。

「ただ落ち着いたほうがいいわね……」

 泣きそうであっても、ファルクの下半身はゴリゴリに硬く熱い。お尻にぴったりと押しつけられると、なぜか胸騒ぎがした。

「ごめん、すぐには落ち着かないんだ。これが嫌なら切ってもいいから俺を嫌いにならないで」
「待って、何言ってるの?」

 ファルクの口調は冗談でもなさそうなので、私は驚いた。ベリンダとファルクの関係は、相当に拗れているのかもしれない。

「俺、何でもするよ……ベル姉が欲しいものだって何でも買う。服でも宝石でも、風呂だって、ベッドだって」
「ああ、あれって……」
「あれ?欲しいものがあるなら教えて、買うから」
「何もない!」

 私は唐突に理解した。お風呂周りが豪華なのも、クローゼットの中にたくさんの服があったのも、ファルクが貢いだ結果のようだ。
 そうなるとこんなにも愛されているのに、ファルクをどうでもいい同居人のように、ごくあっさりとした説明だけで旅立ったベリンダがわからなくなってしまう。聖女の務めこそが人々のためになる、尊いものだと語る彼女は、いかにも心の清い人だったのに。

「教えて、俺はどうしたらいい?」
「どうって……」

 困り果てた私は、後ろから私をきつく抱きしめている彼の太い腕を軽く撫でた。ピクリと反応がある。

 ファルクは寒さに強いのか、秋だというのに半袖のシャツを着ているため、褐色の肌が露出していた。この肌色をした狼の獣人は、隣国ヴァントデンに多いと聞く。この街はヴァントデンとの国境沿いにあるし、何らかの事情でやって来たのだろう。

 その辺はともかく、問題なのは彼が狼の獣人ということだ。彼らは種の特徴として、生涯ただひとりのつがいを持つという。もしもベリンダを番候補にしているとしたら、すごく大変だ。噂ではひどく執着して、匂いを頼りに逃げても逃げても追ってくるらしい。

 もしかすると、ベリンダが現状を憂いて旅に出たかった理由がそこにあるかもしれなかった。雨に打たれて震えていたファルクを拾って家に招き入れ、それなりにかわいがったのだろう。しかもベリンダは色気に満ちた美人なのだから、ファルクが惚れるのも無理はなかった。

「ファルク。よく聞いて」
「……何?」

 私は優しく彼の腕をほどき、くるりと振り返った。

「実は私ね、頭をぶつけて記憶がすっぽり抜けてるの」

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