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聖女 アルミナ
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店内には所狭しと薬や原料が置かれていて、初見で欲しいものを見つけるのは難しそうだ。私はカウンターの向こうにいる店主に軽く挨拶をして、用件を告げた。
「シナモン、カルダモン、スターアニス、ジンジャー、ブラックペッパーをこれで買えるだけ下さい」
金貨を2枚取り出してカウンターに置く。店主の若い男性の視線が、私の顔、金貨、カウンターにぶつかりそうに豊かな胸へと忙しく動いた。金貨があるのに、それよりも胸に注目されるのは確かにいい気持ちではない。
「はい、ご用意しますね。少々お待ちください」
それでも店主は愛想笑いをして、カウンターから出ると材料を用意し始めた。どれも決して安くはない値段だけれど、そこまで珍しくない品だ。金貨2枚なら相当な量になるだろう。
ファルクは店内を眺め、ときどき売り物を手に取っては匂いを嗅ぎ、顔をしかめていた。私も暇つぶしに店内を物色していると、棚の並びに避妊ポーション、の文字を見つける。需要があるのか、小瓶に入って大量に陳列されていた。
私はこのポーションについて、噂だけは聞いたことがあるが実物を見たのは初めてだった。ベリンダの発言が思い出される。
『アルミナって聖女様だから性交しちゃいけないんでしょ?私の体は経験あるから、もし誰かとしてみたかったらしてもいいよ。でも避妊ポーションは絶対に使ってね』
なんて、笑っていた。その笑顔が奔放なベリンダらしい底抜けの明るさだったから、私は一種の冗談として受け取った。避妊ポーションの効き目は確からしいけれど、やっぱり他人の体で性行為なんてしてはいけないと思う。
まあ、未知の体験に興味はあるけれど。今しなかったら、私は聖女の務めのせいで30歳か40歳、あるいは一生そんな経験できないことになるけれど――
「何を見てるんだ?」
「ひゃあっ!!」
ファルクが肩の後ろから覗き込んできて、悲鳴が出てしまった。
「あっ」
ファルクの大きな耳の内側がサアっと赤くなった。私が何を見ていたか理解したのだろう。彼は肌が褐色なので顔には出づらいが、狼の耳は表現力豊かだった。
「ごめん、薬の材料にベル姉が大金を使ってるから、ほかに欲しいものがあれば俺が買おうかと……」
「だ、大丈夫。お金はあるの」
「そっか……買うのか?」
「買うわけないじゃない!必要ないわ」
私はくるりと踵を返して、別の棚にあった保湿ローションらしきものを手に取った。
「これを買おうと思っただけよ」
「えっ、それを?」
「そう」
彼が怪訝そうなので、私はローションがあった場所にある説明書きをよく読んだ。そこには『ふたりの愛を深める潤滑剤』とある。婉曲的な表現だが、私の読解力が確かなら性行為に使うものだ。後に引けなくなったので、私は堂々と店主に渡してみる。
「すみません、これも下さい」
「はいはい。お姉さん、たくさん買ってくれたからそれはおまけとして付けますよ!また来てくださいね!」
慣れているのだろう。店主はにこやかに受け取り、一緒に袋に詰めてくれた。品物はそれを加えても片手で抱えられるほど軽かったが、ファルクは持つと言って聞かなかった。
「荷物くらい持たせてくれよ」
「そう?ありがとう」
「ほかに行きたいところは?」
「うーん……これは後から買えばよかったかもしれないけど、ゆっくり街を歩いてみたいの」
「じゃあそうしよう」
私の計画性のなさにも、ファルクは全く怒らなかった。むしろただ連れ立って歩けるだけで嬉しいとばかりに尻尾が揺れていた。私とファルクは特に目的もなく街中を歩き回り、疲れたら店構えの良い、おいしそうなレストランに入って昼食を摂った。
それからまた、街を踏破する勢いで歩き続けた。5年間も聖女の旅を続けていたから、歩くことが癖になっているのかもしれない。怪しまれないうちにそろそろ帰ろうかと提言する。
「そうだな」
ファルクはホッとしたように息を吐いた。やっぱり疲れていたようだ。足の疲れを治癒してあげたいけれど、そうしたら聖女とバレてしまう。
「夕食は、何か買って帰ればいいわよね?」
どこかに入って食べるにはまだ早い時間だ。食べ物を買って、家で落ち着いてから夕食にしたほうが良さそうだった。こういうとき、家があるっていいなと思う。
「そうだな、簡単にパンと燻製でも買って帰ろう」
ファルクの案内で市場に戻り、食料品を買い込んで家路につく。なお、市場の売り子からは「新婚さんかい?」などと揶揄われた。
「ふう、少し疲れたわね」
家に戻ると、疲れたふりをしてドサッと椅子に腰を下ろした。入ってすぐのところにある、小さなダイニングテーブルの席だ。本当は歩きながら、さりげなく足や全身を治癒しているので全く疲れていない。今までであれば、旅に同行する3人も治癒していたので力があり余っているくらいだ。
「買った荷物は俺が片付けておくから、ベル姉はゆっくりしてて」
「シナモン、カルダモン、スターアニス、ジンジャー、ブラックペッパーをこれで買えるだけ下さい」
金貨を2枚取り出してカウンターに置く。店主の若い男性の視線が、私の顔、金貨、カウンターにぶつかりそうに豊かな胸へと忙しく動いた。金貨があるのに、それよりも胸に注目されるのは確かにいい気持ちではない。
「はい、ご用意しますね。少々お待ちください」
それでも店主は愛想笑いをして、カウンターから出ると材料を用意し始めた。どれも決して安くはない値段だけれど、そこまで珍しくない品だ。金貨2枚なら相当な量になるだろう。
ファルクは店内を眺め、ときどき売り物を手に取っては匂いを嗅ぎ、顔をしかめていた。私も暇つぶしに店内を物色していると、棚の並びに避妊ポーション、の文字を見つける。需要があるのか、小瓶に入って大量に陳列されていた。
私はこのポーションについて、噂だけは聞いたことがあるが実物を見たのは初めてだった。ベリンダの発言が思い出される。
『アルミナって聖女様だから性交しちゃいけないんでしょ?私の体は経験あるから、もし誰かとしてみたかったらしてもいいよ。でも避妊ポーションは絶対に使ってね』
なんて、笑っていた。その笑顔が奔放なベリンダらしい底抜けの明るさだったから、私は一種の冗談として受け取った。避妊ポーションの効き目は確からしいけれど、やっぱり他人の体で性行為なんてしてはいけないと思う。
まあ、未知の体験に興味はあるけれど。今しなかったら、私は聖女の務めのせいで30歳か40歳、あるいは一生そんな経験できないことになるけれど――
「何を見てるんだ?」
「ひゃあっ!!」
ファルクが肩の後ろから覗き込んできて、悲鳴が出てしまった。
「あっ」
ファルクの大きな耳の内側がサアっと赤くなった。私が何を見ていたか理解したのだろう。彼は肌が褐色なので顔には出づらいが、狼の耳は表現力豊かだった。
「ごめん、薬の材料にベル姉が大金を使ってるから、ほかに欲しいものがあれば俺が買おうかと……」
「だ、大丈夫。お金はあるの」
「そっか……買うのか?」
「買うわけないじゃない!必要ないわ」
私はくるりと踵を返して、別の棚にあった保湿ローションらしきものを手に取った。
「これを買おうと思っただけよ」
「えっ、それを?」
「そう」
彼が怪訝そうなので、私はローションがあった場所にある説明書きをよく読んだ。そこには『ふたりの愛を深める潤滑剤』とある。婉曲的な表現だが、私の読解力が確かなら性行為に使うものだ。後に引けなくなったので、私は堂々と店主に渡してみる。
「すみません、これも下さい」
「はいはい。お姉さん、たくさん買ってくれたからそれはおまけとして付けますよ!また来てくださいね!」
慣れているのだろう。店主はにこやかに受け取り、一緒に袋に詰めてくれた。品物はそれを加えても片手で抱えられるほど軽かったが、ファルクは持つと言って聞かなかった。
「荷物くらい持たせてくれよ」
「そう?ありがとう」
「ほかに行きたいところは?」
「うーん……これは後から買えばよかったかもしれないけど、ゆっくり街を歩いてみたいの」
「じゃあそうしよう」
私の計画性のなさにも、ファルクは全く怒らなかった。むしろただ連れ立って歩けるだけで嬉しいとばかりに尻尾が揺れていた。私とファルクは特に目的もなく街中を歩き回り、疲れたら店構えの良い、おいしそうなレストランに入って昼食を摂った。
それからまた、街を踏破する勢いで歩き続けた。5年間も聖女の旅を続けていたから、歩くことが癖になっているのかもしれない。怪しまれないうちにそろそろ帰ろうかと提言する。
「そうだな」
ファルクはホッとしたように息を吐いた。やっぱり疲れていたようだ。足の疲れを治癒してあげたいけれど、そうしたら聖女とバレてしまう。
「夕食は、何か買って帰ればいいわよね?」
どこかに入って食べるにはまだ早い時間だ。食べ物を買って、家で落ち着いてから夕食にしたほうが良さそうだった。こういうとき、家があるっていいなと思う。
「そうだな、簡単にパンと燻製でも買って帰ろう」
ファルクの案内で市場に戻り、食料品を買い込んで家路につく。なお、市場の売り子からは「新婚さんかい?」などと揶揄われた。
「ふう、少し疲れたわね」
家に戻ると、疲れたふりをしてドサッと椅子に腰を下ろした。入ってすぐのところにある、小さなダイニングテーブルの席だ。本当は歩きながら、さりげなく足や全身を治癒しているので全く疲れていない。今までであれば、旅に同行する3人も治癒していたので力があり余っているくらいだ。
「買った荷物は俺が片付けておくから、ベル姉はゆっくりしてて」
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