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踊り子 ベリンダ
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「アルミナ様……そろそろ起きて下さい」
がくがくと身体を揺さぶられて目を開けると、シュナイダー卿の真面目に作られすぎた端正な顔がすぐ近くにあった。
「まだ眠い」
「寝ぼけないでもらえますか」
いつもより冷たい声音に、私は正気を取り戻す。周囲を見回せばいつもの天幕ではなく、氷柱が垂れ下がる洞窟のようだった。身体が冷え切っていて、何でもいいから暖が取りたかった。手足がジンジンと痛みを訴えている。
「ここは……?」
「私にもわかりませんが、とりあえず外よりは風雪が凌げるかと」
「シュナイダー卿が運んでくれたんですか?」
「ええ、まあ。日が沈んでしまって危険ですので、今夜はここで朝を待ちます。朝日が出たら動きましょう。村の方角を指し示すコンパスだけは持っています」
はあ、と彼の吐く息は真っ白だった。鼻や頬が寒さで赤くなっているせいか、いつもより幼く見えた。
「クライン卿とベッシュのふたりは大丈夫なんでしょうか?」
結局はクライン卿の不吉な発言の通りになってしまい、彼らとはぐれてしまった。聖女の守りの範囲外で魔物に襲われる可能性もあるのに、シュナイダー卿が落ち着き払っている理由がよくわからなかった。
「魔物から逃げ回りながら村を目指すことは可能なはずです。クライン卿の精霊術は確かですし、ベッシュも緊急時の魔導具を色々持っていますから」
「ああ、そうなんですね」
何でもなさそうにシュナイダー卿が言うので、私は胸を撫で下ろした。あとでクライン卿から逃走劇を聞けるかと思うと、楽しみで口元がゆるむほどだ。けれど、シュナイダー卿は悲痛そうに眉根を寄せた。
「申し訳ございません」
「どうしてシュナイダー卿が謝るんですか?私を助けてくれたじゃないですか。ドラゴンの火炎からも、雪庇からの落下も」
「よりによって、一番役に立たない私と2人になってしまったことです」
どこが?と彼の薄青い瞳を見つめた。
あの混乱した状況の中、私に手を差し伸べてくれた。雪とともに落下したのに、重たい雪から抜け出し、気絶していた私を運んでくれた。
絶大な治癒力を持つ聖女が死ぬことはまずないらしいけど、意識がなければ、雪の下で窒息死していたかもしれないのに。
「生きてただけ、よかったですよ。ありがとうございます」
「いえ。緊急時の連携について、訓練をしておくべきでした。私は聖騎士ですから、少々の神聖力と体力しかないのです。クライン卿なら暖を取れるし、水も出せます。ベッシュがいても魔導具で何とかなったでしょう。私が持っているのはこの程度です」
ニコリともしないシュナイダー卿は分厚い手袋を外し、腰のポケットに手を入れた。取り出したのは、私にたまにくれるキャラメルが入った缶だ。すっかり慣らされた体はそれを見た途端、唾が出てくるのを感じた。
「それがあれば、すごく気持ちが安らぎますよ。食べましょうよ」
「アルミナ様に全て差し上げます……」
「こういうときは一緒に食べるものでしょう?!」
「私は一晩くらい何も食べなくても問題ありません」
強情そうなシュナイダー卿を説得するのは難しそうだなと頭を抱えてしまう。というか、無理だろう。
「食べるのは後でいいです。それより、寒いんですが」
この人と抱き合って暖を取れるのかな、と私は疑問だった。だけど背に腹を代えられないくらいに私は凍え、さっきから震えが止まらない。
「わかりました」
シュナイダー卿は言うが早いか、迷いなく外套のトグルボタンを外し始めた。
シュナイダー卿が本当にわかっていると期待した訳じゃない。
だけど彼の脱いだ温かい外套を肩から掛けられたとき、大きなため息を我慢できなかった。
「あっ、ため息はやめてください」
「シュナイダー卿の理解が悪いからですよ。これじゃシュナイダー卿が寒いじゃないですか」
「私は大丈夫です」
「すぐに寒くなりますよ。そうじゃなくて、こんな場合、抱き合って温め合うしかないでしょう?」
「抱き合うだなんて。私は聖騎士でアルミナ様は聖女ですよ、いけません」
セーター姿になったシュナイダー卿は、寒さで赤らんでいた頬をさらに燃え上がりそうに赤くして目を逸らした。
やましい気持ちがあるからこその反応に、私は驚きを禁じ得なかった。真面目の概念を覚える前から、真面目に出産予定日に産まれて来てそうなシュナイダー卿だ。そんな彼が、性欲の存在を匂わせたのだ。
ある意味、生物としては真面目なのかもしれないけど、聖女であっても女として見られるんだ。そういうのに敏感なつもりの私ですら、巧妙に隠されていて気づけなかった。
「ただ温もりを分かち合うだけですよ。女神様の教えにあるでしょう、人と人は分かち合うもの、奪ってはならないと。私は聖女として、シュナイダー卿の外套を奪うなんてできないのです」
なぜか常にないほど頭の回転が良くなった私は、彼を説き伏せようと微笑んだ。私は切実に寒くて、温めて欲しかった。そして安全な火遊びは楽しいもの。ちょっとくらいムラムラしたって、このシュナイダー卿が実際に手出ししてくるはずがないのだ。
「そうでしたね、女神様の教え……」
「わかったら、早くこれを着てください」
「はい」
「そして……ここにこう……足はこうです」
シュナイダー卿に外套を着直させ、彼の脚の間に座る私の背中でボタンを閉めてもらった。この身体は小柄だし、外套はゆったりした作りなので余裕がある。私自身も熱が伝わりやすいよう外套は脱いで、シュナイダー卿の長い脚にかけてもらった。
はっきり言うと対面座位の体勢になった。服は着ているけれど、密着度が高くてなかなかいやらしい感じだ。
「……あの、私だから我慢できますけど……クライン卿やベッシュにはこういうことはしないで下さいね、危険です」
「そうなんですか?」
体格の良いシュナイダー卿の胸に甘え、私はすっとぼけた。彼の心臓はドクドクと鳴り響き、体温は都合よく上昇して来ている。
「そうです。男は、時と場合を鑑みず、愚かにも淫らな気持ちを抱いてしまうのです。アルミナ様は記憶を奪われて常識も忘れてしまったのですね。こんなこと、緊急時以外は本当に絶対にダメですからね」
意外とはっきり、淫らな気持ちになったと宣言するシュナイダー卿に私は感心した。それでも教育のつもりなのかもしれない。
がくがくと身体を揺さぶられて目を開けると、シュナイダー卿の真面目に作られすぎた端正な顔がすぐ近くにあった。
「まだ眠い」
「寝ぼけないでもらえますか」
いつもより冷たい声音に、私は正気を取り戻す。周囲を見回せばいつもの天幕ではなく、氷柱が垂れ下がる洞窟のようだった。身体が冷え切っていて、何でもいいから暖が取りたかった。手足がジンジンと痛みを訴えている。
「ここは……?」
「私にもわかりませんが、とりあえず外よりは風雪が凌げるかと」
「シュナイダー卿が運んでくれたんですか?」
「ええ、まあ。日が沈んでしまって危険ですので、今夜はここで朝を待ちます。朝日が出たら動きましょう。村の方角を指し示すコンパスだけは持っています」
はあ、と彼の吐く息は真っ白だった。鼻や頬が寒さで赤くなっているせいか、いつもより幼く見えた。
「クライン卿とベッシュのふたりは大丈夫なんでしょうか?」
結局はクライン卿の不吉な発言の通りになってしまい、彼らとはぐれてしまった。聖女の守りの範囲外で魔物に襲われる可能性もあるのに、シュナイダー卿が落ち着き払っている理由がよくわからなかった。
「魔物から逃げ回りながら村を目指すことは可能なはずです。クライン卿の精霊術は確かですし、ベッシュも緊急時の魔導具を色々持っていますから」
「ああ、そうなんですね」
何でもなさそうにシュナイダー卿が言うので、私は胸を撫で下ろした。あとでクライン卿から逃走劇を聞けるかと思うと、楽しみで口元がゆるむほどだ。けれど、シュナイダー卿は悲痛そうに眉根を寄せた。
「申し訳ございません」
「どうしてシュナイダー卿が謝るんですか?私を助けてくれたじゃないですか。ドラゴンの火炎からも、雪庇からの落下も」
「よりによって、一番役に立たない私と2人になってしまったことです」
どこが?と彼の薄青い瞳を見つめた。
あの混乱した状況の中、私に手を差し伸べてくれた。雪とともに落下したのに、重たい雪から抜け出し、気絶していた私を運んでくれた。
絶大な治癒力を持つ聖女が死ぬことはまずないらしいけど、意識がなければ、雪の下で窒息死していたかもしれないのに。
「生きてただけ、よかったですよ。ありがとうございます」
「いえ。緊急時の連携について、訓練をしておくべきでした。私は聖騎士ですから、少々の神聖力と体力しかないのです。クライン卿なら暖を取れるし、水も出せます。ベッシュがいても魔導具で何とかなったでしょう。私が持っているのはこの程度です」
ニコリともしないシュナイダー卿は分厚い手袋を外し、腰のポケットに手を入れた。取り出したのは、私にたまにくれるキャラメルが入った缶だ。すっかり慣らされた体はそれを見た途端、唾が出てくるのを感じた。
「それがあれば、すごく気持ちが安らぎますよ。食べましょうよ」
「アルミナ様に全て差し上げます……」
「こういうときは一緒に食べるものでしょう?!」
「私は一晩くらい何も食べなくても問題ありません」
強情そうなシュナイダー卿を説得するのは難しそうだなと頭を抱えてしまう。というか、無理だろう。
「食べるのは後でいいです。それより、寒いんですが」
この人と抱き合って暖を取れるのかな、と私は疑問だった。だけど背に腹を代えられないくらいに私は凍え、さっきから震えが止まらない。
「わかりました」
シュナイダー卿は言うが早いか、迷いなく外套のトグルボタンを外し始めた。
シュナイダー卿が本当にわかっていると期待した訳じゃない。
だけど彼の脱いだ温かい外套を肩から掛けられたとき、大きなため息を我慢できなかった。
「あっ、ため息はやめてください」
「シュナイダー卿の理解が悪いからですよ。これじゃシュナイダー卿が寒いじゃないですか」
「私は大丈夫です」
「すぐに寒くなりますよ。そうじゃなくて、こんな場合、抱き合って温め合うしかないでしょう?」
「抱き合うだなんて。私は聖騎士でアルミナ様は聖女ですよ、いけません」
セーター姿になったシュナイダー卿は、寒さで赤らんでいた頬をさらに燃え上がりそうに赤くして目を逸らした。
やましい気持ちがあるからこその反応に、私は驚きを禁じ得なかった。真面目の概念を覚える前から、真面目に出産予定日に産まれて来てそうなシュナイダー卿だ。そんな彼が、性欲の存在を匂わせたのだ。
ある意味、生物としては真面目なのかもしれないけど、聖女であっても女として見られるんだ。そういうのに敏感なつもりの私ですら、巧妙に隠されていて気づけなかった。
「ただ温もりを分かち合うだけですよ。女神様の教えにあるでしょう、人と人は分かち合うもの、奪ってはならないと。私は聖女として、シュナイダー卿の外套を奪うなんてできないのです」
なぜか常にないほど頭の回転が良くなった私は、彼を説き伏せようと微笑んだ。私は切実に寒くて、温めて欲しかった。そして安全な火遊びは楽しいもの。ちょっとくらいムラムラしたって、このシュナイダー卿が実際に手出ししてくるはずがないのだ。
「そうでしたね、女神様の教え……」
「わかったら、早くこれを着てください」
「はい」
「そして……ここにこう……足はこうです」
シュナイダー卿に外套を着直させ、彼の脚の間に座る私の背中でボタンを閉めてもらった。この身体は小柄だし、外套はゆったりした作りなので余裕がある。私自身も熱が伝わりやすいよう外套は脱いで、シュナイダー卿の長い脚にかけてもらった。
はっきり言うと対面座位の体勢になった。服は着ているけれど、密着度が高くてなかなかいやらしい感じだ。
「……あの、私だから我慢できますけど……クライン卿やベッシュにはこういうことはしないで下さいね、危険です」
「そうなんですか?」
体格の良いシュナイダー卿の胸に甘え、私はすっとぼけた。彼の心臓はドクドクと鳴り響き、体温は都合よく上昇して来ている。
「そうです。男は、時と場合を鑑みず、愚かにも淫らな気持ちを抱いてしまうのです。アルミナ様は記憶を奪われて常識も忘れてしまったのですね。こんなこと、緊急時以外は本当に絶対にダメですからね」
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