31 / 72
獣人ファルク
31
しおりを挟む
「つまり、教会の人間は魂の入れ替えの事実こそ知らないけど、何か嗅ぎつけて怪しんでいるってことか?」
「多分、そう……戻ったときのベリンダのためになればと神聖力を込めたドリンクを酒場に売ったのが良くなかったかも……」
ベリンダの顔をして、中身は別人だと言い張る女性はポロポロと新しい涙を零す。そうだ、彼女はまるで世間を知らない。これが聖女らしさと言えば、そうとも言えた。
「戻る方法はあるのか?」
「来年、水瓶の月の10日に同じことをしたら戻れるわ」
「……その話を信じるとしても、今あちらの国にいるのは危険だ。教会のやつらは、あなたを2人目の聖女として捕まえ、強制的に働かせるだろう。元に戻さなくても聖女の役割ができるならそのほうが得だ。そうだろう?」
「た、確かにそうね……」
魂の入れ替えなどという荒唐無稽な話を聞かされ、俺の心も2つに分かれてしまった感覚がした。
目の前の人物が記憶喪失のベリンダであって欲しい気持ちと、アルミナという聖女でむしろ良かったのだという気持ちだ。
結局、俺ではいつまで経ってもあのベル姉を幸せにできなかっただろう。
俺と出会う前に傷ついていた彼女は、複雑な心理で俺に救いの手を差し伸べてくれた。俺はその恩を返したかったのに、取り返しのつかない失敗をした。
「ひとつ確認してもいいか?」
「うん」
「ベル姉は、喜んで聖女の代わりに旅に出たのか?」
彼女の目が気まずそうに泳ぐ。どう答えるべきか、判別できないのだろう。だけどその反応で俺は何となくわかってしまった。
「喜んでたんだな。ベル姉は」
「……うん」
ため息が抑えられなかった。ベリンダは俺と離れたがっていた一方で、人の役に立つことが好きだった。生活に余裕がある訳でもないのに孤児院に寄付をしていたくらいだ。そんなベル姉なら、聖女の代役を張り切って引き受けたのだろう。
「ごめんなさい……謝って済むことじゃないけれど」
「謝る必要はありません、アルミナ様」
「ファルクはもう、私と普通に話してくれないの?」
聖女アルミナと確信したところで言葉遣いを改めると、ショックを受けたように彼女は目を見開いた。そんな場合でないのに、昨夜の一部始終が思い出されてしまう。
「いやその……」
「せめて元に戻るまでは、ただのアルミナとしてお喋りしてほしいの、お願い」
この人はどういうつもりで、出会って数日の俺と淫らな行為をしたのだろう。あのとき、神聖力で理性を飛ばされたのはわかっていた。それでも、長く無視されていたベル姉に手を差し伸べられたことが嬉しくて、俺は甘えてしまったのだ。
アルミナという親しくもない人であるなら、話は全く変わってくる。弄ばれたような気さえして敬語で壁を作りたかったのだが、彼女に涙を浮かべられるとそうもいかない。
「じゃあ話し方については今まで通りにする。けれど、俺の自己紹介もきちんとさせてくれ」
「ファルクの?」
「多分、そう……戻ったときのベリンダのためになればと神聖力を込めたドリンクを酒場に売ったのが良くなかったかも……」
ベリンダの顔をして、中身は別人だと言い張る女性はポロポロと新しい涙を零す。そうだ、彼女はまるで世間を知らない。これが聖女らしさと言えば、そうとも言えた。
「戻る方法はあるのか?」
「来年、水瓶の月の10日に同じことをしたら戻れるわ」
「……その話を信じるとしても、今あちらの国にいるのは危険だ。教会のやつらは、あなたを2人目の聖女として捕まえ、強制的に働かせるだろう。元に戻さなくても聖女の役割ができるならそのほうが得だ。そうだろう?」
「た、確かにそうね……」
魂の入れ替えなどという荒唐無稽な話を聞かされ、俺の心も2つに分かれてしまった感覚がした。
目の前の人物が記憶喪失のベリンダであって欲しい気持ちと、アルミナという聖女でむしろ良かったのだという気持ちだ。
結局、俺ではいつまで経ってもあのベル姉を幸せにできなかっただろう。
俺と出会う前に傷ついていた彼女は、複雑な心理で俺に救いの手を差し伸べてくれた。俺はその恩を返したかったのに、取り返しのつかない失敗をした。
「ひとつ確認してもいいか?」
「うん」
「ベル姉は、喜んで聖女の代わりに旅に出たのか?」
彼女の目が気まずそうに泳ぐ。どう答えるべきか、判別できないのだろう。だけどその反応で俺は何となくわかってしまった。
「喜んでたんだな。ベル姉は」
「……うん」
ため息が抑えられなかった。ベリンダは俺と離れたがっていた一方で、人の役に立つことが好きだった。生活に余裕がある訳でもないのに孤児院に寄付をしていたくらいだ。そんなベル姉なら、聖女の代役を張り切って引き受けたのだろう。
「ごめんなさい……謝って済むことじゃないけれど」
「謝る必要はありません、アルミナ様」
「ファルクはもう、私と普通に話してくれないの?」
聖女アルミナと確信したところで言葉遣いを改めると、ショックを受けたように彼女は目を見開いた。そんな場合でないのに、昨夜の一部始終が思い出されてしまう。
「いやその……」
「せめて元に戻るまでは、ただのアルミナとしてお喋りしてほしいの、お願い」
この人はどういうつもりで、出会って数日の俺と淫らな行為をしたのだろう。あのとき、神聖力で理性を飛ばされたのはわかっていた。それでも、長く無視されていたベル姉に手を差し伸べられたことが嬉しくて、俺は甘えてしまったのだ。
アルミナという親しくもない人であるなら、話は全く変わってくる。弄ばれたような気さえして敬語で壁を作りたかったのだが、彼女に涙を浮かべられるとそうもいかない。
「じゃあ話し方については今まで通りにする。けれど、俺の自己紹介もきちんとさせてくれ」
「ファルクの?」
1
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜
こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。
傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。
そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。
フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら?
「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」
ーーどうやら、かなり愛されていたようです?
※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱
※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる