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聖騎士エミル・シュナイダー
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翻ってみれば、私はアルミナ様には自分の考えを押し付けてばかりだった。アルミナ様に非はないが、私は遠くから仰ぎ見てきた彼女に対し、理想の聖女らしさを求めてしまった。日頃の行いに細かく口出しをしてばかりで、疎まれて当然だ。
私は、教えられたのだ。アルミナ様の中にいるベリンダに。彼女は不安そうだったけれど、だからこそ私の気持ちを推し量るように見てくれた。そこまでされて、私はやっとまともに人の気持ちを考え始めたのだと思う。
修行が足りない自分が恥ずかしかった。同時にベリンダへの尊敬の念がこみ上げる。それだけではなく――
「じゃあ口でしてあげようか?私、得意なのよ」
考えている間に、かわいらしい唇から、あまり聞きたくない言葉が発せられた。ベリンダはまだ偽悪的な振る舞いを続けようとしている。
しかしこれもまた、ベリンダを形成した過去によるものだろう。一方で、ただの酒場の踊り子にしては、今までの『記憶の一部を失った聖女』という演技は上手すぎた。どこかで教育を受けたのだろうか?
「ベリンダ、あなたは大変な境遇にあったとお察します。でもこれからは……」
「大変なんて一言じゃ済まないわ。私はね、少女のときに貴族の男に売られて、何年も飼われたの。お嬢様みたいにかわいがられて教育も受けたけれど、もちろん性行為はあった。しかも私が大人になると、飽きられたの。仕方ないから金目のものを盗んでその男のところを逃げ出した。それで、次は酒場で男たちに半裸を見せながら踊って稼いだわ。高いチップをくれた客とは寝てきた。そんな汚い女なのよ」
想像を軽々と超える話に、私は息がつけなくなる。自分の狭い知識に嫌気が差したが、ベリンダを嫌いになる材料には、決してなり得なかった。
「あなたは汚くありませんよ」
「そうね、今はアルミナの身体だから」
「そうではなく。女神教は性行為を汚れとはしていません。誰があなたにそのような考えを吹き込んだのですか?」
「……私を下に見て満足したい男たちよ」
「そんな男より、どうか私を信じて下さい。あなたはその男たちに暴力を振るって傷つけたわけではないでしょう?」
「そんな……危ないから、絶対にしないわ」
「ではベリンダ。あなたは清らかです。少しも汚れていません」
はじめの勢いを失ったベリンダが、視線を下げた。
「交わった男の数が数え切れなくても?」
「そうです」
「でも……シュナイダー卿は私を好きでもなんでもないでしょう」
「信じてくれないでしょうが、あなたを愛していますよ」
「嘘よ」
私の人生において、初めての愛の告白があっさりと否定されてしまい、私は切なかった。しかし、冗談のつもりはなかった。いつから、とは自分でもわからない。いつまでも続くだろうという予感だけがあった。
「私のこれから一生をかけて証明します」
「同情はいらないわ」
「同情ではありません。これは私の欲です」
私は彼女の身体を抱いて持ち上げ、いつかの雪山のように向かい合うかたちで脚の上に座らせた。少し驚き、彼女は目を丸くした。元の身体に戻るのかどうか、それすらわからなくても、今はベリンダを離したくない。ベリンダの心の色が、透けて見えはしないかと彼女の頬を両手で包むようにして、青い瞳の奥を覗き込む。
「たとえ全てを失っても構いません。あなたが、私を求めてくれるなら」
「う、嘘を言わないで」
「信じてくれるまで待ちます」
「いいから、そういうの……っ」
ベリンダは顔を真っ赤にして、私から離れようともがく。抱きしめるくらいは許されるだろうと、私は腕に軽く力を入れ、彼女は抜け出そうと暴れた。何回か顔や首を引っ掻かれたが、先に根負けしたのはベリンダだった。
「……何なの、エミル。あなたって」
荒く乱れた息を吐き、ベリンダは私の肩口に額を当てる。家名ではない名前を呼ばれるだけで、深い喜びを覚えた。引っ掻かれたことすら嬉しかった。つまり私は、ベリンダにとって引っ掻いても危険ではない相手なのだ。ひりつくこの傷は、信頼の証だろう。
「難しい質問ですね。一緒に考えてくれますか?」
「そうね」
ふっと笑いながら、ベリンダは顔を上げた。私が何ものか考えてくれるだなんて、最高の答えだった。
「ありがとうございます」
「ふふ、本当に変な人」
私は、教えられたのだ。アルミナ様の中にいるベリンダに。彼女は不安そうだったけれど、だからこそ私の気持ちを推し量るように見てくれた。そこまでされて、私はやっとまともに人の気持ちを考え始めたのだと思う。
修行が足りない自分が恥ずかしかった。同時にベリンダへの尊敬の念がこみ上げる。それだけではなく――
「じゃあ口でしてあげようか?私、得意なのよ」
考えている間に、かわいらしい唇から、あまり聞きたくない言葉が発せられた。ベリンダはまだ偽悪的な振る舞いを続けようとしている。
しかしこれもまた、ベリンダを形成した過去によるものだろう。一方で、ただの酒場の踊り子にしては、今までの『記憶の一部を失った聖女』という演技は上手すぎた。どこかで教育を受けたのだろうか?
「ベリンダ、あなたは大変な境遇にあったとお察します。でもこれからは……」
「大変なんて一言じゃ済まないわ。私はね、少女のときに貴族の男に売られて、何年も飼われたの。お嬢様みたいにかわいがられて教育も受けたけれど、もちろん性行為はあった。しかも私が大人になると、飽きられたの。仕方ないから金目のものを盗んでその男のところを逃げ出した。それで、次は酒場で男たちに半裸を見せながら踊って稼いだわ。高いチップをくれた客とは寝てきた。そんな汚い女なのよ」
想像を軽々と超える話に、私は息がつけなくなる。自分の狭い知識に嫌気が差したが、ベリンダを嫌いになる材料には、決してなり得なかった。
「あなたは汚くありませんよ」
「そうね、今はアルミナの身体だから」
「そうではなく。女神教は性行為を汚れとはしていません。誰があなたにそのような考えを吹き込んだのですか?」
「……私を下に見て満足したい男たちよ」
「そんな男より、どうか私を信じて下さい。あなたはその男たちに暴力を振るって傷つけたわけではないでしょう?」
「そんな……危ないから、絶対にしないわ」
「ではベリンダ。あなたは清らかです。少しも汚れていません」
はじめの勢いを失ったベリンダが、視線を下げた。
「交わった男の数が数え切れなくても?」
「そうです」
「でも……シュナイダー卿は私を好きでもなんでもないでしょう」
「信じてくれないでしょうが、あなたを愛していますよ」
「嘘よ」
私の人生において、初めての愛の告白があっさりと否定されてしまい、私は切なかった。しかし、冗談のつもりはなかった。いつから、とは自分でもわからない。いつまでも続くだろうという予感だけがあった。
「私のこれから一生をかけて証明します」
「同情はいらないわ」
「同情ではありません。これは私の欲です」
私は彼女の身体を抱いて持ち上げ、いつかの雪山のように向かい合うかたちで脚の上に座らせた。少し驚き、彼女は目を丸くした。元の身体に戻るのかどうか、それすらわからなくても、今はベリンダを離したくない。ベリンダの心の色が、透けて見えはしないかと彼女の頬を両手で包むようにして、青い瞳の奥を覗き込む。
「たとえ全てを失っても構いません。あなたが、私を求めてくれるなら」
「う、嘘を言わないで」
「信じてくれるまで待ちます」
「いいから、そういうの……っ」
ベリンダは顔を真っ赤にして、私から離れようともがく。抱きしめるくらいは許されるだろうと、私は腕に軽く力を入れ、彼女は抜け出そうと暴れた。何回か顔や首を引っ掻かれたが、先に根負けしたのはベリンダだった。
「……何なの、エミル。あなたって」
荒く乱れた息を吐き、ベリンダは私の肩口に額を当てる。家名ではない名前を呼ばれるだけで、深い喜びを覚えた。引っ掻かれたことすら嬉しかった。つまり私は、ベリンダにとって引っ掻いても危険ではない相手なのだ。ひりつくこの傷は、信頼の証だろう。
「難しい質問ですね。一緒に考えてくれますか?」
「そうね」
ふっと笑いながら、ベリンダは顔を上げた。私が何ものか考えてくれるだなんて、最高の答えだった。
「ありがとうございます」
「ふふ、本当に変な人」
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