聖女ですが何も知らない狼獣人をだましています

植野あい

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王弟妃 ベリンダ

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私はベッドの端に浅く座るファルクににじり寄り、指を絡めて手をつなぐ。こうして手をつないだり、抱き合ったりしたいのはファルクだけ。そういう意思表示のつもりだった。

 シュナイダー卿との関係を一言で言い表すのは難しいけれど、とりあえず友情と私は思っている。

「彼は昔からアルミナを見ていたんだろ。しかも、本当のアルミナの姿まで知っている。俺は全然知らないのに」
「見てはいたみたいだけど、それだけ。護衛になってからやっと会話したのよ。ファルクのほうがずっと本当の私を知っているわ。ね、こんなふうに喋るのはファルクだけじゃない」

 さらに近付き、ファルクに密着する。筋肉質な彼のほうがいつも体温が高く、この熱が気持ちいい。つないだ手を私の脚の間に置いた。
 寝間着は短いので、肌理の細かい太ももが露わになっている。ファルクの褐色の肌と白い肌との対比は何度見てもドキドキしてしまう。

「男と女が親しくしたからって、必ずしも恋愛感情にはならないのはファルクだってよく知ってるでしょう。私も不思議だと思う」
「……まあな」

 ファルクはベリンダとの関係を思い出したようで、ムッと唇を引き結んだ。いい年をした男女が2年も仲良く一つ屋根の下で暮らしていても、姉と弟のようでしかなかったという。ファルクが言うなら、それは真実だ。

「それより」
「うん?」
「シュナイダー卿が伝えてくれたことが重要よ。私は元の身体に戻らなくていいってわかった」
「それが、まだちょっと信じられないんだ」
「彼は嘘をつくような人じゃないわ」
「いやでも……あと少し我慢しよう」

 ごちゃごちゃと言い争っているのは、今夜のことについてだ。私は、ファルクと身も心もひとつになりたかった。
 ファルクも同じように私を望んでくれているけれど、ひどく慎重なのだ。触らせてはくれるあれを、絶対に入れてくれない。

 不完全燃焼だから毎夜、気が狂ったように求めてしまうのかもしれない。私は魂だけは処女のまま、肉体に燃える淫らな欲望を持て余していた。

「ファルク。私は狼の獣人じゃない」
「ああ」

 ベッドに投げ出された彼の太くてフサフサな尻尾を、付け根から尾先に向かって撫でる。黒い毛並みは滑らかで、よく手入れがされていた。

「だから不安なんでしょう?私がほかの人を好きになるんじゃないかって」

 この関係は、あまりに不公平だった。狼の獣人は、生涯ただひとりだけを愛し抜くロマンチックな種族だ。一方で人間は、たぶん少数派ながら浮気をする。

 しかも私たちは、あまりに早く近付いた。私がベリンダのふりをして彼を騙し、半ば強引にファルクを襲った事実はずっと消えない。

 ファルクはどうも私のことを『惚れっぽい』と思っているようだ。あるいは『恋に恋するタイプ』なんて浅く見られている節さえあるけれど。

「そろそろ信じてほしいわ。私が好きなのはファルクだけ」
「アルミナ」

 するりと頬を撫で、優しい口付けが落とされた。触れたところが溶けてしまいそうに熱を持つ。

「悪かった。アルミナを疑いたいわけじゃないんだ。俺の心が狭いだけだ」

 私の首筋の匂いを嗅ぎながらファルクは呟いた。私は彼の大きな耳と頭を撫で、吐息をこぼす。

「できることならアルミナを独占したいよ。どこかに閉じ込めて、もう誰とも、何ものにも関わりがないようにできたらいいのに」
「それは無理だけど、今夜は最後までして欲しいの」

 ぴたりと動きを止め、ファルクは顔を上げた。
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