26 / 250
第3章 ギュラー砦攻防戦
第3話 夜襲からの撤退 1
しおりを挟む
異世界召喚 26日目
ギュラー砦、正門城壁から見える正面の…街道が続いている森も、その上の空も、白々と明るくなりつつあった。
…もう、半時程で山の稜線から、朝日が昇り始めるだろう…
静寂な空気の中…いつもの朝と異なるのは、そろそろ活発に動き出す、鳥や鳥の声が森の方からは聞こえないことだ。
逆に、ギュラー砦は全員が起きており、夜襲隊の帰りを…朗報を待ちわび、受け入れの準備をしていた。
すると…約1キロ先の森の街道入り口から3騎の騎兵が駆けてくる。暫くすると、その後に数騎ずつまとまって駆けてきた。
まるで、間を繋がない、点のように…ポツポツと、駆けてくる騎兵が続く。
正門城壁の上で待っている博影とベレッタは、夜襲の失敗を悟った。
ギュラー砦に近付くにつれ…騎士が馬が、満身創痍である事がわかる。
先頭の3騎が、砦正門に駆け込んで来た。待ち受けるイング公爵に報告する。
「夜襲失敗、敵の待ち伏せを受け部隊は、大混乱に陥りました。夜襲隊撤退中、敵の追撃を受けています。援軍をお願いします」
そういうと、騎兵は馬から落ちる。すぐに、治療所に運ばれていく。
「負傷兵、受け入れ準備。治癒師は、治療所で待機せよ」
イング公爵が、伝令兵に指示を出し、退却してくる騎兵を確認する為、正門城壁へ上がった。
イング公爵の眼前には、森へ続く街道の中を、まばらに騎兵が駆けていた。
全てで、50騎程だろう…敵の姿は見えない。
その、最後尾の騎兵から、離れる事200m…森の街道から、50騎程の密集体型で、駆けてくる隊があった。
そして、その後方100mに、追撃部隊と思われる約200程の騎兵が現れた。
「200くらいか! 蹴散らしてくれるわ」
伝令に、正規騎兵200、傭騎兵100、歩兵500を正門外へ集合させる。城壁の上より剣を抜き、檄を飛ばす。
「全軍突撃! 調子にのった追撃部隊など、一兵も返すな!」
騎兵隊300が、全速で駆け出し…歩兵部隊が、みるみる離されながらも続く。
その時…
右側の森より雄叫びがあがり、約2千のモスコーフ帝国軍の増援部隊が、街道を退却する騎兵隊を襲い掛からんと、飛び出して来た。
「くっ、罠か! しかし、増援は騎兵300、他は歩兵、まだ距離もある。一撃し離脱すれば、味方を引き入れ城門を閉める時はある」
城壁上から旗を振り…
…味方歩兵の帰還と、味方騎兵へ一撃離脱し帰還せよ…
と、指示を出す。又、城壁の兵に、敵がなだれ込んで来た事を想定し、残りの場内の兵全てに正門内側の広場で迎撃態勢を取るように指示する。
正門城壁の上では、博影とベレッタが、遠く森へ続く街道を見つめたままだった。
「…いない…」
まばらに退却してくる騎兵隊の中に…最後の50騎程の騎兵隊の中に…カローイ、ダペス家の騎兵は見当たらなかった。
「カローイ…」
ベレッタは、断崖から落ちるが如く、深い絶望に沈んだ。両手を胸にあて、奇跡を祈った。
ギュラー砦内が慌ただしくなる。
夜襲隊撤退援護に出撃した歩兵部隊は場内に戻り、その広い正門裏で迎撃態勢につく。
騎兵部隊は、撤退してきた満身創痍の騎兵に、すれ違いざま声をかけつつ全速で敵追撃隊へ向かった。
最後尾の50騎の味方とすれ違った直後、敵の追撃騎兵部隊の中央から、左側をかすめるように突撃していく。敵騎兵の盾を持たない左側から突撃し、ランスで30騎ほどの騎兵を馬から落とし、敵左側の足を止める。
そして、そのまま止まらず左側に弧を描き、全速で撤退態勢に入った。
「あの騎士隊の指揮官、やるな…」
その様子を見ていた右側森に待ち伏せし、打ち合わせ通り追撃態勢を取っていた傭騎士隊の部隊長は、敵であるがその統率力に感嘆した。
一旦は、敵追撃隊の右側の部隊まで戸惑い、騎兵のあしが鈍ったが、すぐに態勢を立て直し、救援隊に迫りつつあった。
「くっ、このままでは、敵の右側の部隊に追いつかれる…」
イング公爵が絞り出すように呻いた。
…このままじゃまずい、追撃部隊の右側を止めないと…
博影は術袋から、アーチェリーとダペス家より貰った長弓用の矢と黒い術袋に入っていた矢を出した。
自分は、人の命や人生に関わる仕事をしてきた、この世界でもそうしてきた。
その自分が、人を撃つ…人を殺す…
その道具に、父の形見を使う…
「父さん、ごめん…」
背筋を伸ばし、両手で押し広げるように絞った。父の改造した、望遠機能を持つ照準器で狙いを定める。
「距離200…」
バシュ…
放たれた矢は、真っ直ぐ敵の前列に向かい…敵の甲冑に当たり砕かれた…敵は止まらない。
「やはり、聖石で防御力を上げているか…」
この世界では、弓は歩兵にしか効かない。騎士は、聖力を使い聖石を埋め込んだ甲冑や武器を使う。聖石で防御力の上がった甲冑は、矢を通さないのだ。
博影は、足元より魔法陣を出し、魔法陣を、矢の先10mで時計回りでゆっくり回転させ始めた。剣を使えない博影は、弓で戦うしかない。
甲冑を貫く為、王都で練習した事を……今…
黒い術袋から取り出した、矢尻が黒い矢を引き絞り、回転が速くなっていく魔法陣の中央へ放った。
矢は、魔法陣中央を貫く際……吸い込まれる様に加速し、さらに矢を薄い黒い霧が包む。
まるで、矢先から、黒い霧が流れ出しているかの様に…
矢は、一瞬で敵前列の騎兵の体を貫き…そのまま、後方の2人の騎兵をも貫き、地面へ刺さった。
貫かれた騎兵の体には、拳大の穴が空き。血を吹き出しながら倒れた。
周りの騎兵は、何が起こったかわからない。第2、第3、第4と、約20秒間隔ごとに、矢は放たれた。
その度に、数人の頭を、腕を、足を吹き飛ばし、体に穴を開け、追撃隊前列に血の水溜りをつくった。
前列の騎兵は、ようやく矢で撃たれている事に気付きはじめ、術袋から盾を出し構えた。
しかし、黒い矢は、その盾さえも貫き、騎兵の体に突き刺さる。
「全軍、下乗。ランスを置き、盾を全力で構えろ!」
追撃隊指揮官が、大声で命令する。全軍下乗し、術袋から出した大楯を前面で構え、聖力を集中させた。
博影が放つ黒い矢は、大楯に深々と刺さるが、もはや貫く事は出来なくなった。
夜襲隊、救援隊とも場内に飛び込んだ直後…
「橋を上げ、城門を閉めろー」
イング公爵が、叫んだ。
城壁上にいる兵士やベレッタは、博影が射た弓の威力に…呆然としていた。
敵追撃隊と、森からの増援隊は、ギュラー砦前方、200m程の所で、大楯の防御陣を引き…止まった。
一瞬の間が出来…
次の瞬間、間が崩れた。
森から、20騎程の騎兵隊が飛び出してきた。
ギュラー砦、正門城壁から見える正面の…街道が続いている森も、その上の空も、白々と明るくなりつつあった。
…もう、半時程で山の稜線から、朝日が昇り始めるだろう…
静寂な空気の中…いつもの朝と異なるのは、そろそろ活発に動き出す、鳥や鳥の声が森の方からは聞こえないことだ。
逆に、ギュラー砦は全員が起きており、夜襲隊の帰りを…朗報を待ちわび、受け入れの準備をしていた。
すると…約1キロ先の森の街道入り口から3騎の騎兵が駆けてくる。暫くすると、その後に数騎ずつまとまって駆けてきた。
まるで、間を繋がない、点のように…ポツポツと、駆けてくる騎兵が続く。
正門城壁の上で待っている博影とベレッタは、夜襲の失敗を悟った。
ギュラー砦に近付くにつれ…騎士が馬が、満身創痍である事がわかる。
先頭の3騎が、砦正門に駆け込んで来た。待ち受けるイング公爵に報告する。
「夜襲失敗、敵の待ち伏せを受け部隊は、大混乱に陥りました。夜襲隊撤退中、敵の追撃を受けています。援軍をお願いします」
そういうと、騎兵は馬から落ちる。すぐに、治療所に運ばれていく。
「負傷兵、受け入れ準備。治癒師は、治療所で待機せよ」
イング公爵が、伝令兵に指示を出し、退却してくる騎兵を確認する為、正門城壁へ上がった。
イング公爵の眼前には、森へ続く街道の中を、まばらに騎兵が駆けていた。
全てで、50騎程だろう…敵の姿は見えない。
その、最後尾の騎兵から、離れる事200m…森の街道から、50騎程の密集体型で、駆けてくる隊があった。
そして、その後方100mに、追撃部隊と思われる約200程の騎兵が現れた。
「200くらいか! 蹴散らしてくれるわ」
伝令に、正規騎兵200、傭騎兵100、歩兵500を正門外へ集合させる。城壁の上より剣を抜き、檄を飛ばす。
「全軍突撃! 調子にのった追撃部隊など、一兵も返すな!」
騎兵隊300が、全速で駆け出し…歩兵部隊が、みるみる離されながらも続く。
その時…
右側の森より雄叫びがあがり、約2千のモスコーフ帝国軍の増援部隊が、街道を退却する騎兵隊を襲い掛からんと、飛び出して来た。
「くっ、罠か! しかし、増援は騎兵300、他は歩兵、まだ距離もある。一撃し離脱すれば、味方を引き入れ城門を閉める時はある」
城壁上から旗を振り…
…味方歩兵の帰還と、味方騎兵へ一撃離脱し帰還せよ…
と、指示を出す。又、城壁の兵に、敵がなだれ込んで来た事を想定し、残りの場内の兵全てに正門内側の広場で迎撃態勢を取るように指示する。
正門城壁の上では、博影とベレッタが、遠く森へ続く街道を見つめたままだった。
「…いない…」
まばらに退却してくる騎兵隊の中に…最後の50騎程の騎兵隊の中に…カローイ、ダペス家の騎兵は見当たらなかった。
「カローイ…」
ベレッタは、断崖から落ちるが如く、深い絶望に沈んだ。両手を胸にあて、奇跡を祈った。
ギュラー砦内が慌ただしくなる。
夜襲隊撤退援護に出撃した歩兵部隊は場内に戻り、その広い正門裏で迎撃態勢につく。
騎兵部隊は、撤退してきた満身創痍の騎兵に、すれ違いざま声をかけつつ全速で敵追撃隊へ向かった。
最後尾の50騎の味方とすれ違った直後、敵の追撃騎兵部隊の中央から、左側をかすめるように突撃していく。敵騎兵の盾を持たない左側から突撃し、ランスで30騎ほどの騎兵を馬から落とし、敵左側の足を止める。
そして、そのまま止まらず左側に弧を描き、全速で撤退態勢に入った。
「あの騎士隊の指揮官、やるな…」
その様子を見ていた右側森に待ち伏せし、打ち合わせ通り追撃態勢を取っていた傭騎士隊の部隊長は、敵であるがその統率力に感嘆した。
一旦は、敵追撃隊の右側の部隊まで戸惑い、騎兵のあしが鈍ったが、すぐに態勢を立て直し、救援隊に迫りつつあった。
「くっ、このままでは、敵の右側の部隊に追いつかれる…」
イング公爵が絞り出すように呻いた。
…このままじゃまずい、追撃部隊の右側を止めないと…
博影は術袋から、アーチェリーとダペス家より貰った長弓用の矢と黒い術袋に入っていた矢を出した。
自分は、人の命や人生に関わる仕事をしてきた、この世界でもそうしてきた。
その自分が、人を撃つ…人を殺す…
その道具に、父の形見を使う…
「父さん、ごめん…」
背筋を伸ばし、両手で押し広げるように絞った。父の改造した、望遠機能を持つ照準器で狙いを定める。
「距離200…」
バシュ…
放たれた矢は、真っ直ぐ敵の前列に向かい…敵の甲冑に当たり砕かれた…敵は止まらない。
「やはり、聖石で防御力を上げているか…」
この世界では、弓は歩兵にしか効かない。騎士は、聖力を使い聖石を埋め込んだ甲冑や武器を使う。聖石で防御力の上がった甲冑は、矢を通さないのだ。
博影は、足元より魔法陣を出し、魔法陣を、矢の先10mで時計回りでゆっくり回転させ始めた。剣を使えない博影は、弓で戦うしかない。
甲冑を貫く為、王都で練習した事を……今…
黒い術袋から取り出した、矢尻が黒い矢を引き絞り、回転が速くなっていく魔法陣の中央へ放った。
矢は、魔法陣中央を貫く際……吸い込まれる様に加速し、さらに矢を薄い黒い霧が包む。
まるで、矢先から、黒い霧が流れ出しているかの様に…
矢は、一瞬で敵前列の騎兵の体を貫き…そのまま、後方の2人の騎兵をも貫き、地面へ刺さった。
貫かれた騎兵の体には、拳大の穴が空き。血を吹き出しながら倒れた。
周りの騎兵は、何が起こったかわからない。第2、第3、第4と、約20秒間隔ごとに、矢は放たれた。
その度に、数人の頭を、腕を、足を吹き飛ばし、体に穴を開け、追撃隊前列に血の水溜りをつくった。
前列の騎兵は、ようやく矢で撃たれている事に気付きはじめ、術袋から盾を出し構えた。
しかし、黒い矢は、その盾さえも貫き、騎兵の体に突き刺さる。
「全軍、下乗。ランスを置き、盾を全力で構えろ!」
追撃隊指揮官が、大声で命令する。全軍下乗し、術袋から出した大楯を前面で構え、聖力を集中させた。
博影が放つ黒い矢は、大楯に深々と刺さるが、もはや貫く事は出来なくなった。
夜襲隊、救援隊とも場内に飛び込んだ直後…
「橋を上げ、城門を閉めろー」
イング公爵が、叫んだ。
城壁上にいる兵士やベレッタは、博影が射た弓の威力に…呆然としていた。
敵追撃隊と、森からの増援隊は、ギュラー砦前方、200m程の所で、大楯の防御陣を引き…止まった。
一瞬の間が出来…
次の瞬間、間が崩れた。
森から、20騎程の騎兵隊が飛び出してきた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
688
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる