異世界召喚戦記

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第3章 ギュラー砦攻防戦

第6話 ギュラー砦攻防戦 1

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異世界召喚 27日目



森の樹々の隙間からさす、木漏れ日に照らされながら…腰に剣を携えただけの、装備を解いた騎馬隊、歩兵隊が進んでいる。

マクシス伯爵、以下4000の兵は、僅か、1週間前に出立したアラドを目指していた、

「タタン公爵、まさかこれ程はやく来られるとは、それも、増援ではなく軍ごと交代ですからな」

マクシス伯爵の騎馬に並び、騎士がボヤく。

「いつものことだ。私は、さっさと休めて良いがな。しいて言えば、ギュラー砦の者達が、どんな戦をするのか、見れないのは少し残念ではあるな」

伯爵は、黒騎士の百人斬りを思い浮かべた。

「だが、何も起こるまい。もはやギュラー砦には、正規の騎士は、約200…野戦が出来るはずもない、又、砦に篭っても市民兵2000ではな。タタン公爵は、何もせずとも、砦は二時間持つまい」

やはり、マクシス伯爵も腹に納めている物があるようだ。

「内通者も、放っておりますから一時間も持ちますまい」

「そうだな…」

伯爵は頷きつつ、あの異様な黒騎士は、どういう者なのか、一度話してみたかった…と、考えていた。

森を抜けた。目の前に、広大な耕作地が広がっている。

「伝令兵。騎兵隊は、先にアラドへ向かう。歩兵部隊長へ、規律をしっかりと正し、アラドへ向かうように伝えよ」

伯爵は、伝令兵に指示を出すと、馬の歩みを速めた。アラドまで、騎馬なら日が落ちるまでにつくだろう。


日が傾きはじめた…


ギュラー砦、本館の一室、ベッドに博影が横たわっていた。傍では、ベレッタが治療を行っている。

「……んっ…」

「博影、目が覚めた? 体の具合はどう?」

博影は、半身を起こし手足を軽く動かした。

「大丈夫だ、体中に痛みがあるが、体は動く。ベレッタが、治療してくれたのか? ありがとう、カローイ達は?」

「みんな大丈夫よ、二、三日で動けるようになると思う。それと…」

ベレッタは、博影の左手を両手で握り…

「博影、カローイを…みんなを助けてくれてありがとう。でも、もしあなたになにかあったら、沙耶が悲しむわ。
あなたも…沙耶をこの世界に、1人には出来ないでしょう。もう、無茶はしないで」

ベレッタが、顔をあげ微笑んだ。

「わかってるよ。今回は、たまたま結果が良かっただけだ、無茶はしない。沙耶を1人には、出来ないからね。
自分には、沙耶と生きていくこと、沙耶を前世界にかえすことがあるから…」

博影は、笑った。

城壁で哀しみに、途方にくれたあのベレッタの姿…沙耶に、同じ思いをさせるわけにはいかない。

博影は、ベッドから立ち上がった。

「博影、まだ寝ていないと…」

ベレッタが慌てる。

「いや、大丈夫。ベレッタの治療のお陰で動くよ。それより、カローイ達に会いたい。
いや、その前に明るいうちに城壁に上がりたい。自分に何が出来るか分からないけど、現状を知り、考えたい」

ベレッタは、深いため息をつき…

…言ったそばから、無理するし…

と、ブツブツ言いながら、博影の体を再度確認をしてから連れ出した。

ギュラー砦は、渓谷を塞ぐように建てられている。

砦両側の山は、まるで壁の様に切り立ち、人や動物が近づく事を拒んでいる。
渓谷の中央には、幅20m程の川が流れており、砦は、その川も含め塞いでいる。
城壁中央下部には、口のように穴が開けられ、鉄柵がはめられ、川がゆっくりと流れ出していた。

又、正門城壁から、後門城壁まで約800m程あり、200mごとに、内部を仕切るように城壁がつくられ、まるで、枡を4つ並べたようになっている。
正門から、1つ目、2つ目の枡は、敵を迎え撃つ為に城壁以外何もなく、3つ目の枡に本館や、兵舎などが立ち並んでいる。

その為、正門を突破されても、正門から3つ目の枡に辿り着くまでに、城壁から、敵に矢を降らせる事が出来る。
このような、渓谷を利用しつくられたギュラー砦は、難攻不落の砦として、知れ渡っていた。

しかし、敵の騎士に矢は通用しない。

ギュラー砦の守備隊は…

騎士…200名
傭兵…100名
歩兵…2000名

治療中…騎士約100名

もはや、砦落城は…時間の問題となった。

博影と、ベレッタが正門城壁に上がった。

「これは…」

戦の後を見に来た2人の前には、朝とは違った光景が広がっていた。

「マクシス伯爵と、入れ替わりで来た、タタン公爵率いる約7000の軍です」

見張りの兵が、憎々しげに言う。

「やっら、森との境とはいえ、砦の目の前に野営地を作り…さらに、馬防柵も作っていない」

夕日がひしめき合うように立つ、数多くの天幕や騎馬を照らし、あちこちのカマドからゆっくりとあがる煙と、ゆっくりうごめく多くの兵を包んでいる。

博影は、しばしその光景に見入っていた。

そして、ベレッタと共にカローイの部屋へ向かった。


………


「そうか…」

ベッドに横たわるカローイは、砦の前に敵が野営地を築いた事を聞き、短く答えた。
周りのベッドで治療を受けている、ダペス家の騎士達は憤慨している。

「イング公爵、ルデン辺境伯の所へ行ってくる」

カローイは、起き上がりふらふらとベッドから立ち上がった。ベレッタの制止をやんわりと止め、カローイが歩き出す。
博影が支え、不満そうなベレッタもカローイを支え、ルデン辺境伯の執務室に向かった。

執務室前の衛兵に取次を頼む。

すぐに入室が許され、3人は執務室に入った。
執務室にはベッドが入れてあり、ベッドに横たわるルデン辺境伯と、傍の椅子に座るイング公爵が、今後の事について話し合っていた。

「カローイ、博影もう動けるのか?若いな」

辺境伯が、気軽に声をかける。

「歩くだけで、やっとです」

2人に支えられながら、カローイは頭を下げた。

「3人とも、そこの椅子に座れ。カローイ、なにか考えがあって来たのだろう?」

ルデン辺境伯と、イング公爵はカローイを見た。

「はい、失礼ながら私の考えを述べさせて頂きます。今回の夜襲へのモスコーフ帝国軍の対応ですが、
夜襲を読んで罠を仕掛けていた事は、モスコーフの盾と呼ばれる、クィントス・マクシス伯爵であれば、悔しいですが理解できます。
しかし、夜襲隊を森でやり過ごして、追撃隊をギュラー砦前の森に配置するなど、援軍の陣容、夜襲隊の陣容などを詳しく知っておかないと、とても軍を二手に分ける事は出来ないと考えます」

「うむ、そうだな。その事を、ルデン辺境伯と話していた所だ」

イング公爵は、ルデン辺境伯を見た。

「第3次ギュラー砦防衛戦も、マクシス伯爵であったが、もっと手堅い戦であった。マクシス伯爵は、少数だとしても相手を見くびる事はしない。
しかも、今回はおそらく夜襲隊出発の知らせを受けるとすぐに、軍を二手に分け、追撃隊を出発させている」

ルデン辺境伯は、マクシス伯爵と戦った経験を持つ。刃を交えた相手だからこそ、戦の違いを感じていた。

「辺境伯、追撃部隊には多くの歩兵がいました。あの陣容からすると、こちらが、夜襲の準備を行う時から、こちらの夜襲を知り動いていたのではないかと考えます」

カローイは、砦内の内通者を疑っている。

「たしかに、あれ程の歩兵を連れての森の中の行軍…すると…ますます、ギュラー砦内の情報を外に流す者…内通者が、いるという事だな。
しかし、その内通者が誰か見当がつかんのだ。傭騎兵、市民兵、そして騎兵…誰でも疑う事が出来る」

イング公爵は、腕を抱え込む。

「内通者は、数人でしょうか?」

それまで黙って聞いていた博影が、不意に会話に入る。

「1人、2人…ごくわずかだと考えている」

イング公爵が、腕を組みながら博影に答える。

「タタン公爵率いる約7000の部隊は、砦の前に野営地を築いています。その陣は、隙があるように見える…そして、いくらこちらが少数とはいえ、いや、少数だからこそ奇襲を警戒する。
タタン公爵の首狙いの奇襲があると警戒する。と考えますが、馬防柵も築いていません。
これは、逆に残りの騎兵全軍での奇襲を誘い狙っているのかと…」

博影は、言葉を選びながらゆっくりと話す。

「なるほど、たしかに無防備な野営地は誘いかもしれん。しかし博影、誘いと内通者の数との関係は?」

ルデン辺境伯が尋ねる。

「内通者が多ければ、どんな奇襲であっても、内部から、又は後方から奇襲隊を攻撃し混乱させられるので、タタン公爵は慌てる必要はないでしょう」

「なるほど、博影の話よくわかる。しかしだ、イシュ王国内の貴族で内通している者がいるかもしれん、だがここでその貴族の部隊が裏切ると王国内の貴族は領地ごと滅ぼされるだろう。もし、裏切るなら王都直前の戦からだろう。
市民兵も同じく、家族を残して来ている。
傭騎兵は、ギルドを通じて雇った者、もし、ギルドの依頼を裏切れば2度とギルドから仕事は貰えぬし、これだけの戦の裏切りなら、ギルドから刺客を向けられ殺されるだろう。
と、考えると個人か2人くらいではないかと考えている」

辺境伯が答えた。

「まぁ、どちらにしても、良い話ではないな。それに、砦に篭っても数で押され結果は見えているしな」

イング公爵は、ため息混じりに苦笑する。

「そこでです。自分に大筋で案があるのですが…」

「よい、話してみよ」

ルデン辺境伯が、ベッドから起き上がり博影の案を待つ。

博影が、椅子から背中を少し離し…ゆっくり口を開いた。


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