異世界召喚戦記

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第5章 モスコーフ帝国へ

第6話 見捨てられた者達

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異世界召喚 100日目

イシュ王都を出発し、3日目



店じまいをしている馬商人を、無理やり起こす。

…このシチュエーションも二度目だな…

と、博影は苦笑し馬を2頭買う。

二人ずつ馬にのり森へ向かう。二人ずつというのは…結局、システィナだけでなくルーナとチェルもついてきた。

今宵は、月夜…右半分が輝く、上弦の月夜である。星座は見知ったものはなかったが…月夜は同じだな…と思う。
前世界に比べれば、少し小さい月ではあるが…

女性の名は、ブレダと言った。
ブレダ・博影を先頭に、馬を駆けていく。チェルは、馬を驚かさないように離れて駆けてくる。

そして、小さな小川のそばから森の中へ入ると、三角錐の天幕があった。
馬を近くの木につなぎ、術袋から干草や果物を取り出し与えておく。

天幕に入る前に、薄くアルコールで濡らした布で4人とも口を覆う。
水で濡らす程度でよいのだが、念には念を入れる。ちょっと刺激が強いが、我慢できる程度だ。

天幕に入ると、男2人、女1人寝ている。3人とも手や顔にしわがより、とても、20代には見えない。そして、意識が朦朧としているようだ。


さっそく、3人まとめて魔法陣でスキャンする。

胃には問題はない…小腸…か…小腸に多くの菌が繁殖しているようだ。
小腸の壁に菌がつき、毒素を吐き…その毒素で、小腸の壁がやられ水分が大量に失われているようだ…脱水症状が見られる。

…やはり、コレラのようだな…

博影は、システィナとルーナに、まず小川の水を汲み、天幕の外で術袋から出したかめに入れ、燃える水と薪で水を沸騰させるように指示した。
中に少量の塩を入れる。そのかめを天幕内に運ばせ、魔法陣を起動する。


小腸に繁殖している菌を消滅させるイメージを作る。かなり、多量に繁殖している。
そして、損傷している小腸の組織を修復…小腸の機能を活性化させる。

魔法陣を、かめを置く場所まで広げる。
沸騰させたかめの中のお湯を、人肌以下に冷まさせ、ゆっくり3人の胃へ、小腸へ流し込んでいく。

活性化された小腸は、塩を含む水分を徐々に取り込んでいく。
二時ほどかけ、ゆっくりとすすめ、最後に全身の機能の活性化と、皮膚の活性化を行い終了する。

傍らで、心配そうにブレダが見守る。

「ブレダ。これでおそらく元気になっていくと思うよ」

と、博影がブレダに告げると…ブレダは、泣きながら何度も、何度も、土に頭をつけ博影に感謝をする。
喜び、泣くブレダを起こし…

「明日からは、消化の良いものを食べさせていくといい。それと、水は煮沸したものを使用すること。生野菜は、食べないこと。
嘔吐したものや、糞便は直接触らないように処理する。
また、その嘔吐された場所や周りの道具などは、強めのお酒をまくか、布に湿らせて拭いて消毒すること!」

と、今後のことも考えブレダに指示した。

魔法陣で、身体を活性化させたまま…一時ほどすると、体温が下がり、冷たくなっていた3人の体は体温が戻り、しわしわになっていた皮膚も血色を取り戻していった。顔に生気が出てきた。

…うっ…ううっ…

3人とも意識が、はっきりしてきたようだ。

「クーノイ、ウーノイ、ティラ…私がわかる?」

ブレダが、3人へ声をかける。

「ブレダ…俺達は助かったのか…」

クーノイが、うめくように話す。

「そうよ、もう大丈夫、大丈夫だよ。この人が、博影が助けてくれた…」

ブレダは、嬉しさのあまり泣きじゃくり、もはや声にならない。

「そうか、我ら3人を助けていただき…なんとお礼を言ってよいのか…博影殿…感謝の言葉もない…ありがとう…」

「今はまだ、しゃべらないで。別な天幕を用意したので、そちらへ移動しよう」

システィナと、ルーナに横に別に天幕を用意させていたので、そちらへ、一人一人抱えながら移す。
せっかく、回復に向かっているので、清潔な環境で万全を尽くす。
3人は、あたらしい毛布と、暖かな天幕でゆっくりと眠り始めた。

「ブレダ、明日の朝、再度様子を確認したいから、今夜は、横にもう一つ天幕を張って寝るよ」

ブレダにつげ、天幕を出ようとすると…

「博影様、お待ちください」

ブレダに呼び止められる。

「実は、まだ助けていただきたい者がいるのです」

ブレダが、また博影の足元にうつ伏した。しかし、ブレダは、うつ伏したまま…なかなか言い出せない。

…そうか、もしや…

博影は、察した。

「ブレダ、もしかして村の者が…多くの村の者も、コロリ病にかかっているのか?」

博影は、ブレダの左肩に手を置く。

「…はい、その通りです…」

ブレダは、さらに地面にうつ伏した。

「そうか、わかった。村の者達は、どこにいる?」

博影の言葉にブレダは救われる。

ブレダによると、ここより山の方角に馬で半日の距離にある、ゴルジという湖の湖畔にいるという。
システィナと、ルーナに3人の世話を任せ。ブレダとチェルと、今からゴルジ湖畔へ向かうことにした。

ブレダ達が、ここまで来た際に乗ってきたヤギが、天幕の奥に繋いであるという。
途中、険しいところもあるので、そのヤギに乗っていくことにする。


…ヤギか…かなり時間がかかりそうだが…


しかし、暗闇の中にたたずむ、そのヤギは…馬ほどの大きさと、黒い…大きな巻貝のような角を二つ頭に生やし、とても、ヤギとは思えない、威風堂々とした生き物だった。

速さは、馬に負けるが、持久力、瞬発力ともすばらしい能力だった。
博影は、魔法陣を多用し、黒ヤギ二頭の体を活性化させ、ゴルジ湖畔へ急いだ。約三時間でつく。

そこは…まるで、見捨てられた者たちが集う場所であった。墓場であった。


ブレダによると…

一月前…部族内に、コロリ病にかかったものが現れ、なんとか、治そうと試みていたが瞬く間に、周りの者達へ広まった。

部族が生き残るため…コロリ病にかかったものを、この湖畔に集め…他の者は、避難している。

ブレダ達が、一縷の望みをかけて、あちこちの都市を回り、薬や治せる治癒師を探していたらしい。
しかし、その途中…
クーノイ達三人もコロリ病を発症した。

ブレダは、途方に暮れ、近くの宿場町セベリに来たところ、瀕死の少年の治療を行った博影に会った…との事だった。

5つの大きな天幕があり、その中を覗いていくと、生きているか、死んでいるかわからない干からびた人々が、隙間なく体を横たえていた。

三つ目の天幕の中を覗くと、一人ゆっくりと立ち上がり、近寄ってきた。

「父さん?」

ブレダが、声をかける。

「ブレダか、なぜ戻ってきた。すぐに、去りなさい」

父さんと呼ばれた男が、弱々しいがしっかりとした口調でブレダに声をかける。
どうやら、一人残り、亡くなっていく者を見取っていたらしい。

「父さん、コロリ病を治せる治癒師に来てもらった。博影様、お願いします」

「治癒師?…治癒師殿…来ていただき、ありがとうございます。しかし、残念ながらもはや手遅れです。全員、意識が混濁しています。
あなた様にコロリ病がかからないうちに、どうかこの場を離れていただきたい」

その男は、博影に深々と頭を下げた。

「まずは、やってみましょう。あきらめるのは、それからでも良いでしょう」

博影はそう言うと、術袋から先ほどと同じようにかめや薪、塩、燃える水を取り出し、ブレダに水を汲んでこさせお湯を沸かす。

五つの大きな天幕のほぼ中心の位置にかめを持っていき、そして、魔法陣を出現させる。

魔法陣を拡大させ、五つすべての天幕が魔法陣内に収まるようにする。
およそ直径120m。これほど大きな魔法陣は、博影にとって初めてだった。

そして、クーノイ達に行ったと同じようなイメージを…およそ、300人に対して行っていく。

小腸に繁殖している菌を消滅させるイメージを作る。そして、損傷している小腸の組織を修復…小腸の機能を活性化させる。

そして、沸騰させた、かめの中のお湯を、人肌以下に冷まさせ、ゆっくり300人の胃へ、小腸へ流し込んでいく。

活性化された小腸は、塩を含む水分を徐々に取り込んでいく。
二時間半ほどかけ、ゆっくりとすすめ、300人全員の全身の機能の活性化と、皮膚の活性化を行う。

クーノイ達と違い、ほとんどの者はかなりの重症だった。まだ、全身の機能の活性化をし続けたほうがいい。
黒い術袋より、手のひらほどの魔石を取り出し、小腸のコレラ菌の消滅と、小腸の活性化、全身機能の活性化、皮膚の活性化を、イメージし博影の魔力を魔石に流し込む。
そして、魔石はかめの中に入れる。

これで、およそ5年は、このかめを中心に120mの範囲で効果が続くだろう。

ブレダが、父さんと呼んだ人は、テュルク族の族長でウルディと名乗った。

族長ウルディと、ブレダにお願いをする。

「まだ、これで終わりではありません。環境を清潔にしなければならない、部族のものを呼び戻し
新しい天幕へこの人たちを移し、体を清潔にし、着替えさせてください。
そして、この天幕や着ていたものはすべて燃やしてください」

叉、再度口から移ること、嘔吐物や糞便の処理をしっかりすること、アルコール消毒のことなどの、注意点を伝える。

どうやら、徐々に意識を取り戻してきた者が出てきたようだ。すこし安堵し、その場に座り込んだ。

いつのまにか、チェルが傍らにきており、まるで…ご苦労さん…とでも言うように、博影の顔をなめる。

博影は、憔悴しきりもはやチェルをどける力も残っていない。ただ…もうチェル、十分だよ…頭をなでるだけだった。

「そっ、その魔物は雷獣か? 雷獣の幼生か…? 博影どのには、驚かされることばかりだな…」

ウルディと、ブレダは、何度も、何度も博影にお礼を言い続けた。

そろそろ、周りが明るくなってきた。博影たちも、急ぎの旅の途中である。ウルディに、用事が済んだら叉、寄る旨を伝える。
魔石を入れたかめは、5年は使えるので、みなが元気になったら、もって行くように説明した。

疲れ果てていたが、急がなければならない。ブレダにお願いし、叉宿場町セベリに向かった。

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