異世界召喚戦記

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第7章 ロムニア国 建国編 湾岸都市スタンツア・ガリア

第13話 湾岸都市スタンツア・ガリア城内にて 2

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異世界召喚 125日目

イシュ王都を出発し、28日目

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領9日目
城塞都市ロムニアを出陣し4日目



「では、確認いたします」

カキアスは、会議の内容をメモした書面を読み上げた。

「まず、
1.モスコーフ本国へ送るために集められている荷は、ロムニア城へ7割送り、3割はこのスタンツァ・ガリアに備蓄する。
2.この荷は、各村々からの税ですが、今後集められた荷は相場の1割で買い貨幣又は物品を税を収めた村へ支払う。
3.武装解除を受け入れ、恭順の意を書面でしたためた辺境騎士・市民兵は武装は認めないが、今までの役に付き施政を務めることで、ロムニア国より賃金を払う。
4.捕虜交換が3カ月以内に行われなかった場合、3ヶ月後、恭順の意を示し役を務めていた者は、解放する
5.3カ月間、騎士・市民は城外へ出ることを禁ずる。
6.恭順の意を示さないものは、幽閉する。
7.夕刻8時以降、早朝5時までは外出禁止とする。
8.反乱・逃亡を企てた者は一族含め処刑とする。
9.他、犯罪を犯した者は、現行法又はイシュ国法にて裁く。
大まかな取り決めは以上です。
なにかありますか?」

「特に異論はないが、本当にこれでよいのか?
敗者を幽閉せず、武装解除しているとは言え、施政に努めさせ報酬を払い、家族と暮らさせる。
我々にとってはありがたいが、このような事は聞いた事がない。
なにか…裏があるのではないかと、勘ぐってしまうが…」

パルナックの言うことはもっともだった、紙面で恭順の意を示したものは…と言っても、紙切れ一枚になんの効果があろう。
処罰する際の問題を少なくするだけで、口約束と何ら変わりはない。

少なくとも3カ月後には解放するという…と言うことは、
3ヶ月後、モスコーフ帝国はたやすくスタンツア・ガリアの内情を知ることになる。
捕虜として価値のある者のみを残し、奴隷として使役するか、追放、又は処刑した方があとあと面倒がないだろう。
部下の命と引き換えに、降伏したパルナックであったが、なにか大きな裏を考えずにはいられないやり方に、疑心暗鬼にならざるお得なかった、

「特になにもありませんよ。
あえて言えば、反乱を起こせば…容赦なく、家族を含め皆殺しにします。
パルナック殿も、黒騎士様と戦を行った相手がどうなったかは聞いているでしょう。
その噂は…誇張されたものではありません。
ギュラー砦での戦やルピア公国での戦において、敵軍をほぼ皆殺しにした事は事実ですよ。
商人たちが…あまりに焼けただれ痛んだ又は、腐敗した騎士の遺体から、聖石の加護を持つ武具を外すことが、大変だったという話が伝わっているのではないですか?」

あくまで今までと同じく優しく、丁寧に話すカキアスであったが、その目は、パルナックたちを鋭く貫くような厳しさがあった。

「たしかに、黒騎士殿の戦の有り様は聞いている。
末端の兵に至るまで、馬鹿な真似はしないように、しっかりと通達を出し監視する。
その代わり、約束通り乱暴狼藉がないように、家族の安全は保障してほしい…」

パルナックは、目を伏せ一礼する。
側近三人も、パルナックに倣い深々と一礼した。


「では、黒騎士様。
後は、私たちだけで施政方法について情報収集を兼ねて、話を詰めますので、黒騎士様は、先に休んでください。
明日、昼食時には全体的な報告が出来ると思います」

カキアス、ボレアは席から立ち礼を取り、黒騎士達の退席を促した。

「すまない。カキアス、ボレア、では甘えて後の事は任せる」

黒騎士、マリナ、システィナ、ルーナ、チェルは残る者達へ軽く一礼すると、壁際に立つダペス家騎士の案内で退出した。


………


「では、この部屋をお使いください」

館の3階へ黒騎士達を案内した騎士は一礼し、先ほどの2階の執務室へ戻った。
部屋は大きく、二部屋続きであった。
手前は、大きなテーブル・椅子、ソファーがありくつろげるようになっている。
奥の部屋は、大きなベッドが三つあり寝室となっていた。

さっそく甲冑を脱ぐ、ルーナが手伝いをする。

「ふぅ~さすがに、疲れたね」

崩れるようにソファーに腰を降ろすと、そのまま背もたれに体を預け全身の力を抜く。

「博影様、甲冑の手入れはしておきますから、ゆっくり休んでください」

「あぁ、ルーナありがとう」

博影は、システィナから差し出された一杯の水を飲み、体を拭くために用意されている桶の傍まで行くと、無造作に服、肌着を脱ぎ全裸になると体を拭きだす。

その様子を見ていたシスティナは…

「博影。あたりまえのように脱ぎだすものだから、声をかける暇もなかったぞ。おまえ、私たちが女ということを忘れていないか?」

苦笑いしながら、システィナも甲冑を外しだす。

「いや、忘れてはいないよ。すまない、疲れて頭がまわっていない」

システィナ達に背中を向け、そのまま体を濡れた布で拭く。ルーナは、博影の傍によると…

「お背中、拭きます」

と、かいがいしく博影の背中…首回り…髪などを拭いていった。

ギギッ…

扉を開け、チェルが狼2頭を連れ部屋に入ってきた。
城外に待たせていた、狼を迎えに行っていたようだ。

「ハラ…ヘッタ…」

体を拭き終わり、新しい服に着替えた博影の傍により、チェルは食べ物をねだる。
博影は、黒い術袋から多くの干し肉と果物を取り出し、チェルと狼2頭へ渡し、自分たちの食べる分は、テーブルに置く。

食欲よりも、眠気が勝る。
軽く食べ、ルーナに二時ほどしたら起こしてほしいと頼み、すぐにベッドに横になった。


………


「博影様…博影様…」

ルーナの呼ぶ声で起きる。

「夕刻、7時です」

大きなベッドから、ゆっくり体を起こす。
傍らには、システィナが寝ており…足元には、チェルが丸くなって寝ている。
二人を起こさないように、ゆっくりベッドから立ち…

「ルーナありがとう、何か報告は入った?」

ルーナに聞きながら、隣の部屋へ移動する。

「特に大きな報告は入っていません、混乱なく進んでいるようです」

椅子に腰かけた博影に、ルーナは水を差しだす。

「カキアス、ボレア殿は、パルナックを連れ港を見に行っています。
ダペス家騎士20名で、館の警備や貴族・騎士エリアの見回り…
ダペス家騎士10名で、パルナックの側近3人を伴い、降伏した騎士達へ会議で取り決めた9項目の説明と、恭順の意を示す覚書、へのサインを騎士エリアのパルナック邸で行っています。
ダペス家騎士10名とウルディ、ウーノィ率いるテュルク族50名は隣のガリアの警備へ。
クーノィ、ブレダ率いるテュルク族50名は、このスタンツアの市民街・城壁の警備へ。
マリナと護衛のダペス家騎士10名は、スタンツアとガリアの視察へ行くと言っていました。
あと、港の船の出入りは止めています」

ルーナは、報告内容が抜けていないか、手元のメモを確認する。

「ありがとうルーナ、俺が休んでいる間にみんな、動いてくれている。俺も、貴族・騎士エリア、市民街の様子を見に行こう」

博影は、黒の皮鎧をつけ左腰に黒の剣を携え、部屋の入り口の両脇に見張りのように陣取っている狼2頭の頭を撫でると…
同じく皮鎧をつけたルーナを伴い部屋を出た。

陽が沈む時刻…うっすらと明るいが、ところどころに篝火がたかれていた。

貴族・騎士エリアを見て回る。

外にほとんどの者が出ていない、夕刻8時以降の外出禁令を出しているので、みな館へ入っているのだろう。
見張りに立つ二人のダペス家騎士に挨拶しながら、貴族・騎士エリアの城門をくぐる。
市民街は、まだちらほらと人が歩いているが、やはりこちらも、殆どの者が家に入り息をひそめているのだろう。

…ん、司祭クレイ?…

司祭クレイが、両手に大きな袋を抱え急ぎ足で道を歩いている。
ルーナが、司祭クレイを呼び止め先ほどのお礼を述べ、行き先を聞く。

「治療所に行くところです。薬草が足りなくて教会にある薬草をありったけ持っていくところで、見た目は大きい荷物ですが軽いのですよ」

司祭クレイは、舌をちょこっと出し笑う。

「司祭クレイ、今日の戦の負傷兵の治療ですか?
勝者に治療を受けることは、嫌かもしれませんが私も同行させてくれませんか?」

「黒騎士様、私たちに取ってはありがたいことです。お願いします、では急ぎましょう」

司祭クレイの持つ薬草が詰まった大きな袋を、黒騎士が待とうとすると、ルーナが、自分が持つと言ってきかない。

「黒騎士様! 一軍の将が、お手伝いなどやめてください。
鎧を脱いだ館の中ならまだわかりますが、今は鎧・刀をつけ、我々を統べる一軍の将としての任務中です。
言葉遣いもお気を付けください、もっと将らしく!」

治療所に向かいながら、ルーナからここぞとばかりに多くの小言を貰う。

ルーナとしては、今回のスタンツア守備隊との戦は、博影が騎兵150騎を率いて…将として初めての軍と軍との戦であった。
何事も最初が肝心である。
この機会に、市民感覚が強い博影にしっかりと将としての振る舞いを身に着けさせようと考えていた。


治療所敷地内まで、熱心なルーナの小言を聞きながら着いた。

「こちらです、どうぞ」

司祭クレイが、治療所の扉を開け黒騎士・ルーナを案内する。
治療所の中は広く、40名ほどの騎士がベッドに横たわっていた。

「黒騎士様が、応急処置をして下さいましたから、命の危険がある者は、3名程です。
負傷者は、皆止血がされているのですが、全身の打撲がひどいため、ヒールをかけたのち薬草で腫れを引かせようとしています」

そういうと、さっそくルーナが持つ袋を修道者たちへ渡す。
修道者たちは、薬草を大きな石の器ですりつぶしていく。
どうやら、すりつぶしドロドロにした薬草を、打撲の箇所に塗り、腫れを引かせようとしているようだった。

「司祭クレイ、命の危険があるという3名の者達はどこに?」

クレイは、黒騎士とルーナを部屋の奥に案内する。
黒い武具はこの世では大変異質なため目立つ。

助祭、修道者たちは黒騎士の姿が見えると、みな…少し怪訝な表情をした。
イリオスを信仰する者達にとって、

…イリオス神が姿を変え…スコル神となって現れた…

と言われても、今までそのような事は言い伝えにもないことであり、黒騎士の魔法陣の力を城内にいてみていない者達にとっては、

…信じろ…

と言うことが無理であった。

部屋の中央まで進んだ時…

「司祭クレイ、少しばかり待ってくれ」

そういうと黒騎士は、足元に魔法陣を出現させ、部屋をすべて包み込むほど魔法陣を拡大させた。
その場に居合わせた者達は、自分たちの足元に淡く光る魔法陣が出現し、少し床から浮き上がると、ゆっくり回転しだす様を見…
声を発することも出来ず、ただ立ちすくんだ。

黒騎士は、魔法陣の力で負傷している騎士達の体をしばし活性化させ自己治癒能力を高めさせる。
そして、この場にいる司祭ヘラデス、クレイやヒールを使用できると思われる助祭や修道者たちの身体も活性化させた。
そうすることで、ヒールの力も増すだろう。

…痛みが和らぐ…

あちこちのベッドに横たわる負傷した騎士達が、つぶやく。

「魔法陣の力で、治癒能力を高めた。今なら、ヒールや薬草の利きがかなり良いだろう。
戦は終わった、今は敵ではなく立場は違えども同じ騎士である。
みなの治療をよろしく頼む」

そういうと黒騎士は、司祭ヘラデスに頭を下げ部屋の奥へ進んだ。
司祭、助祭、修道者たちは、奥の部屋に向かう黒騎士の背中へ向け、両手を合わせ拝んだ。


戦場で黒騎士により応急処置を受けたことも驚きであり、訝しんでいた騎士達であったが…
黒騎士が治療所に現れ、再度魔法陣で治療をし、イリオスの司祭たちへ頭を下げたことで、負けたとはいえまだ、気持ちに力が入っていた騎士達は、みな一様に力が抜け…

戦が終わったことを実感した。

司祭クレイに案内され、奥の部屋に入った。
そのベッドには、助祭から治療を受けている、ウエン、エファー、フェンガーの3名が横たわっていた。

「うっ、貴様…黒騎士…ぐっ」

思わず起きようとしたエファーが、痛みのあまり呻く…

「何用だ黒騎士。とどめでも刺しに来たか!」

ウエンは、黒騎士を睨む。

「騎士は…負傷している者、戦えないものを手にかける事はない。
貴様たち、その言葉はわが将を愚弄していると受け取ってよいか!
黒騎士様の手を煩わせるには及ばない、私が、貴様たちのそっ首はねてやろう」

ルーナは微笑をたたえたまま、剣を引き抜いた。

「ルーナやめろ、ここは治療所だ。剣を抜いてよい場所ではない」

黒騎士が右手でルーナを制した。

「はっ、申し訳ありません」

3人を憎々し気に見据えたまま、ルーナは剣をしまった。3人は、ルーナの怒気に押され、押し黙った。


「別に殺そうというわけではない。ただイリオスの従者達が治療所で仕事をしていると聞き、スコル神として、手助けに来ただけだ」

そう言うと、黒騎士はゆっくりベッドへ近づいていった。


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