異世界召喚戦記

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第8章 ロムニア国 建国編 都市ガラン・ブザエ

第2話 都市ガランへ (アゼット川の盗賊)

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異世界召喚 133日目

イシュ王都を出発し、36日目

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領17日目
ロムニア国建国宣言より16日目
城塞都市ロムニアを出発し12日目
スタンツァ・ガリア占領9日目



…体が暑い…


甲板上で、チェルと二人寝ていた博影は、朝日に照らされ暑さで目が覚めた。
半身を起こすと、甲板後方や、上段・下段よりわずかに声が聞こえる。
どうやら、艦長以下、水夫たちは交代で朝食を食べているようだ。

「黒騎士様、朝食です。どうぞ」

副長が、黒騎士とチェル、二人分の朝食を持ってきた。

「昨夜は、雲一つない夜空でしたね」

夜、甲板上には二人だけと思っていたのだが、副長や水夫たちが見張りをしていてくれたのだろう。

「あぁ、甲板に寝そべり夜空を見上げたが…この夜空の下で眠れるなんて、すごく贅沢な気分になったよ」

「黒騎士様、我らもです。黒騎士様と共に船を進め…そして、この我らの船から同じ夜空を見上げる。
とても充実した気持ちになりました。
我らは、黒騎士様が、スタンツア・ガリアにお戻りになられるまで、必ず都市を、市民を守ります」

副長は、艦長から今回の目的は、アゼット川河口まで黒騎士を送り届け、その後は、スタンツアへ帰投すると聞いている。
それが、黒騎士からの指示であると…

それは、黒騎士が単独で都市ガラン・ブザエへ行くことを意味している。


黒騎士の…戦に勝ち、占領したスタンツア・ガリアに対する施政は、この世界では、かなり異質なやり様だった。
良く言えば、敗者に対しそれ以上追い立てる事はせず、情けを持って治める。
悪く言えば…

ただ、甘いだけ…

少なくとも、敵の施政を担当する要職の者や、守備隊の隊長、副隊長らは、通常、広場にて見せしめの処刑であろう。
毅然たる態度を見せなければ、反乱を企てる者が出るかもしれないのだ。

そして、昨日の出航時の出来事…
今、目の前で、黒騎士の横で眠る亜人の少女は、黒騎士を追いかけてきた。
普通の軽微な皮鎧しかつけていないが、おそらく黒騎士と共に黒い甲冑をつけ、大剣を短剣のように振り回し、スタンツァ・ガリア守備隊と戦っていた者だろうと思われた。

その者が、何があったのかはわからないが…
これほど傷つき…動けなくなるほどの状態になりながらも、黒騎士を追ってきた。

もちろん、副長はイリオスを信仰する者で、
黒騎士がスコル神の化身と言われれば…神と呼ばれるにふさわしい力を見せられれば…
そして、ロムニア国・建国に力を貸している…と聞けば、否定的な気持ちにはならない。

しかし、そういった気持ち以上に、目の前で見る、黒騎士に感じる気持ちが…わずかずつ……少しずつ沸いてきていた。
傍らで眠る褐色の少女や、テュルク族、ダペス家の者達…彼らも、黒騎士に従う彼らなりの理由があるのだろう。
この者達からはとても、黒騎士の力に畏怖し従っているようには、見えないから…


「ありがとう、俺が留守の間は、スタンツァ・ガリアを、人々を頼む。それと、朝食助かる。丁度、腹もすいていた。
さっそく、いただくよ」

副長は、黒騎士に一礼し後方へ下がった。

チェルは1日たったが、まだ立てないでいた。
だが、食事は…食べれるようになった。

「…ゴハン…」

チェルは、どうやら腕を動かす気はないようだ。

…やれやれ…

僅かなため息をつくと、黒騎士はチェルの口元へパン、チーズ、スープ等を運んだ。
だが、こういったのんびりとした時間を過ごすのも…悪くない…とも思われた。

1時間後…3番艦は、アゼット川河口に着いた。

「黒騎士様、もう下船されるのですか? 従者の方は、まだ体調が回復していない様子。もう一日、船に留まっては?」

艦長へ、下船すると伝えに来た黒騎士を、艦長は引き止める。

「艦長、ありがとう。しかしもう、食事はとれるようになった、大丈夫だ。
どこか、河口傍の森で半日休めば歩けるようになる。1日休めば、走れるようにもなるだろう。
それより…この船は目立つ。帝国の者に見られたくはない」

「黒騎士様、わかりました。ではせめてボートで、アゼット川河口を少し上ったところにある、森の傍までは送らせてください」

艦長の申し出をありがたく受け…
ガレー船から、降ろされたボートで河口を1kmほど登ったところにある、森の傍まで送ってもらう。

「副長ありがとう。帰りはくれぐれも気を付けてくれ」

「わかりました、黒騎士様もくれぐれもご用心なされてください。我々は、スタンツア・ガリアにて黒騎士様のお帰りを待っております」

川岸から、ボートが離れていく。
黒騎士は、再度、副長達に手を振る…ボートが見えなくなるまで…見送った後、川岸から、100mほど先の森へ…チェルを背負い向かう。

森へ入る…目の前に二本の大木が重なるように立っている。
根元から、20mほど上が、棚のように広がっているようだ。
魔法陣を頭上に出現させ…魔法陣に飛び込む…上に打ち出され、棚のようになっているところへ降り立つ。
大人が3~4人、寝れるほどの広さがあった。
チェルを傍らに降ろし、黒い術袋から干し藁を取り出し敷き詰め、上にシーツを広げる。
チェルを、そこへ寝かせると…黒騎士は、黒い皮鎧を脱ぎ、顔半分を覆うマスクを外し、黒い術袋へしまう…代わりに、

水筒を出し、チェルに水を飲ませる。そして、自らも飲むと、そのまま、眠りについた。


………


人のざわめき…馬のいななきで、目が覚める。

時刻は、午後3時を過ぎている。
毛布から上半身を起こすと、チェルは、端に寄りうつぶせで、声のする方を注視していた。
チェルの横へ、静かに移動する。
どうやら、通りすがりの者達が、馬に川の水を飲ませているようだ。
会話の内容は聞こえないが、装備が不ぞろいで、又、その下品な笑い方や身のこなしを見ると…
まるで、盗賊のようだった。

人数は…約30人…

…トウゾク………ショウタイ…ヲ…オソウ…

チェルには、聞こえているようだ。

「近くを商隊が通るのか…護衛をつけているとは思うが、盗賊30人は多い…」

…どうするか…30人の盗賊と戦う…おそらく、10人程度切り伏せれば、盗賊は逃げるだろう
そうすると、俺たちの噂が広まるかもしれない…

博影としては、黒い武器・防具を使うわけにもいかないし、又、都市への潜入の前に目立つことはしたくなかった。
戦うなら、一人も逃がせない。

博影が迷っていると、馬に水をやり終えた20人程が川岸から離れ、騎乗し草原へ向かっていく。
残りの10人程は、川岸に馬を進め、下馬すると…馬に水をやり始めた。

…迷っていると、手遅れになるな…

「チェル、動けるか?」

博影の傍らで、チェルは前方を注視したまま頷いた。

「先に、下に降りてくれ。まず俺は、ここから弓矢で射る」

博影は、黒い術袋からアーチェリーと、矢を10本ほど出す。
その間に、チェルはスルスルと幹伝いに降り…気配を殺しながら、ゆっくりと盗賊たちに近づいていく。

矢をつがえ…10人の中央付近に座る…隊長格と思われる者に…照準を合わせ……矢を放つ。

アーチェリーから放たれた矢は…首を貫き…首と胴体を切り離した。
傍らの者…2人程が、気が付いたが…とっさ事で理解がおぼつかない。
その間に、2本目…3本目…と、続けざまに矢を放ち、3人を射殺した。
ようやく森から弓矢で狙われていることを理解した盗賊たちは、馬に乗ると矢が射られてきた方向へ、森へ馬を全速で駆けさせる。

「手間が、省けたな」

博影は、わざと樹上で立ち、盗賊たちに姿をさらしながら…矢を放ち…わざと外す。
盗賊たちは、ほくそ笑み勢いが増し博影めざし駆けてくる。

そして…チェルが忍んでいる草むらに盗賊が差し掛かり、チェルは、最後尾の盗賊目掛け勢いよく飛び出した。
右手に持つ短剣で、盗賊の首を貫き…馬上から落とすと、手綱を握り馬を落ち着かせる。

その様子を確認していた博影は、矢を次々と放ち2人を射殺する。
ここに至って、ようやく盗賊たちは現状を理解し、慌てて先に商隊を襲いに向かった部隊の方向へ…川沿いへ、馬を向け逃げだそうとした。
しかし…判断が遅い。
追いついてきたチェルに、その大きな黒い剣でまとめて、体を吹き飛ばされる。盗賊たちの体が、バラバラに飛び散る。

博影は、黒いローブを纏い、木から降りると…チェルが、捕まえていてくれた馬にのり、急ぎ商隊がいると思われる方向へ急いだ。

10分ほど川沿いに駆けると…
悲鳴と怒号が混じった声が聞こえてきた。遠くに荷馬車が数台見え、馬に乗る盗賊が、商隊の護衛と思われる者達に襲い掛かっている。

「…サキニイク…」

そうチェルは博影に言うと、馬から飛び降り商隊に向かい疾走していく。
いつもの速さには程遠いが…それでも、馬が全力で駆けるよりも早い。

博影が商隊に追いつくと、そこには、体が真っ二つになった盗賊が12人横たわっていた。
チェルは、どうやら逃げた盗賊を追ったようだ。
博影は、剣を術袋に収めると、傍らの腕を怪我している者にちかづく。

「大丈夫ですか? 良ければ、治療させてください」

軽装の皮鎧を着け、やっと成人したばかりに見える細い体の博影から治療と言われ、訝しがる目を向けてきた男に…

…魔法陣を使うわけにはいかないし…力の方向性を念じられている聖石は、使いづらいし…
…親父殿から貰った、聖石には方向性は念じられていなかったな…

博影は、術袋から拳ほどもある聖石を取り出すと、その聖石を男にかざし、聖石に魔力を通す。
聖石の力を活性化させると、その力で…男の右腕の止血をし…神経、筋肉、皮膚を修復していく。

5分ほどで終えると…

「応急処置です。また後で続きをしますから」

そう言うと博影は、立ち上がり…

「治療します。出血の多い人から、優先的に治療します。出血の多い負傷者はいますか?」

その博影の声掛けに、荷馬車に寄り掛かっていた中年の男が答える。

「そこの若い奴らが深手を負っています。お願いします」

その中年の男も、左の肩口を負傷し服が血で赤く染まっている。
博影は、その中年の男に近づき…

「あなたの方が、かなり出血しているようですよ。止血だけ先にしておきます」

中年の男は、おそらくこの商隊を率いる者なのだろう。そういう風格があった。

「あなたは?」

「君は…?」

博影は、その中年の男に見覚えがあり…中年の男も博影に見覚えがあった。
しかし、今は話をしている暇はない。
中年の男の止血を終えると…
おそらく、商隊の護衛だと思われる若い男5人の治療を行い、他の者の治療も行っていく。
幸いに命を落としたものはいなかったようだが、それなりに大きな怪我を負っている者ばかりだった。
治療が一通り終わったころ…チェルが、全身に血を浴びて帰ってきた。
治療を終え、やっと腰かけた博影の横に足を投げ出して座る。


「…ツカレタ…」

そう言うと、胡坐をかき座る博影の足に頭をのせる。

「チェル、ご苦労さん」

術袋から水筒を出し、チェルに飲ませ自分も飲む。
目の前に先ほどの中年の男が立ち、かがんだ。

「君、ありがとう。盗賊から助けてもらい、さらに治療まで…本当にありがとう」

いつの間にか、男の後ろに商隊の全員、10人程が集まり、口々に博影とチェルへ礼を述べた。

「いえいえ、たまたま通りがかったので。それと、まさかまたお会いするなんて」

博影は、中年の男へ右手を差し出す。
男は、その手を両手で握り…

「いや、本当に奇遇ですね。私は、ガラドといいます。都市ガラン・ブザエに店を構え商いを行っています。
良ければ、名前を教えて貰えますか?」

ガラドを初め、商隊の者達皆、膝をつきかがむ。年下の博影とチェルに礼を尽くす。

「いや、みなさん楽にしてください。そういう風にされると私が緊張します。
私は、博影…この亜人は、私の護衛でチェルといいます。
ガラドさん、城塞都市グリナの酒場以来ですね。
あの時は、楽しく飲まさせていただきありがとうございました」

そう、このガラドと名乗った商人は、城塞都市グリナで博影が酒場をまわり、情報収集していた時に、酒場のカウンターで酒を飲み、話をした者だった。


酒場では…

「皆殺しの黒騎士…悪魔なのでは…」

酒場に集まっている人々が、みなテーブルごとに小声で話し…酒場は異様な雰囲気に包まれていった。

その時…

カウンターで、聞いていた博影は、初めて市民たちが、どのように自分の戦いの話をしているか聞き…
ただ…時が止まったように…なにも考えられなくなった、
胸が苦しくなった、
その時、隣で酒を飲むガラドが…

「悪魔か…私はそうは思いませんがね」

と言い…

「人の噂は、様々な人の感情が混じり伝えられていく。本当の事は…自分で考え判断していくことが大事ですよ」

と話した。
その言葉に、幾分救われた博影は、わずか1時ほど共に飲んだだけだったガラドをよく覚えていた。


陽が落ちてきた。あと、1時間半ほどであたりは暗闇に包まれるだろう。

「我々は、ここで野営します。本当は、他の場所へ移動したいところですが、荷馬車を壊されまして修理しないといけないので…」

そう博影に語るガラドは、本当に嫌そうだった。
たしかに、自分達が襲われた場所で野営は嫌だろうし、盗賊とはいえ、つい先ほど、人が多く死んだ場所での野営も嫌だろう。

「私たちも、ご一緒させてください」

「いや、それは願ってもない。心強い」

博影とチェルは、商隊の者達の手伝いをする。盗賊の死体を川へ流し、地面に染み込んでいる血の上に砂をかける。
そして、盗賊が乗っていた馬を集める。
3張りの天幕を張り、火を起こす。
すべてが終わると、博影とチェルは自分たち用の小さな天幕を、商隊天幕の近くに張った。

夕食は、商隊の者達が準備してくれた。
襲ってきた盗賊は全滅させたとはいっても…気は抜けない。
見張りを立て、酒は皆、寝酒程度に抑え就寝した。


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